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2話:いのち

あー眠い。

カーテンを開ける

みき「眩しっ!」

また朝がやってきた

スマホが鳴る

母だった

みき「もしもし?あ、お米、」

母「あんた、そんな事より、30にもなって、親に紹介できる彼氏の1人や2人いないわけ?」

え?うそでしょ、朝からする話じゃないだろう、絶対

昨日、実家から大量の炭水化物が送られてきたから、お礼の連絡をしたらこれだ

みき「1人や2人ってそれ二股やん。私はお姉ちゃんみたいにモテないのです。忙しいから切るよー。お米たちありがと!」

母「もう。人間にも賞味期限あるんだからね!あ、そうだあんたばあちゃんの墓参りいった?今年はこんなご時世で13回忌の集まり出来ないから行ってあげてね」

みき「そっか、わかった」

なんかどさくさに紛れて結構な発言された気がしたけど、、聞き流そう

母と姉は性格が似ていて、兎に角蛾が強い

彼女たちの性格をいい意味で表す言葉も沢山あるけど、あえてちょっと嫌な言い方をチョイスしたのは、多分どこかで羨ましいと思っているのかもしれない。

祖母は、「優しい」という言葉は彼女の為にあるのではないかと思うぐらい、無償の愛をいろんな人に配ってたから沢山の人に慕われていた

医学的に人間が「死亡」判定されるのは、「心臓」が止まったときだ

祖母は「脳死」だった

脳死は、回復する可能性はなく、元に戻ることはない

だけど、機械的に「心臓」を動かして、「生かしている」状態でも数日延命が望めることもあるらしい

だけど、「植物状態」とは異なり、「脳死」はどんなに祈っても、奇跡を信じても元に戻ることはないのだ

あの時、まだ高校生だった私は客観的に祖母の顔や身体中につけられた無数の管をみて、「可哀想」と思ってしまった

祖母はいつも人の事を気にしてた

自分の幸せよりも人の幸せを喜ぶ。そんな人だったから、あの姿を自分で見たら、どう思うんだろうとおもってしまった

遺族が「脳死」を認められない気持ちもわかる

実際母も猛反対していた

顔色もとても綺麗で、触ると温かい

あの手を握ると確かに紛れもなく「生きている」祖母が寝ているだけのように思えてくる

だけど、祖母は、もう起き上がることも、目を開けることも、喋ることも、抱きしめる事もできない

母は脳死判定に承諾はせず、延命を続ける判断をした

その翌日に祖母の心臓は止まった

まるで、祖母が「もういいよ」と言っているように思えた

私はその日から、「臓器提供意思表示カード」を持つことを決めた

私達が今AIという人工知能を使ってやろうとしてる事全ての根本は「人類が幸せになる事」がある

そこだけは絶対にバレてはいけない事だ

だけど、難しいのが人によって、「幸福」という基準が違うという事もこの技術が革命的な進歩に繋がっていない要因でもある

今はAIが得意な事と人間がやったほうが早い事が明確に分かれている

まだまだAIは「できない事」も多い

だけど、AIの得意な技術の応用によって、人件費が大幅にカット出来た事を喜んでくれたクライアントもいたし、私達はそのお陰で給料をもらっている

なのに、AIやロボットに仕事を奪われて職を失ってる人も少なからずいる事もまた事実だ

そんな人にとってAIの技術はただ邪魔でしかない

では、人類が共通して、それがあれば「幸せ」だと思えるものはなにか、、

それを考え続けて見つけていく事が私達の使命であり、モチベーションだ

渡辺「おはよう、金井」

みき「おはようございます」

渡辺「昨日の新聞読んだか?」

みき「私が、新聞読むと思います?」

渡辺「あ、聞いた俺が馬鹿だったわ。これだよ。これ!その人が生きていた時の記憶のデータを蓄積して、まるでそこに本人がいるかのように会話ができるAI。高校生が作ったらしい」

みき「あーでも結局は機械学習させたって事ですよねー。確かに可能とは思うけど、どうやって記憶をデータ化したんですかね?」

渡辺「それが、自分の中の記憶のいろんなシチュエーションでの会話を一つ一つ、ラスト化していったらしい」

みき「気が遠くなる作業ですね。しかもそれが本当に事実だったかなんて分からないですね。人間の記憶力なんて信用できない、無意識に事実と全く異なった会話を自分の都合の良いように記憶として保存してしまっている事も沢山あると思うし」

渡辺「そりゃそうだ。だけど、彼が作りたかってのは寄り添ってくれる「相方」の意見なんじゃないのかな?」

みき「偏り?」

渡辺「そう、俺たちが扱うようなビッグデータを使って例えば同じものを作ったとしても、彼が作りたかった両親の記憶の回答を答えるAIは作れない」

渡辺「本来「偏り」はデータの中では見逃せない不安要素だけど、彼にとってはその「偏り」こそがオリジナルに近づくキーワードだったんじゃないのかなって」

みき「、、、渡辺さん、、今日真面目ですね」

渡辺「お前絶対馬鹿にしてるよな?」

みき「その高校生名前は?」

渡辺「あーー確か、、ここに名前が、あったあった。

オシナリシュウだって」

みき「オシナリ?」

どこかで聞いた事ある名前なような気がしたけど、すぐに思い出せなさそうだったから考えるのを辞めた

みき「あ、吉田さんおはようございます」

吉田「金井さんおはようございます。今日の山羊座は3位です」

みき「え?珍しくいい順位!やったー!今日いい事ありそう」

吉田「ラッキーアイテムは赤いもの」

みき「赤いものかー。なんだろうなー。でも嬉しいです!ありがとうございます!」

日々の業務は相変わらず「雑務」がほとんどで、私達みたいな若手が上にアピールするとしたら、年に1回全員エントリーの資格がある全社プレゼンで優勝するしかなかった

私は2年前に実はエントリー作品が本部1位まで行った事があったけど、あまりにも「未確定」の要素が強すぎて優勝出来なかった

企画の内容がダメだったわけじゃないから、これをいかにもっと「実現化」を可能かもと思わせれる「根拠」を私たちは作り出さないといけなかった

その為にはやっぱり「いのち」の定義を考える必要があった

あんまり乗り気じゃないけど、あの人にまず相談してみようかなー