見出し画像

創造性を磨くトイ・パズル④PLAY!たぐコレ

前回、絵しりとりを題材にイラストからアイデアを繋ぐことと創造性のつながりについて述べた。今回はそれをより明確にアートに寄せたゲームとして、PLAY!たぐコレを紹介したい。

遊び方はリンク先を見ていただくのが良いと思うが、ここでもごくかいつまんでゲームの概要を紹介する。セットに含まれているのはアートカード(実在する絵画のカード)と、「動物」「夢」「耳を澄ますと」「さわったら」など、抽象的なテーマが書かれたトークカード。トークカードは目で見て分かるものから、聴覚や触覚を働かすことを促すものまで含まれているのが面白い。
 これらのカードを使った遊びとして、以下のようなゲームが用意されている。

  •  引いたトークカードにふさわしいともうカードを、割り当てられた手札のアートカード群から選んでプレゼンする「クエスチョン」

  •  プレイヤーが順番に手札のアートカードを出してリレー形式に物語を作っていく「ストーリー」

  • 絵しりとりに似た、アートカードの解釈でしりとりを行う「しりとりゲーム」

  • 読み札の代わりに親役がジェスチャーをし、そのジェスチャーが意図するアートカードをいち早く見つける「ジェスチャーカルタ」

  • ランダムに引いた3枚のアートカード共通点を見つける「ニタトコミッケ」

これは製作者側が提案したものであり、これを元に発展形のゲームも作れるだろう。ニタトコミッケなどは、創造性を測る心理学の実験課題である「遠隔連想課題」にも通ずるものがある。遠隔連想課題とは、3つのそれぞれ一見共通性のなさそうな単語に対して、共通して接続できる語を探すというものだ。例えば、"pine", "computer", "pie"のいずれにも接続し、別の単語に出できる共通した1単語は何だろうか? "bank", "cream", "ball"の場合ならどうだろうか?(答えは最後に紹介する)

 一見関係なさそうな単語を繋げる共通点を探すというのは、広い範囲の記憶探索を必要とする。創造的で意外性、独創性のある答えはそうした広範囲の、多くの人が途中で断念してしまうような遠いところまで記憶探索を巡らせた先にあるのだ、という考え方もあり、これは活性拡散モデルとして知られている(創造性のさまざまな考え方とその変遷は、三輪・寺井(2003)や拙著「創造性はどこからくるか」を参照されたい)。

それ以外の「クエスチョン」「ストーリー」「ジェスチャーかるた」も前回の絵しりとり同様に解釈の多様さを許し、その意外性を楽しむ要素がある。「ジェスチャーかるた」などは作品の特徴を親役が身体表現するという手順があり、親の表現も見どころの一つとなっている。実際、こうした身体表現を積極的に取り入れた鑑賞プログラムも提案されている(鑑賞プログラマ―であり、自らも創作活動を行う佐藤悠氏の「親子のからだ鑑賞」が面白い)。佐藤氏もnoteで定期的に活動報告や新たな鑑賞プログラムの提案などを続けているのでぜひ参照されたい。佐藤氏の鑑賞プログラムは心理学的にも理にかなった配慮の行き届いたアクティビティが多く、今後も話題にしていくことがあろう。

 しかし、改めて冷静になって考えてみれば、この「PLAY!たぐコレ」、内容自体はアートカードにテーマカードを添えたに過ぎない。アナログゲームにありがちな小道具、サイコロもルーレットもチップもない。抽象的なトークテーマ、そしてそれを山札から引いていくというランダム性を付け加えただけで、アートカードは「お高くとまったご趣味」ではなく、「誰でも楽しめるゲーム」にできる。このわずかな一手でアートへの距離感を縮めたところがこのカードのすごさではないだろうか。

遠隔連想課題の答え:1つめはapple( pineapple, apple computer, apple pie)、2つめはsoft (softbank, softcream, softball)である。遠隔連想課題は日本語版もあり、3種類の漢字1文字に共通してつなげて熟語にするというやり方がとられる。

日本語版 Remote Associates Test の作成と評価(寺井, 2013) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/84/4/84_419/_pdf

洞察問題としての日本語版 Remote Associates Taskの作成(織田, 2018)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/advpub/0/advpub_89.17201/_pdf/-char/ja

日本語版 Remote Associates Task は洞察を測定するか(西田, 2020)https://www.jcss.gr.jp/meetings/jcss2020/proceedings/pdf/JCSS2020_P-68.pdf


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?