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根尾昂投手転向について

交流戦も終わり各チームがしばしの休息に入る6月13日、中日ファン、いや野球ファンにとって衝撃のニュースが流れました。「根尾昂、投手転向へ」、これにはプロ野球の試合がなかったこともあり、多くの野球ファンの間で話題を呼びました。その翌日、根尾選手への本格的な投手転向、「登録も変更して調整を進める」ことを報道する記事が大々的に報道されました。

今回は、この一件に関しての経緯、そして私個人が思ったことをまとめてみました。

1.投手転向の経緯

そもそもの始まりは今年の4月にあった「ショートへの再コンバート」からです。そちらに関してはnoteがまとめてあるので、読んで頂ければと思います。

簡単に言うと、「外野が多すぎる」「ショート京田のライバルがいない」という理由から今季から外野手登録にまでした根尾選手を再びショートとして調整させる、というものでした。

ショート調整が決まった約1ヶ月後の5/8(日)に二軍でのプロ初登板があり、最速150キロを計測、三振も奪うといった投球を披露しました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/57b6303daa76dccf12a803b4a7fa632b1146a6f3

更にそのすぐ後、1軍で開催された5/21(土)の広島戦にてプロ初登板があり、同じ年の4球団競合ドラフト1位である広島の小園海斗選手との対決もあり話題になりました。

https://www.nikkansports.com/baseball/news/202205210000685.html

その後も交流戦である5/29(日)のオリックス戦にて登板があり、大量ビハインドになるとファンの間から「根尾選手の登板」が囁かれるようにもなりました。


これらの経緯を経て今回の投手本格転向に至る、というわけです。

時系列順に簡単にまとめるとこんな感じでしょうか。

①2021年秋 立浪監督就任、「外野一本で行く」宣言
②2022年3月 登録を内野手⇒外野手に変更
③同4月 ショートへの再コンバート
④同5月 二軍一軍両方でプロ初登板
⑤同6月 本格的に投手登録へ

これについて思うことは後から詳しく書きますが、普通に考えてこれがおよそ半年で起こっていることとは考えられません。

2.投手転向について思うこと

ここからは今回の投手本格転向について自分なりに思うことを書いていきます。

投手の才能

正直言って、私個人の意見としては、根尾選手に投手としての才能はあると思います。

根尾選手は中学時代は最速146キロを投げる二刀流として有名な「スーパー中学生」でした。

高校では名門大阪桐蔭に進学し、下級生の頃から二刀流で活躍しており、計4回の甲子園出場、うち3回優勝、春夏連覇を達成した、言わずと知れた甲子園のスターでした。
その後2018年のドラフトで4球団競合の末中日ドラゴンズに入団すると、ショート一本に絞って選手として出場していました。

裏でどんな練習をしていたかは分かりませんが、表向きにはほとんど投手の練習はやっていなかったでしょう。それが入団から4年目となる今年になって、投手をほぼやっていないにも関わらず150キロを計測したのです。これを見て投手の才能を感じない人などいるのでしょうか。
野村克也氏も、「球速に関しては天性のもの」と発言しています。

現代野球では様々なトレーニングが確立されたことにより、球速が劇的にアップした選手をしばしば見かけます。それでもそれは彼らがちゃんとした理論に基づきトレーニングをした結果であり、ほぼ練習なしで150キロを投げられるのとはわけが違います。

投手としての根尾選手の才能は何人かのOBが認めているところであり、元ドラゴンズでエースとして活躍した吉見一起氏も自身のYouTubeチャンネルに動画をアップするなど、才能を認めているうちの一人です。

参考までにサンプルは少ないですが、今季の根尾選手の投手成績を載せておきます。


転向するタイミング

投手としての才能は多くの人が認めるところだと思いますが、やはり上がるのが「何故このタイミングで?」という疑問です。
先ほど載せたnoteに書いてありますが、はっきり言うとこれまでの根尾選手の打者としてのイメージは「長打も多くないしかといってアベレージにも振り切れていない、どっちつかず」といったものでした。しかし、それでも今季の打撃成績、特に二軍での成績はかなり良化傾向が見られました。
以下の表が成績の推移になります。(2022年成績は6/14時点)

見て分かる通り、一軍、二軍両方で三振が減り、四球が増えています。特に出塁率長打率OPSの伸びが良く、今年は一軍二軍の両方でキャリアハイとなる数値でした。
成績が良くなった理由は色々あると思いますが、ゴロ性の打球が減り、フライ性の打球が増えたことがひとつ大きいと思っています。下の図は二軍でのゴロとフライの割合を比較したものになります。

表を見て分かるように徐々に打球の性質が良くなってきています。

さて本題はここからです。ここまで説明したように今季は二軍で成績が良くなっていました。個人的にはもう少し打撃が固まるのを待ってもいいと思っていましたが、主力が相次ぐ新型コロナの陽性判定による隔離や怪我による離脱があり、5/10(火)に一軍へ再び昇格しました。その際は二軍での成績が良かったのもあり、活躍を期待していました。

以下は再登録後の根尾選手の出場内容をまとめた表(黄色はベンチ外)になります。

序盤のヤクルト、巨人との関東6連戦ではほとんどの試合でスタメン起用されていました。しかし、次のカードからスタメン出場がほとんど無くなり、交流戦では一度もスタメン出場がありませんでした。それどころか交流戦では9/18試合がDH制ということもあり、出場すること自体が減っていました。

また、現役選手の野手⇒投手への登録変更についても参考にしてみましょう。

①姫野優也
2015年ドラフト8位(天理(中退)-大阪偕星学園)
2022年シーズンには高卒7年目となる25歳
1人目は日本ハムの姫野優也ひめのゆうや投手です。野手としての二軍での成績は以下の通りです。

ホームランもある程度打ててはいますが、ウエスタンリーグよりも打高であるイースタンリーグということを考えると少し物足りなさは感じるかなと思います。何よりも三振が多すぎます。
2020年オフに育成落ちすると、2021年に登録が投手へ変更されました。



②張奕

2016年育成ドラフト1位(福岡第一-日本経済)
2022年シーズンには大卒6年目となる28歳
2人目はオリックスの張奕ちょう・やく投手です。野手としての二軍での成績は以下の通りです。

四球はそこそこ選べていますが、長打が打てていないという致命的な弱点がありました。
2018年の途中から外野手としての登録は変えることなく投手として調整し、2019年に支配下の投手として選手登録されました。

根尾選手のこれまでの成績はこの2人と比べても、まだ改善していく余地、一軍である程度打席数を与える価値はあると思います。

これらの事実を以て私が何を言いたいかというと、「野手としての見切りをつけるのが早すぎるのではないか?」ということです。確かに4球団競合のドラフト1位ということを考えれば物足りなさはありますが、それでも確実に成長を続けていました。また、ドラゴンズの高卒野手は一軍定着するのがあまり早くない、いわゆる「遅咲き」である傾向が見られます。(例:堂上直倫選手・平田良介選手は9年目高橋周平選手は7年目に規定打席到達)
根尾選手は4年目であり、同級生の大卒選手が入ってきたわけでもないのにこの判断、しかもシーズン中にやるのはやはり早すぎるのではないかと思います。

投手としての調整

根尾選手の投手転向の起用に関して、立浪監督は「当面はリリーフ登板として中継ぎで待機させ、代打なども気分転換でやる。最終的には先発。」と言っています。

はっきりいってこの起用方針に関しては意味が分かりません。

そもそも、プロ野球で投手をやる選手は毎年オフシーズンから投手として調整を進めています。今年の根尾選手に関しては、2022年シーズンを野手として戦い抜くために去年のオフから野手としての調整を進めており、ベテランの大島洋平選手と自主トレを共にするなどしていました。

しかし、この起用はこれまで行っていた野手の調整を気分転換で行い、投手の調整を進めていくということになります。「いつまでもどっちつかずではいけない」とありますが、これこそ「どっちつかず」ではないのでしょうか?

「最終的に先発で考えている」という言葉に関しても行動と一致しません。先発をやらせるのならば、今すぐにでも二軍に落とすべきだと私は思います。「投手の練習として走ることとゴロ捕、あと、けん制」を挙げていますが、先発ならばまず投球の練習をするのが先だと思います。
先発投手として一軍で投げられるようになるには複数の課題をクリアする必要があります。根尾選手に先発で1試合投げられるスタミナがあるかは分かりませんが、備わっていないならばそこを付けていくことも考えられます。更には変化球のレベルアップも課題として考えられます。現状、実戦ではストレートに加えてスライダーとフォークの2球種しか投げていませんが、先発として試合を作れるようになるには、新たな変化球の習得及び既存の変化球の精度の向上は必須になるでしょう。

そもそも「これまで野手として身体づくりを進めてきた根尾選手の身体が先発として150キロを投げる出力に耐えられるのか」という点も疑問です。ドラフトで獲得した高卒投手のほとんどがまず自身の出力に耐えうる身体づくりをメインに進めています。実際、今年の支配下で指名された高卒ルーキーの15人中8人は6/13(月)時点で二軍ですら登板がありません。

ロッテの佐々木朗希投手も例に漏れず、160キロを投げる出力に耐えられる身体づくりのために1年目は実戦登板をしませんでした。そして3年目となった今シーズンですら、完全試合を捨ててまで慎重な球数の管理が施されています。

根尾選手は160キロを投げるわけではありませんが、150キロを投げることが身体に負担がないことは考えにくいので、身体づくりに関しても重要な調整のひとつになると思います。

ここまで投手としての調整についてまとめてみましたが、これに関しては「プロで戦う投手、とりわけ先発投手を舐めている」と言われても仕方ない、それほどのことをやっていると私は思います。

ビジョンが見えない

多くの人が思うのはやはりこのことに尽きるのではないでしょうか。
最初に説明した、根尾選手の育成方針がコロコロ変わっていることがここに繋がってきます。
これについては今シーズンは根尾選手の育成方針以外にもブレブレの方針が垣間見えるところはありました。
そもそも春キャンプの時点で、立浪監督は今シーズンは「2,3年後のレギュラーを見極める」起用をすると言っています。

しかし、シーズンに入ってからはこの発言とは真逆の起用がしばしば見られました。もちろん石川昂弥選手、鵜飼選手、岡林選手、髙橋宏斗投手らの積極起用はチームにとってプラスになっており、石川選手は離脱中ではありますが、彼らは今のドラゴンズにとってプロスペクトではなく必要な戦力になっています。

しかし、キャンプで怪我をして開幕に間に合わなかった高橋周平選手や死球で離脱した大島洋平選手の調整が万全でないのにもかかわらず早期に一軍昇格をし、無理矢理スタメンで出場させると言った起用が見られ、この2選手は現在、持ち味を発揮出来ているとは言い難い状況になっています。
高橋選手は国内FA権の取得が、大島選手は2000本安打が狙える状況にはいますが、そういう選手こそ慎重に扱ってほしいというのが私の考えです。

なぜこの2選手かと言うと、この選手らを無理に起用することで根尾選手の出場機会が奪われていたからです。先程述べた交流戦で根尾選手が余り起用されない時期があったのですが、その時高橋選手は不慣れなショート、大島選手はレフトでスタメン起用される場面がいくつかありました。

この2つは根尾選手のポジションと被っています。「高橋選手を不慣れなショートで、万全でない、守備に衰えも見られる大島選手をレフトで、若くて二軍でも打撃がよくなっていた根尾選手を差し置いて」起用することがはっきり正しい起用であったか、甚だ疑問です。

また、代打起用に関しても、基本的に福留選手が優先して使われていました。今季45歳となる福留選手は、5/27(木)の西武戦の26打席目で初ヒットを記録するまでノーヒットでした。ヒットを打ったあとも他の選手を差し置いて代打で起用されており、結局1安打のまま、6/12(日)の日本ハム戦後に無期限の二軍降格とする報道がありました。

ここまで衰えを見せており、来年チームにいるかどうかすら怪しい福留選手を、根尾選手含む他の若手選手より優先して使うことが「2,3年後のレギュラーを見極める起用」でないことは明白でしょう。

ここまで監督としての「ビジョンが見えない」例を挙げましたが、球団としては前々から選手から指摘されていました。

指摘があった後でも、ドラフトなどで編成部などチームとしてのビジョンが見えない部分はありました。

ここまで現場経験がないにしても立浪監督がやっていることが酷いことは承知の上で、そもそも現場経験がない人間を監督にするのもどうかと思います。せめて二軍監督を経験させてからでも良かったのでは?と思います。

3.まとめ

ここまで色々思うことを書いてきましたが、正直、ここまで来ると根尾選手の起用に関してどれに賛成したらいいのか、私にははっきり答えを出すことが出来ません。しかし、今のままでは良くないと思います。この調子だとまた方針が変わって「やっぱり野手でいく」となることがあってもおかしくないです。

やはり一番大事なのは本人の気持ちだと思います。彼が何をしたいのか、彼の能力を活かすためにチームとして、監督として出来るのは何かをしっかり考える。チームではなく、組織として当然のことだと思います。もちろん彼の挑戦は応援したいと思います。しかし、指導者や首脳陣がこのような動きでは、不信感が募るばかりで、「応援しようにも出来ない」というファンは少なからずいると思います。
根尾選手だけではありません。このチームには若く才能に溢れた選手がいっぱいいます。彼らがしっかり自分達の能力を発揮し、再びドラゴンズの黄金期を築き上げていけるように、チームとして動いていって欲しいと思います。
読んで頂きありがとうございました。


■出典


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