2020 TOP10ALBUMS

時間がかなり経ってしまいましたが、2020年アルバムの10作も書こうと思います。かなり経ってしまったな、うん、、

10、Heaven To A Tortured Mind/Yves Tumor
とにかくエレガントで煌びやか、グラムロックやビジュアル系にも通じる華やかさもあるが、どこかいかがわしい香りのするアルバムです。でも全体を通して曲はポップだと思います。リズム感やグルーブ感はファンクやソウルのテイストが強いですが、曲の装飾はエレクトリックや重厚なギターも響く。言うなれば、マイケルジャクソンとデビットボウイの融合というか。混迷を極める世の中を「解決」に向かわせるわけではなく、その複雑で不穏な情景をそのまま描写した世界を見せています。

9、The Neon Skyline/Andy Shauf
2020年はインディーロックが世の中とのフィーリングともマッチして際立った年だったと思います。この作品は年明けにリリースされて、その流れの先駆け的な旗印になったと思います。音も、演奏も、とにかくシンプルで内省的な雰囲気はあるけれど、決して感情的ではない。コンセプトは、「ネオンスカイラインというバーで友人たちと過ごす一夜の物語」。いろんな人たちの後悔や苦悩が交錯しながら、日常は進んでいく。アンディ・シャウフが綴るカジュアルな物語です。

8、Herbier/Turntable Films
2020年にリリースされた日本国内の作品で、個人的に飛びぬけていたと思う3作品のうちの1つ。一聴するとポップセンスすごいので、シンプルなJ-POP作品のように聴こえるが、近づいてみるとかなり複雑な構成をしています。一口に「この作品はこれだ!」と言える特徴がないんです。ただ、少なくとも国内には彼らと同じような楽曲を作っているミュージシャンは僕の知る限りではいません。初期から彼らが作り続けてきたカントリー、ブルース、ゴスペル、R&Bといったアメリカの音楽を、彼らなりのフィルターを通した最新形です。

7、極彩色の祝祭/ROTH BART BARON
日本国内作品トップ3のうち2つ目がこの作品。「君の物語を絶やすな」。その言葉が響いてくる。そして心地のいいアコースティックギター、美しいピアノの単音、力強く響いてのびるホーンと切れのいい弦楽器。そして、裏側で鳴り続けているノイズ。いくつもの色彩が音色から感じられるが、技術的に均一になっているのか、それとも混乱のままとっ散らかっているかと思うかは、聴き手の判断に任せたい。色のない暗闇世界に生きる人々にとって、この世で生を続けるための、まさに「祝祭」だ。

6、STRAY SHEEP/米津玄師
日本国内作品個人的3の最後の一角。米津玄師の作品を真剣に聴き始めたのは、2020年になってからでした。とにかく「感電」という作品に興奮して、このアルバムを聴きました。前半と後半でテイストが変わる気もして、特に後半は「なんでこれ聴いてるんだ?」ってぐらいいわゆるJ-POPのオーセンティックなバラードですが、彼の悲しみや祈りのフィーリングとグローバルサウンドにアジャストしたサウンドだから私のような偏屈な人間でも聴けてしまう。前半はとにかく怪しくも美しい、そしてファンク・ソウル・ラップと接続した屈指のポップソング。そしてこの作品がCDでミリオン売れた。音楽的にも産業的にも、いろんな側面から語ることができる傑作です。

5、Untitled (Black Is)/Sault
クリティックでも評価の高かったSaultのアルバム。この作品がリリースされたのがアメリカで奴隷解放が実施された6月19日。2020年、世界の出来事大きなトピックの1つ(何ならコロナより大きいぐらい)としてBLMがある。この作品がその運動と共鳴しているのはもちろんだが、ケンドリックラマーのオールライトのように自身は意図せずBLMの現場で愛されたのとは違い、BLMを意図的に直接的に反映させている。R&Bやアフロビートに根差した黒人音楽をベースとし、静かに言葉を置いていく本作は、BLMを象徴・先導するというよりは、この作品自体がブラック・ライブズ・マターになっている。

4、Mutable Set/Blake Mills
昨年はギターサウンドが復権した年だったとも思う。そのサウンドが現代の音作りとリンクするように、音の進化に挑み続けてきたブレイク・ミルズの傑作がリリースされたのは2020年の1つのハイライト。縦横高低、音の空間がとにかくすごい。音のすごさを言葉で伝えるというのは無粋なことだが、是非とも上質なステレオなりスピーカーなりイヤホンで聴いてほしい。いろんな文脈やいろんな批評を参考に音楽を聴くことは大事だが、単純に「耳の幸福」としても聴ける作品です。

3、Women In Music Pt.Ⅲ/HAIM
冒頭に書いたインディーロック作品の2020年を象徴する作品の1つでしょう。今までの楽天的なハイムとは違い、リリックは様々な不平等や精神不安定を歌う鬱々とした内容。しかし、それでも悲しげな作品にならないのは、彼女たち自身がそれぞれの問題を認め向き合っているからだとも思う。ヒップホップ的なブレイクビーツや荒々しくドライなギターは、リスナーが感傷に浸る余地を与えまいとする意志を感じる。ボーナストラックとして追加された3曲が、彼女たちなりのアンサーになっている。

2、Walking Like We Do/The Big Moon
とにかく2020年に個人的に熱狂していたアーティスの1組が彼女たち。特に年初のほうはずっと聴いていました。ピアノやシンセが印象的で、よりポップなサウンドに昇華。整然とされたように聴こえるが、各プレイヤーのいい意味での自由気ままさによって、各プレイヤーそれぞれつられている感じで、最高にバンドとしての姿が美しい。独特な気怠さやノスタルジックな雰囲気はコロナ前のリリースとは思えないほど、今の世の中にフィットする。

1、The New Abnormal/The Strokes
栄えなる第一位はストロークスです。とにかくかっこよかった。皆が内側に閉じこもり、他者との交流を遮断され、混迷極まる世の中を眺めることしかできなかった2020年。多種多様な作品がリリースされた中で、個人的な音楽的趣向、楽曲群の完成度、そして刺激的に耳に入り込んでくる音像とリリックと、全てにおいて私のハートに刺さりました。世の中も、アートの世界も転換を迎えた2020年。これからもっと必要のないものは淘汰され、人々は正しさと幸福を求めながら、自らの愚かさと対峙していくことになる。ストロークスは自分たちにかかる呪いと向き合い、新しいスタンダードを提示してみせた。これからの世界を生きていく我々にも必要となるのはまさに「The New Abnormal」ではないだろうか。

さすがに10作品書くのは長いっすね。疲れました。

それでは今年も素晴らしい作品に出会えることを願いつつ。


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