時のパワーズ・オブ・テン5

第五章:地球の公転と生命の営み (1 年)
地球が太陽の周りを一周する公転周期。この「1 年」という時間の単位は、地球の公転速度と太陽からの距離によって決定されます。ケプラーの第三法則によれば、惑星の公転周期の 2 乗 は、太陽からの平均距離の 3 乗に比例します。つまり、1 年が⻑くなれば、太陽からの距離は 遠くなり、逆に 1 年が短くなれば、太陽からの距離は近くなります。
もし 1 年が極端に⻑かったら、地球は氷の世界へと変貌し、生命活動は困難になるでしょう。 逆に、1 年が極端に短かったら、地球は灼熱地獄と化し、液体の水は存在できず、生命は存続で きないでしょう。
現在、地球は太陽から約 1 億 5000 万キロメートル離れており、これは「ハビタブルゾーン」 と呼ばれる、液体の水が存在できる領域にあります。ハビタブルゾーンは、現在の地球と太陽 との距離と比較して、わずか 95〜137%の広がりしかなく、その中でも人間が高度な文明を維 持するためにはなんと 99〜101%の範囲でなければなりません。この奇跡的な距離のおかげで、 地球上には多様な生命が繁栄し、我々は文明の成果を享受できるのです。そしてこの奇跡の条 件のもとに起こるもうひとつの奇跡が人間の誕生です。しかし、この奇跡の掛け算も、第 1 章 で述べた「人間原理」の立場から考えると必然ということになります。くどいようですが、そ うでなければ、この文章も、読者であるあなたも存在しないのですから。
では、あなたはどのように誕生したのでしょうか?
闇の中、たったふたつの細胞が出会う。愛によって。それは、精子と卵子、ふたつの星の邂 逅。この瞬間、新たな生命の物語が始まる。
あなたは、元々は、たった一つの細胞となった受精卵でした。それは数日のうちに分裂を繰 り返し、小さな命は急速に成⻑を始めます。それは、進化の過程で獲得した驚くべき能力です。 一週間後には、小さな心臓が鼓動を打ち始め、二ヶ月目に入ると、小さな手足が現れます。そ れは、まだ未熟ですが、未来への力強い一歩を踏み出す準備をしているかのようです。同時に、 脳や神経系も急速に発達し、五感を司る器官も形成されていきます。進化の賜物である複雑な 器官が、驚くべき速さで形成されていくのです。
四ヶ月目には、あなたは羊水の中で活発に動き始めました。母親は、胎動を通して、あなた の息吹を直接感じることができます。この時期、あなたの体はさらに成⻑し、性別も判別でき るようになります。六ヶ月目には、肺が形成され、呼吸の準備が始まります。聴覚も発達し、 母親の声や心臓の音を聞き分けることができるようになります。あなたは外界の音に反応し、 胎動を通して感情を表現さえしていました。そして、出産予定日の二ヶ月前には、あなたは、 赤ちゃんとして完成形に近づきます。脳は活発に働き、記憶や学習能力も発達し始めます。こ の時期、あなたは外界の光を感じ、まぶたを開け閉めしていました。
出産。それは、母と子の壮大なドラマのクライマックスです。光の世界へと飛び出した瞬間、 あなたは初めて空気を吸い込み、産声を上げます。それは、生命の歓喜に満ちたファンファー レです。
280 日、いわゆる十月十日の間に、受精卵は驚異的なスピードで成⻑を遂げます。これは地 球の公転のおよそ 9 分の7の期間の出来事です。実は、人類のお産は哺乳類の中で最も困難で あり、苦痛を伴います。しかし、それでもなお、これほど未熟な状態で生まれてくる哺乳類は 他にいません。人類の赤ちゃんは何年もの間、大人からの手厚い保護を必要とします。それを 可能にするのもまた、愛なのです。