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両側乳がんラプソディ # 10 誰に伝えるか

 誰にいつどこまで自分ががんであることを話すかというのは、がん患者共通の悩みなのではないか。

 誤解を恐れず書けば、知られたくないという気持ちには、固定観念を持たれたくない、噂されたくない、同情されたくない、勝手に病人であるとカテゴライズされたくないという矜持が透ける。

 もちろん、相手に心理的負担をかけたくない、悲しませたくないという他者への思いやりや配慮を優先させる方もおられるであろう。
 でも、私は前者の理由から、告知されてすぐ伝えることができたのは、数名しかいない。

 私の場合、配偶者のYと母親にはすぐ伝えた。
 次に友人と仲の良い同僚に相談した。
 それから、後期日程で講義を担当することになっていた非常勤先に断りを入れるため、文面にがんであること(乳がんとは言えなかった)を添えた。

 父親、自分の姉妹には半月後に話した。
 検査や治療の都合上、職場で迷惑をかけてしまう同僚にも話さざるを得なかった。

 1ヶ月程度で報告した(できた)相手はそれだけであった。

 時間が経つにつれ、自分がイメージしていた、がんという病やがん患者の生活は勝手な思い込みでしかなかったことを知った。
 また、宣告された時は非日常で緊急事態だと感じたがんにもすっかり慣れた。
 がんであることが分かり検査で病院に何度か通うことにはなったが、生活や仕事に特に変化もなく、がんは日常に埋没した。

 それにともない、私の小さな矜持も薄れ(そもそも必要なかった)、私は人に自分ががんになったことを抵抗なく伝えられるようになった。

 それが8月頃のことだったから、告知から2ヶ月ぐらいでがんショックも落ち着いたということである。

 話せるようになるということは、自分の中にある、自分とがんとの隔たりがなくなるということなのかもしれないと思う。
 感情や情報が心や頭で少しずつ整理され、分類され、咀嚼できた時、私はがんである自分を受け入れられ、人に話せるようになった。

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