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偉人を使役して創造性支援に役立てる

 以前にも偉人・天才の研究についてはやや否定的なスタンスを取っていたが、否定してばかり、嫌ってばかりでは進歩がない。むろん、偉人や天才のことを見て学べる部分は学んでいくといいとは思う。今回は、偉人のマネをするのとは少し違う、偉人を勝手に使役して創造性を支援できないか、考えてみる。

方法1:AIに偉人を降霊させて使役する

 自分で書いていておよそ研究者の言葉とは思えない見出しだが、むろん、本当に魔術や召喚の儀をするわけでもなければ、聖杯戦争に挑むわけでもない。前にも取り上げた、生成系AIのプロンプトに偉人のプロフィールを伝えて演じさせるという方法である。特に有名な偉人であれば、詳細なプロフィールを伝えるまでもなく、名前を挙げるだけでAIが演じてくれるだろう。なかなか人の言うことを聞く気になれない人も、エジソンやアインシュタインのいう事なら聞く気になれるかもしれない。しかし、これは以前にも書いた通り、エジソンやアインシュタインが言うから正しいとは限らないし、ましては実際にはAIが彼らを演じているだけなので、答えが間違っている可能性は普通にありうる。よって、自分にはない視点での意見を求める場合や、逆に威光に負けずに偉人の言葉にも批判的に考えるトレーニングをする目的で用いるのが良いだろう。


 なお、ここではAIを併用した話をしているが、ラバーダックデバッグのように、心の中で架空の相談相手とするのも有効だろう。これもまた以前の記事で書いた話だ。


方法2:姿形から入る

 これは厳密に言えば、特定の偉人でなくても良い、というか、特定の偉人じゃない方が良いと言われていることだが、人は衣服によって考える姿勢を変えるという研究がある。Enclothed Cognitionと呼ばれるテーマの研究では、制服や衣装が着る人に与える影響を研究している。例えば、速く正確な判断を求める知的作業に取り組む際には、白衣を着ていた方が私服の場合よりも解決成績が高くなるという研究結果がある(Adam & Galinsky, 2012)。白衣がなぜ良いのか、というと、白衣を着るような人物はどんな人物かを考えるとよい。医者、科学者、薬剤師、エンジニア、料理人などが思い浮かぶのではないだろうか。こうした職業は、厳密な測定や材料の量の調整などをする場面が多い。そうすると、自らがそうした役割の人物の衣装をまとうことで、そういった職業に対して抱く印象や固定観念に基づく心構えをしてしまうというわけだ。昨今では学校の制服の在り方について、生徒が学校に掛け合って規則を変える、緩めるといった試みも行われているが、意外にも制服というものが、学校での気持ちの切り替えに貢献している。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022103112000200


ロトの剣は使い手を強くするのか?

 さて、実は今回の本題はこっちだったりする。先の述べたEnclothed Cognitionは特定の職業に関する制服をまとうことを例にしているが、これを有名人、偉人の使用品、所有物でやっても同じことが起きるのか、というのは素朴な疑問としてありうる。「医者」の白衣を着ると速く精密な判断ができるようになるかもしれないが、架空の人物「大門未知子」の劇中衣装だったらどうなるのか。あるいは実在する名医が使っていた白衣ならどうなるのか。その人物のことを知っている人とそうでない人では効果は違うのか。そのあたりはまだ十分な検討はされていない。名作RPG「ドラゴンクエスト3」では、ゲームクリア時に主人公が装備していた武器が、後年に伝説の武器「ロトの剣」と呼ばれるようになる(ロトとは伝説の勇者の称号)。それがたとえ「ひのきのぼう」でも「くさりがま」でも「まじんのかなづち」でも「ロトの剣」となる。シリーズの時系列的には、先に発売されたドラゴンクエスト1,2がドラゴンクエスト3の後の時代の物語となっており、そこで得られる「ロトの剣」は実際に強力な武装となっている。ひのきのぼうがもし強い武装になるのであれば、それは精霊ルビスの加護を受けてやばい威力を得るようになったか、「伝説の勇者ロトが使った」という事実が使い手の気構えを変えて実力を引き出したのか、どちらかだろう。しかし、所有者が明確に説明されると、自分との差異がはっきりしてしまって影響が表れなくなってしまうかもしれない。
 とはいえ、有名人の威光にあやかること自体は、モチベーションや普段とは違う姿勢、視点を引き出す上では役に立つ可能性がある。ただ盲目的に有名人や偉人の真似をするよりは、偉人に到達できたなら自分にも到達できる可能性があると信じて意識する方がいいだろう。

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