汚れなき人 第3話:初恋の人
バスを待つ女性「ゆづーほら泣かないの。もうすぐバスくるよー。」
女の子「だって、あのおかち食べたかったもん」
女性「だめーもうすぐ夕ご飯でしょ。お菓子たべるとゆづご飯食べないんだから」
僕は高校からの通学路のバス停で彼女、いや彼女たちと初めて会った
その時、世の中にこんなに綺麗な人がいるのかと思春期の僕には衝撃的だったのを覚えてる
その日は学校で育てている花を持って帰っている日で、その花のおかげで僕はあの人と話をすることができた
(バスの中)
女性「ほら、ゆづちゃんと座って」
女の子「外みたーい」
女性「だめ、すぐ降りるから、お願い。静かにしてて」
その女性は3歳くらいの可愛い女の子を連れてた
その時に既に僕のこの湧き上がる感情は既に敗戦の白旗が上がっていたけど、これから通い続けるこの通学路で、またこの人に会える日があるかもしれないと思う期待感だけで、あの時の僕には十分だった
女の子「あ‼︎お花!?」
女の子がいきなり僕の方を指差してきた
女性「ほら、指ささないの。すみません、、あ、もしかしてこのお花ってアネモネですか?」
ぼく「あ、学校の課題で絵を描いてる花なんですけど、、名前までは、、わかんなくて、、」
女性「あ、そうですよねwいきなりすみません。私このお花すごく好きなんです。この花他にもピンクだったり青い花を咲くんですよ!」
ぼく「え、そうなんですね。学校のは全部白だったんで、他の色が咲くの知らなかったです。」
女性「白いアネモネの花言葉は「期待」「待望」です。
何か想いが叶うといいですね!」
ぼく「あ、ありがとうございます」
(バスが停車する)
女性「いきなりすみませんでした。失礼します」
会釈するぼく
女の子「お兄ちゃんばいばーい」
黙って手を振るぼく
思春期真っ只中だったあの時の僕は、一目惚れの女性にいきなり話しかけられて、動揺して全然上手に会話できなかった
それから何回か彼女たちをこのバス停で見かけてたけど、会話をする事はなかった
もしかしたら、僕から話しかければまた話せたかもしれないけど、子持ちも女性に高校生の僕が話かけて、仲良くなったところで何になる、、
だったら、この距離で目の保養でずっと見てたかった
透き通る肌
信じられないぐらい長いまつ毛
華奢な身体なのに、力強く女の子を抱く白い腕
バスの乗客の男はみんな彼女のことを見ていたと思う
僕の初恋はそうやって特に何もできないまま終わった
僕は小さい頃から好きだった生物の教師になった
(9年後)
教頭「や、ま、が、たせんせい。いやー教育実習お疲れ様!で、さぁどう?今日はお疲れ様を兼ねて特別な場所いこうよ」
ぼく「ありがとうございます。え、絶対教頭先生が行きたいだけですよね?w」
教頭「いやーそれがさ、行きつけのスナックなんだけど、めちゃくちゃ美人な新人が入ったのよ。是非山縣先生にも見てみてほしいわー」
普段なら絶対行かないのに、一旦仕事もひと段落したし、とりあえ付いていくことにした。
お店の女「あらー三上さんーいらっしゃい!」
教頭「ママ!今日は新人連れてきたの!この先生は実習を今日終えたから、お祝いしてあげて」
ママ「あらー若い先生!お疲れ様でした!楽しんで行ってくださいね。何飲まれます?」
ぼく「あ、ぼくげこなので、ウーロン茶で」
ママ「あらwざんねんwかしこまりました。」
教頭「えーそうなの?知らなかったよー山縣くん。悪いことしちゃったかなー、、」
ぼく「いえ、自分で付いてきましたから」
教頭「あ!きたきた!こっちこっち!」
女「あら、三上先生!今日もありがとうございます!」
教頭「すみれちゃんここでは先生つけないでよー。誰が聞いてるか分かんないからさーw今日は特別に可愛い後輩つれてきたから、よろしく頼むよー」
女「ハハwそうでしたw
はじめまして。ご来店ありがとうございます。すみれです。」
まじか。
ぼくは、分かりやすく持ってたおしぼりを落とした
女「え?大丈夫ですか?」
ぼく「あ、すみません。」
慌てておしぼりを拾うぼく
彼女だった
間違いない
多分10年ぶり?ぐらいだけど、変わってない
自分がまだ10代だった頃密かに憧れていたあの女性
目の前にいる
教頭「ちょっとー山縣君分かりやすすぎない?綺麗でしょーすみれちゃん。昔は銀座でナンバー1だったことあるんだよ」
すみれ「もうはるか昔のことですよー。」
ぼく「ひょっとして、女の子、あ、娘さんいらっしゃいますか?」
すみれ「え、何でわかったんですか?なんか疲れてました?w」
ぼく「いえ、全然疲れてるとかじゃないです!すごく綺麗です。」
彼女は優しく笑った
間違いない、あの人だ
その日他に何を話したか覚えていない
ただひたすら教頭の嫁の愚痴だったり、校長の愚痴をその場のメンバーが宥める会だった気がするけど、ぼくだけはその空間がとても幸せだった
また会えた
その事実だけで十分幸せだった
すみれ「今日は山縣さんのお疲れ様会だったのに、、全然お話出来ずすみませんでした。」
ぼく「いえ。元々こーなる事は想定してたので、それに今日凄く楽しかったです。また来ます!今度は一人で。」
すみれ「それはよかったです!じゃその時にたっぷりお疲れ会させてくださいね!」
ぼく「はい!楽しみにしてます」
客とホステスの営業トークだ
わかってる。
でもあの日言葉を返す事すら出来なかった思春期の16歳の時に比べたら僕は成長しているはずだ
(5年後)
山縣「今日から君たちのクラスの担任になった山縣ちあきです。担任を持つのは初めてですが、これからよろしく」
(花壇の前)
山縣「菅野?」
菅野「あ、先生、この花綺麗に咲いたね。」
山縣「アネモネね。菅野はアネモネのどの色が一番すき?」
菅野「、、、青かな?」
山縣「おー」
菅野「え?w」
山縣「いや、意外だなと思ってw女子ならピンクとか言うかと思ったからさ」
菅野「先生その発言あぶないですよー。」
山縣「だよな。菅野は花好きなの?」
菅野「お母さんが好きなの。母いつもプレゼントでお花をよくもらってきてて、花言葉もよく知ってた。というか男たちを花の名前で呼んでた。私も小さい頃はお花好きだったんだけど、いつの頃からか花を持ってくる男たちが嫌いだから花も嫌いになってた」
山縣「すがの、?」
菅野「思い出した。アネモネ。お母さんのお客にこの名前がいた。私はこの花きらい。」
あの頃の私は、寂しさや自分の幼さを誰かに気づかれたくなくて、人との距離を置いてた
だけど、先生と話してる時だけは、なんとなく素直になれる自分がいた
山縣「おれも花が好きになったのは、大人になってからだよ。別にお母さんが好きなものを好きになる必要ないんじゃないの?」
なんだかその時は、この人だけは母越しの私ではなく、私だけを見てくれる気がした
私は多分先生が初恋だったと思う