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恋愛依存症

僕はこの人が好きなのだろうか? 
スラっと背が高く細身で、美しい女性だ。
落ち着いた声音で丁寧に話す。聴いていて心地が良い。
僕の接触恐怖症的な部分は、彼女に対しては既に全くと言って発動しない。

それは、好きと言ってよいのでは? とも思う。


話題は少し逸れるが、
僕の女性への好意は、いつも性欲とうまくリンクしていない。
だから、いつも悩んでしまう。
おそらくは幼児期に年長男性により為された、
もしくは為させられた行為に拠るものだと考えている。
決定的な部分は断ち切られたように不自然に失われているものの、
ズボン(下着もだったか?)を脱がされ見知らぬベッドの上に座っている自分と、
その後に顔は見えないが目だけが光る男性らしき人物が入室してくる記憶は、
今でも僕を不安にさせる。

僕は男性器を醜く穢らわしいものだと認識している。
自らのものも含めて。
屹立した姿は、さらに酷い。
そして相手を傷つけるもの、凶器のように感じる。
だから好意を抱く女性にそれを向ける行為には強い抵抗を感じてしまう。
しかし多くの場合、当の女性にとって自分に対して何の反応も無いのは
自尊心を傷つけられる事になるのも身を持って知っている。
そこにジレンマが生じる。
初めての彼女が辛抱強く、一年近くの時間を掛けて癒してくれたおかげで、
その後は問題を起こしていないし、
行為全体を取ればとても楽しいものだと思えるようになった。
それでも、好意と性欲は直結していない。

実は僕は好きになった相手と交際できたことがない。
その率、100%。
いつも声を掛けていただいて、それに対してOKかNOを出す。
特に自慢している訳ではない。
この気持ち、分かる人には分かるだろう。
かと言って不幸せだったと言うわけではなく、不思議と長く続いたケースも多い。
僕は自分に合った人を見極める能力に自信が無い。

高校生のときに初めて声を掛けてくれた子とは1ヶ月間だけ付き合った。
だから、この子が初めての彼女と言うべきなのかも知れない。
1回デートに行っただけで、手も握っていないが。
下校時、急に声を掛けられる立場になるなんて夢にも思っていなかったし、
初めてのことだったし、相手は記憶に無い子だった。
僕は片思いが残念な結果に終わった直後だったのでNOと言ったら傷つけてしまうかも知れないなんて偉そうにも殊勝なことを考えて、
その場でOKしてしまった。
つまるところ、混乱していた。
その判断は当然の如く誤りで、1ヶ月後にやっぱり違う気がするので、と別離を切り出すと、公園で盛大に泣き出されてしまった。
この一件で、安易にOKを出すとかえって相手を傷つけることを学んだ。


話を戻そう。
彼女はとても繊細な人のようである。
つらい状況になると、言葉を詰まらせ固まってしまう。
しかし、自らそういった状況を作り出してしまうところがあるようにも見える。
何故なら困ったことに僕は彼女を傷つけてしまうタイプの人間であり、
僕と関わることは彼女にしてみれば自分を追い詰めることでもあるからだ。
それは彼女のMasochisticな部分がそうさせているのかも知れないと思わないでもない。僕自身もタイプは異なれど明らかにMasochisticだから、勝手にそう類推してしまうだけかも知れないが。

思い違いをしている人もいるようだが実質的には、
MasochistのMはMasterのMであり、SadistのSはSlaveのS
であることも少なくない。


これまでの努力虚しく、僕は彼女がどんな人なのか全く分かっていない。
そこが問題だ。
しかし、それが故に関心を抱いてしまうのだと思う。

正直なところ視点を変えると全く異なる姿が見えてくる気がするし、
意識的に決まった角度からしか見せない部分もあるように思える。
それは彼女にとって単なる戯れなのかもしれないし、
何かしら理由のある自らに課した厳格な規則なのかもしれない。
ただ、それに対する嫌悪も、さらに言えば恐怖も感じない。
僕自身が動物的警戒本能を封印してしまっているのか、
元から欠損しているのではないかと心配にならないでもない。

この人はどんな人なのか。
何が好きで、何が嫌いなのか。何に傷つき、何に喜びを見出すのか。
そして一番重要なのは、何が本当で、何が本当では無いのか、
注意深く見極めること。
少しずつ、少しずつ探っていく。
触れるか触れないかの強さで。
可能なら触れられていることに気付かれない方が良い。
強く力をかけ過ぎて相手の形を変えてしまうなど、以ての外。
慎重に、慎重に。
しかし緻密に、精密に……。

こうしたこと放り出さずいつまでもずっと続けていくのが、
僕なりの最大限、そして最上級の愛情表現。
そんなの科学者が対象となる実験動物を観察しているようで気持ち悪い、
と思う人もいるだろうけど、人それぞれということで。
それに多かれ少なかれ皆んな意識してないだけで、
こうしたアプローチを取っているんじゃないかな? 

何をグダグダと小難しく考えている。ただシンプルに一言、
「好きです。愛してます」って言えって? 
おそらく今の彼女が求めているのはそんな安っぽい言葉ではないし、
信じられもしないだろう。
と、考えている。何となくだけど、たぶん違う。
そんな単純なことで済むなら既に実行しているし、
そもそもそれでは済まないだろう人だから僕は関心を抱いているんだと思う。

いわゆる男性が意中の女性(逆でも良いし、同性間でも良いんですが)に求める
そういったものとは違う。
「なに格好付けやがって」
と思う人とはおそらく一生話が合わないので、
「さようなら。おととい来やがれ」です。


ある日突然、彼女は僕の前からいなくなると思う。
それも、仕方がない。
それでも彼女のことを想う時間は幸せだ。
ときどき脳内で誰かが、
「そんな意味の無いこと考えるなよ」
と訴えかけてくる。

でも残念ながら、僕はそんなに理性的でも論理的な人間でもないんだ。



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