人事異動(とある大企業の禁忌目録#11)

大企業はジョブローテーションを重視する。数年で職場を転々とさせながらキャリアアップを図り、結果的にどの分野にも精通する人材を作り上げる。ビジネスモデルを発展させていくために、縦割り組織で連携を進め、様々な分野の知識や人脈を持っていることが有利に働く。

大企業において人事部は超越的な存在と言っていい。社員一人一人の適性と将来のキャリアプランを考えて、実務部門が持っている課題を考慮しながらチームの編成を決めていく。
例えば、本人が製品開発を希望していて、会社としてもその方向に適性を認めるなら、まずは営業現場に送り込んでニーズを把握させるキャリアパスを作ったりする。長期的にはそのほうが売れる製品を開発できる可能性が高まる。「人事に異動を命じられたので、新しい部署に来た。」など自分のあずかり知らないところで自分の人事が決められてしまう。
私は、若手社員の頃、自分の希望が叶わないことに腹を立て、人事決定のプロセスに不信感を持った。しかしながら、愚痴を述べたところで何も変わらない。先輩がこのことを当然として捉え何の疑いもなく異動していく様を見て、自分も何度か異動を命じられることで当然の義務のように変わっていったと私は考えている。

社員が自分のキャリアプランを自分で考えて、人事異動を断って転職までしてしまうのは、昨今の労働観の変化を反映しているように思われる。会社や人事に合わせるのではなく、それ以上の幸せがあると信じて、自分のリスクで挑戦していくことですら、わずか10年前ではタブーとされていたことなのだ。
大企業に元気があった頃は、人事部の決定に従うことがメリットとなったし、60歳までのキャリアが保証されていた。今や、トヨタですら50代以降の雇用を見直そうとしている。グローバルな競争環境や外資企業が持ち込んだ労働観のインパクトは、決して小さくない。最終的には、時勢の変化に追従できない人事部は新卒採用・中途採用の事務局として集客のみを担い、採用と育成の責任を実務部門で担う方向に変わっていく可能性もある。こうなってしまうと、人事部は超越的な存在からただの調整部門に格下げされるだろう。

以前の人事部なら「人事異動は断れません。」、「それなら全国型の総合職を辞めてもらいます。」というコメントだった。しかし、退職してまで人事異動を断るケースが少なくないのであれば、一方的に社員に異動を押し付けられなくなっていると言って良いだろう。

また、大企業にあって中小企業に少ないものはグループ会社だろう。ソニーや野村証券のグループには約1,200社、NTTには約900社の連結対象子会社がある。大企業が子会社を作る理由は、企業買収で大企業グループ傘下に入る、より迅速な意思決定を可能とするために部門を子会社化する、社長や役員のポストを作りたいから分断する、などいくつかの理由がある。また、海外の拠点は子会社であることが多い。

大企業の本社(持ち株会社)に近い立場で入社すると、グループ会社と連携するだけではなく、人事異動が、出向や転籍となって、その会社の社員として働くこともよくある。
転職のような決断をすることなく、人事異動という気軽な立ち位置でそれぞれ専門性のある会社に移れるのが大企業に入社するメリットの一つだ。グループ会社は、組織が小さくなるので社長・幹部と社員の距離が近く、大企業らしくないスピーディな動きができるのが特徴だ。環境が合った人にとっては離れたくない職場になることもある。
また、転職をすると社内の人脈はよほど近しい業界でないと仕事の関係が途絶えてしまうが、グループ会社への出向は、同じ持ち株会社の目的に向かって仕事をするものとして引き続きお付き合いができる。

会社命令の人事異動や転勤は、大企業の文化の一つ。不遇とされる部門だったり、逆に花形と呼ばれる収益を上げている子会社だったり、その行き先でいろんな思いを持つだろう。しかし、数年おきに違った雰囲気で仕事ができるなど、プラスに考えられることが多いと私は思う。

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