タイトルが決まるまでの紆余曲折
N4書房の新刊「レクチャー&インタビューズ」は、シンプルでどうということのないタイトルのようですが、決まるまでには紆余曲折がありました。
私は大抵、タイトルを決めてから文章を書くことが多く、本づくりもたとえば「ベレー帽とカメラと引用」「牧村憲一発言集成」など、タイトルから逆算して目次や構成を考えて、本文に着手するという段取りです。
今回の吉田仁さんの本については、真っ先に思いついたのが「吉田仁の音作り」という平凡なタイトルで、さすがにこれは自分でも「駄目だろうな」と、ストレートに感じました。地味で真っすぐで、芸がない。
この頃からインタビューと並行して、何通りも考え始めました。
当時のメモや表紙デザインの案を振り返ってみると、タイトルの案が並んでおり、感慨深いものがあります。
「音の魔法使い」
「音もなく振る魔法の杖」
「第三の男」
「The3rd Man」
「89-91」
など、初期の案はいずれも、
「いかがなものか」
「危ないところだった」
「これを採用しなくて良かった」
と思えます。
長いタイトルはどうかと考えたこともあります。
「吉田仁は、あの頃、どこで、何をしていたのか?」
「音楽のプロデューサーって、いつ、どこで、何してるの?」
「音楽プロデューサーは、 いつ、どこで、何をしているのか?」
「音楽プロデューサーでエンジニアで編曲もするって、どういうことですか?」
この路線がエスカレートして、
「音楽プロデューサーって、普段はスタジオで何をしているの?
たまに来る親戚の子供にはどうやって説明しているの?」
「音楽プロデューサーは何をしているの?
親戚の子供にはどう説明しているの?」
という案もありました。
これは受けを狙っていて、光文社新書なら通りそうな雰囲気です。
キャッチーという意味では有効かもしれませんが、どうも本の雰囲気にはそぐわない感じです。
「Music」と「Mix」の話題が多いので、
「Music, Mix, and Magic!!」
「M is for…Music,Mixing,and Magic!!」
「Mixing for listeners 50 years later」
という案もありました。
英語だとタイトルとして格好がつくので「レコーディング」という単語を軸に、以下のような案もありました。
「Days of the long long recording」
「Long, long days of recording」
「The long long recording days」
「Recording 89-91」
だんだん英語の言い回しとして正しいのかどうか、そのあたりまで不安に思えてきます。
これらの案はすべて吉田仁さんにお見せしていましたが、たまに褒められることはあっても、ほとんどは「良い」とも「悪い」とも言われていません。
困ったことに、自分でもなかなか「これぞ」と確信できるだけの自信作は浮かびませんでした。
行き詰って、チャットGPTに少し考えてもらったこともあります。
こんな感じで、面白みがないです。NHKのドキュメンタリー番組風といいますか。
私が考えたタイトル案では他に「音と録音された音」という、外国の哲学者や指揮者が書いた本みたいなものがありました。
これは生硬すぎて、難解な印象を与えます。
月日が過ぎて、いよいよ本文が95%は完成しただろうな、と思えたのが2023年の12月ごろです。
そうなると表紙も「仮」として入れておく必要がありますし、目次や奥付も「(仮題)」という風に書いておいたりもします。
その時に「仮題+副題」として、小さい文字で副題を添えておくことを思いつき「仮題+レクチャー&インタビューズ」としました。
その頃に、
「副題は気に入っています」
という返答をいただき、それなら「レクチャー&インタビューズ」が正式なタイトルでも良いではないか、となってようやく決定となった次第です。
ほぼ製作期間全体の、最初から最後までかかったことになります。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?