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清掃のお兄さんが気になる件 2

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それが何となく、いつからとも言えないが、私には少しづつ彼が変わってきているように見えた。ザッザッと雑だった通路の掃き方に、少しだけ気遣いが見えたり。すれ違う時に「おはようございます」と挨拶をしたら、目は合わないが「おはようございます」と聞き取れるぐらいの声で言ってくれるようになったり。雑巾を持って、他の清掃の方に手すりの拭き方を指導されているような姿も目にした。

GWの前ぐらいだろうか、いつものように自転車に乗ったままマンションの敷地内に入り、駐輪場に向かっていた時「ママ、4がある、4があった」と後部座席に座る4歳の次男、こうちゃんが私に訴えた。

何の事だろう。意味がわからないまま駐輪場で次男を降ろした後「あっ」と思い出す光景があった。

その数日前の休日、7歳の長男とこうちゃんは室内で走り回ってあそんでいた。最初はハンドボールサイズのボールを投げる、一方は走って逃げるようなあそびをしていたが、次第にボール以外の物、ジョイントマットを飛ばしていたようだ。

ジョイントマットは、クッション性のある薄いマットだ。大抵は正方形で、マット同士を繋ぐことができる。病院や役所のキッズコーナーに敷かれているのをよく見るが、我が家では敷かずに布製の箱に入れ、子ども達は使いたい時に出している。しかし、その時は投げてあそんでいたようだ。

「ママ、外に出ちゃた」

2人の声で、開けられた窓の外を見ると、ベランダの柵を超えた草むらにピンクのマットが1枚あった。

その草むらはマンションの敷地内ではあるが、普段住民は入れない場所だ。ベランダの柵を飛び越えて取れなくはないが、私にそんなやる気はなかった。

「もう、いいよ。あれは取れない。たまにお掃除の人が入るから、その時取ってくれるんじゃない?」

投げやりな気持ちで2人に言い窓を閉めた。2人ともそれ以上しつこく言う事はなく、マットはやめ、またボールを投げはじめた。

翌日、翌々日もマットはそのままで「まだ、あるー」なんて子どもは言っていたが、ここ最近は親子とも気にしていなかった。

もしかして、そのピンクのマットがマンション入口にあるゴミ置き場に、目立つ様に置いてあったのかも。それを次男は、自転車から目にしたのかも。そのマットは確かに4だったかもしれない。真ん中に数字の4の形がくり抜かれたマット。

「こうちゃん、4のマットがあったんだね。見にいこうか」

たった今通り過ぎたゴミ置き場に、2人で歩いて向かった。(続く)

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