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【今日は何の日】タイムリミット感覚

黒田明臣さん撮影

日常より非日常が故に、今与えられている自分の時間が限られたものであることに気付いているからこそ、等身大の「わたし」というものが姿を現し、「現在」という時を必死で生きようとする、そんな、ひりついたタイムリミット感覚が、誰の中にも存在しているのではないだろうか。


■テキスト

[主]
「証言 零戦 生存率二割の戦場を生き抜いた男たち」(講談社+アルファ文庫)神立尚紀(著)

「証言 零戦 大空で戦った最後のサムライたち」(講談社+アルファ文庫)神立尚紀(著)

「証言 零戦 真珠湾攻撃、激戦地ラバウル、そして特攻の真実」(講談社+アルファ文庫)神立尚紀(著)

「証言 零戦 搭乗員がくぐり抜けた地獄の戦場と激動の戦後」(講談社+アルファ文庫)神立尚紀(著)

[副]
「鳩よ!」(1991年5月号)特集「湾岸の海の神へ」

「戦争は何をもたらしたのか・?
この地球に、わたしたち人類に。
世界中の詩人・作家たちから、戦火の湾岸へ、その傷跡へ、そして、今も原油にまみれているウミウたちへの歌がはじまる。」(冒頭のページ)

鳥よ!
「(前略)
「カメラよ!」
原油塗れの鳥を撮る前に。
何か撮るものはなかったのか?
カメラマンの趣味で
地球の終末を読まされる身にもなれ。
僕は目を信用しない。
映像を信用したくない。
マジックで見事にだまされる度に、
自分の目を信用しない。
情報なら音も欲しい。
「鳥よ!」
悲しげに啼くことは出来なかったのか。
「カメラよ!」
原油に塗れた鳥の映像は
ひょっとして検閲を済ませたもの
情報戦に利用されてはいなかったか。
(後略)」
(永六輔)

■参考記事①

■「生きてるってどういうこと?」谷川俊太郎(著)宮内ヨシオ(イラスト)

写真詩集『生きる』全文

「生きる」 谷川俊太郎
生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木もれ陽がまぶしいということ
ふっと或るメロディを思い出すということ
くしゃみすること
あなたと手をつなぐこと

生きているということ
いま生きているということ
それはミニスカート
それはプラネタリウム
それはヨハン・シュトラウス
それはピカソ
それはアルプス
すべての美しいものに出会うということ
そして
かくされた悪を注意深くこばむこと

生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ

生きているということ
いま生きているということ
いま遠くで犬が吠えるということ
いま地球が廻っているということ
いまどこかで産声があがるということ
いまどこかで兵士が傷つくということ
いまぶらんこがゆれているということ
いまいまが過ぎてゆくこと

生きているということ
いま生きているということ
鳥ははばたくということ
海はとどろくということ
かたつむりははうということ
人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ

■参考記事②

■「生きる」を使用した短歌

人はみな、馴れぬ齢を、

「生きている」

といったような、ひとつの「思索性」であったり、あるいは、「主知的」、または「理知的」と言われるようなものの源泉、つまり、自己規定にもなっていると思われる。

「老いたるは化けやすしとぞ艹(くさかんむり)かぶれば花よ 私は生きる」
(春日真木子『何の扉か』より)

「ぼくはぼくを生きるほかなく沸点を越えてゆらめく水を見つめる」
(西巻真『ダスビダーニャ』より)

「生きるとはその身のうちに洞穴を抱へることか倒れし楡よ」
(千葉優作『あるはなく』より)

「生きるのが大変だった アルバムはひらけどひらけど大運動会」
(平山繁美『白夜に生きる』より)

「永遠に生きるみたいな耳鳴りがきこえる それは熱心に聴く」
(橋爪志保『地上絵』より)

「高架下の長めに生きる猫たちに睨まれつつもかずを数える」
(井村拓哉『上終歌会』より)

「生きるとは硬貨を抱いていつまでも着かないバスを待つ人のごと」
(田中ましろ『燈心草を香らせて』より)

「息を吸い肺膨らませ吐いて泣くそれが独りで生きる始まり」
(島本太香子「眠る嬰児(みどりご)」「短歌往来」2019年4月号より)

「足のうらを剝がし剥がしてゆくことを歩くと呼べり生きると呼べり」
(飯田彩乃『リヴァーサイド』より)

「僕たちは生きる、わらう、たべる、ねむる、へんにあかるい共同墓地で」
(岸原さや『声、あるいは音のような』より)

「ねえさんの蝶々結びは縦になり生あるるまへから落ちかける蝶」
(吉田隼人『忘却のための試論 Un essai pour l’oubli』より)

「玄界灘の波濤めがけて走り出すともだちのいま生きている背中」
(鯨井可菜子『アップライト』より)

「生き死にを茶化せるわれを遠のいて昼餉の卓につく僚友(メンバー)ら」
(澤本佳步『カインの祈り』より)

「生きてある実感きみに沁みゆけと口に運べりわづかなる餉を」
(大塚寅彦『ハビタブルゾーン』より)

「したいことだけして生きるしたいこと特にはなくて息をしている」
(島楓果『すべてのものは優しさをもつ』より)

「時かけて降りてくるものうつくしき 粉雪、花弁、生きものの羽」
(片岡絢『カノープス燃ゆ』より)

「ゆうまぐれまだ生きている者だけが靴先を秋のひかりに濡らす」
(竹中優子『輪をつくる』より)

「脱がせたら湿原あまく香り立つわたしが生きることない生よ」
(山崎聡子『青い舌』より)

「生きる世はまばゆしと人は言うけれど躰をまるめるだけである影」
(立花開『ひかりを渡る舟』より)

「遺影とふ触るるをこばむ笑みありてみづ盈(み)つるなく封じゆく生
(上村典子『草上のカヌー』より)

「生きるとはなにか死ぬとは ハンドソープがわが手に吐きし白きたましい」
(北辻一展『無限遠点』より)

「約束の数だけ長く生きられる駅から光こぼれやまず」
(北山あさひ『崖にて』より)

「なにもなき日々をつなぎて生きてをり皿の上には皿を重ねて」
(門脇篤史『微風域』より)

「生きるとは湯気立てること深くふかく菜箸を鍋底に突き立て」
(工藤玲音『水中で口笛』より)

■「生きる」を使用した俳句

笊のまだ生きてをり秋の雨/占

一生を勤勉に生き冬籠/黒川花鳩

生きていて畳表を裏返す/穴井太

盤台に鰹生きたり若楓/正岡子規

盤台に松生きたり若楓/正岡子規

鬼灯や清原の女が生き写し/蕪村

雑炊に生きて百書の志/遠藤梧逸

蓮千変生きる構への枯蓮/齋藤玄

月明や夜撫の鮑笊に生き/西村公鳳

生き死にを俳諧の種籠枕/長谷川櫂

あはれとは生きの験の春の暮/朱鳥

日本遠し落葉の下に泉生き/有働亨

生きてゐる泡の力や寒造/猪野翠女

万燈に闇生きてゐる大旦/狹川青史

涼しさに一筋生きて水屋川/松本進

信にのみ生きて深皺炉を守る/林翔

三尺の鯛生きてあり夏氷/正岡子規

この恋に生きなば麦の金の禾/林桂

三年を生きむ三年日記買ふ/鈴木勇

争ひは生きてる証春の泥/橘/弘子

石仏に生きて頬もつ春乙女/森澄雄

立冬の女生きいき両手に荷/岡本眸

省略の多き生き方終戦忌/御崎敏江

切株の生きて紅さす雪解風/岸田稚

炎天や生き物に眼が二つづつ/林徹

力抜くことも生き方草の花/角光雄

寒詣生きる証の杖ついて/塩川雄三

咳一つ生きて玉葱岬に積む/原田喬

生き欲の肩に力や羽抜鶏/佐藤母杖

癌の妻隠元花下を生き急げ/齋藤玄

波郷忌の泉に生きて水馬/向笠和子

土に生きる人頑なに鵙の贄/橋間石

ひた眠る瞼は生きて秋の風/斎藤玄

八月や生き証人が貝になる/加藤学

奔放に生きて骸や蟻地獄/岡田守生

戦経て生きる達人敬老日/佐藤正一

写生説厳然と生き獺祭忌/大橋敦子

生きてゐる重さ寒鯉苞に巻く/火川

忌詞杣には生きて寒夕焼/茨木和生

広島に生きて日焼の脚太し/岡本眸

枯蟷螂生きる証の斧動く/栗山妙子

鮒生きて柳鮠死ぬ桶の水/河西河柳

鮎鮓や生きてよし野の瀧の/森鴎外

玉虫の玉虫色の生き難し/津嶋/和

冬衾生き身の温さ抗へり/内藤吐天

熱帯この宝石は生きてゐる/瀧春一

流氷の鴉よ陸に生き難く/津田清子

雀烏われらみな生き解氷期/原田喬

陋巷に尚生きる身や納豆汁/峰青嵐

生きること急がぬ構へ蟇/小室善弘

行年の齲歯の虫が生きてをり/麦草

生きて世に人の年忌や初茄子/几董

平凡な女に生きて針納む/山田弘子

塩に蠅延々生きる港まち/成田千空

生き急ぐなよ小満の花時計/森茉明

山中に生きぬく鯉に春の雲/車谷弘

一徹に生き蓑笠や百日紅/古舘曹人

草書体で生きている凩くる/窪信路

凩の死角一灯生きてをり/植田暁生

秋風や巨口の鱸生きてあり/高濱虚子

暗闇も生きもの二つ茄子の馬/上村占

生き皺に煙からまる村芝居/武田伸一

暮の秋二重に生きて雲と土/落合冬至

曇天や蝮生き居る罎の中/芥川龍之介

命濃く生きたき日なり秋袷/朝倉和江

生きものの声あげつづけ冬泉/杉良介

秋口の泉に生きるもの動き/佐野美智

初春や命愛しみ生きゆかむ/山本セツ

生きものの匂ひ充満春の闇/高橋冬峰

淡々と生きゐて風の放生会/大山好春

初燈明けふ生きてある証とも/杉本寛

初護摩の焔生きたり金色仏/高島筍雄

人当たり柔らかく生き蓬餅/岩城久治

生き足りてにこにこと姥山桜/森澄雄

生きもののすれ違ふ眼や冬霞/桂信子

大海に生きものひとつ冷馬/福田蓼汀

人間は生きよと銀河流れをり/上野泰

磯料理ばかりか生きの桜鯛/稲畑汀子

生きて泣く籏こと給ふ年忘/石川桂郎

夜焚火に唇熱し今を生き/櫛原希伊子

こわした身体で夏を生きる/住宅顕信

ご先祖の誰より生きて年女/池北久子

百生きて嫗恥ぢけり桃の宿/塩谷華園

白の生きし重さを計らるる/安井和美

夜寒袖抱けば胸に紙治生き/千賀静子

望楼壊す景の春暁指が生き/寺田京子

喉管除れ生きて再び盆唄を/金子晃典

生命線超えて生きたり夏灯/村越化石

生き難く生きて外套裏も黒/中村明子

生きて歸れ露の命と言乍ら/正岡子規

朝寒や生きたる骨を動かさず/漱石

千年の口伝が生きてお水取/高澤良一

仏壇の宙に生きもの春の塵/鷹羽狩行

泥染の生きて遅日の黄八丈/石野冬青

春浅し人の世生きる塩加減/松田都青

生きて来し証の民具冬近し/本田末子

仏生会生きる限りを恩の中/中川博秋

千本の毛みな生きて毛虫かな/高田保

千鳥聞其ちどりこそ生き仏/松岡青蘿

生き方の少し変りし大旦/市野沢弘子

春昼や皆生きてゐる甕の藍/福田蓼汀

生きている様な声なり松売/正岡子規

木枯や星皆生きて夜の空/東洋城千句

生き方に矜持ありたし秋薊/福島壺春

半生を風として生き秋の蝶/小林知佳

死んだ夢は生きた夢也花芒/正岡子規

生き急ぐ馬のどのゆめも馬/攝津幸彦

生きて食ふ一粒の飯美しき/佐藤鬼房

原爆忌生きて自愛の卵割る/中村孝一

木枯や生きて諾ふもの多く/藤田柊車

日蓮忌火伏の柱生きてをり/萩原麦草

生き急ぎ父が落花生に咽ぶ/鈴木修一

倍生きて凡なる吾や獺祭忌/堀口俊一

欲捨てて今も生きをり蜆汁/村越化石

実直に生きて今日あり寒椿/宮川仁子

墓洗ふ強く生きたる母なりき/丹碧霄

母の倍生きて何せし花菜漬/後藤房枝

日本に生きるほかなし心太/山本左門

生きている重さで飛ぶ蝗/増渕としい

夕川の音生きて来し朧月/柴田白葉女

生き克ちし八十八の初手水/富安風生

生きてゐる糸のさき~糸柳/藤後左右

古漬けの生姜百まで母生きよ/加藤昇

湯婆や生き永らへし物の恩/鈴木花蓑

東京の隙間に生きて初つばめ/林瑞夫

生き下手の齢を加へ鰯雲/福田一六四

入道雲癒えよ生きよと窓覗く/秋澤猛

妻生きて黄菊の時を盗むなり/齋藤玄

清貧に生きて大志や冬柑子/巌谷小波

切り株の生きて紅さす雪解光/岸田稚

茜寒し袋に蝗生きてゐる/千代田葛彦

あか棚やまだ生きて居る紅葉鮒/嵐竹

生きている音のいなごの紙袋/北山河

美しく生きて身罷り星月夜/浅井詔子

折鶴の生きては春著綻ベり/和田悟朗

繭玉の玉の百ほど生きぬかん/上村占

一芸に老い詩酒に生き更衣/高木青巾

奔放に生きし八十路や烏瓜/小川末子

冬の暮遠き白さの鶏生きて/宮津昭彦

我死して湯婆生きたる夢を見る/不倚

生き上手はなし上手や菊の酒/台迪子

生きてゐる負目八月十五日/志賀重介

生きて在る日の月光の湧井かな/林桂

七日粥母の言葉の今も生き/河野南畦

懸命に生きて孑孑嫌はるる/宗圓あき

塵かと吹けば生きてゐて飛ぶ/山頭火

枯山に一筋生きて木馬道/石田あき子

煙立つ生きて帰りし落葉焚/西東三鬼

息白く皆生きたりし人の墓/西島麥南

梟を飼ふ高層を生きるため/櫂未知子

鴫焼の茄子生きて居り笊の中/柴浅茅

枯芙蓉気儘に生きし覚えなし/安住敦

夏衣生きる証しの巡礼や/岩上千枝子

鰭酒や通天閣は生きてゐる/藤本蓼巴

父程は生きられまいに花礫/澤井洋子

鰭動くとき生きてをり寒の鯉/六花女

海に生きし人こそ寡黙桃の花/中拓夫

流されて生きぬ齢ぞ餅焦がす/小島健

鯉幟風の芯呑み生きかへる/宮坂静生

精一杯生きて見やうか鰯雲/近衛節子

三伏や七十の母生きて病む/相馬遷子

簡単に生きる金を見本とす/高澤良一

を釣る蛆虫のみな生きてをり/小野博

森青蛙泡生きている沼の木に/渡辺勵

鬢白くして生きのこる草いきれ/誓子

生きてゐることに合掌柏餅/村越化石

冬苔の生きて彩もつ賞花亭/小山繁長

雲とへだつ友にや雁の生き別れ/芭蕉

平凡を大切に生き去年今年/稲畑汀子

雲とへだつ友かや雁の生き別れ/芭蕉

雪解風藁馬赤き緒で生きて/友岡子郷

冬菫母の句集に母生きて/岡田晏司子

太古より生きて髭振る油虫/柴田奈美

生き返る蠅腸を曳きずりて/右城暮石

雪催剥き蛤のなほ生きて/鈴木真砂女

空蝉の生き~と幹掴みをり/徳永球石

雑学の余生を生きて冬の虹/古谷正子

生きること精一杯の蝉時雨/亀井歌子

やはらかに生き熱く生き雑煮餅/林翔

生きること神父が語る花林檎/源鬼彦

晩年の生きざまふっと烏瓜/河江麗子

生きものの形そのまま鵙の贄/山口速

冬遍路耐へし帰山の生き仏/門屋大樹

世に生きて青葉隠れの遅桜/高浜虚子

秋風や頼らず生きて鬢の白/毛塚静枝

鋸屑に蟹が生きをる三が日/栗山朗子

返り花一輪は母生きむため/木村敏男

農に生き土に還る身初山河/富田昌宏

秋風や生きのこりたる黒金/川口重美

行く秋を生きて帰りし都哉/正岡子規

蝸牛や病と共に生きてをり/岩田昌寿

中天に雁生きものの声を出す/桂信子

歯固や犬馬の如く生きて尚/鳥居白山

生き蛸の盛り上がる山日雷/平畑静塔

蝮酒恃み生き恥殖やしけり/安江緑翠

蝙蝠や地下壕に生き賢き目/矢島渚男

蝉も蜻蛉も乾いて生きる風の暮/林桂

蚯蚓鳴くや油に生きし昔の灯/東洋城

冷静に生き曖昧に初冬に亡く/竹中宏

虫を聞く老いに翼の生きるかな/原裕

帚草生きていしかば失えり/久保純夫

死せる赤生きてゐる赤金池/右城暮石

大鯰ぬるぬる生きてゐる証/佐藤宣子

丹念に生きる途中の春霞/岸本マチ子

命二つの中に生きたる桜哉/松尾芭蕉

生きものの重さを沈め種俵/若井新一

川の音の十灯生きる手術室/寺田京子

蓬莱に我生きて居る今年哉/正岡子規

葱甘し生きる理由は単純で/櫂未知子

峡中のひとの生きざま青嵐/飯田龍太

山脈に本気に生きて二輪草/桃木光子

初恋のあとの永生き春満月/池田澄子

生きものの泡枯蓮の真下より/長田等

生きものの河泡立たせ狂信徒/三谷昭

凍蝶や生きて一縷の沢のおと/金子潮

萬愚節母より生きて化粧して/岡本眸

菖蒲の葉一枚生きて冬の園/山口青邨

夏氷生きのこりいて匙の音/三上史郎

菊作り一途に生きて美しく/田辺粧洋

寒紅の口許生きて来し会話/稲畑汀子

寒明けや欅の全枝天に生き/相馬遷子

寒鮒が生きる一日水汚さず/中山純子

凩に生きて届きし海鼠かな/石井露月

秋風や生きて相見る汝と我/子規句集

草の絮平常心で生きてゆく/白川恵子

大阪の暑気や生き貝箸の先/細見綾子

生き過ぎを嘆き食良し万愚節/角田敬恵

百年は生きよみどりご春の月/仙田洋子

百年を生きて翁の面はづす/水野真由美

泉より生きもの獲んと童たち/津田清子

百歳も生きて何する達磨の忌/松田都青

生き過ぎて厄年表になき寒さ/木田千女

蓑虫や生きるも死ぬも蓑の中/澤井我来

秋の風人の恩ばかりに生きて/阿部完市

秋風の屋根に生き身の猫一匹/西東三鬼

秋風や生きてあひ見る汝と我/正岡子規

生きてありと言の重さよ冬満月/杉本寛

秋風や砂丘は生きてゐて動く/山本杜城

生き過ぎてまた節分の豆拾ふ/木田千女

竜の玉父の齢は生きがたし/藤田源五郎

竜の玉龍太語録が生きてをり/高澤良一

笹鳴や生あたゝかく言生きて/石塚友二

生き過ぎし者で賑はふ茸山/小泉八重子

生き返るわれ嬉しさよ菊の秋/夏目漱石

粽解く斯く虔しく生き継がむ/石田波郷

網出づる虎の棘のみな生きて/綾部仁喜

繕ひて猪垣の知恵生きてゐし/山田庄蜂

生き身こそ蹤跡無かれ桃の花/永田耕衣

羅に恙を堪へて生きにけり/高橋淡路女

羅や欲捨ててより生き易き/古賀まり子

生き行く道難し太古の露の月/石塚友二

羽の国に生きて乙字や青山河/河野南畦

生き継ぎて齢朧の中にあり/木附沢麦青

暑き妻へまだも生きよと癌の声/斎藤玄

花四葩生きて居て書く追悼文/中村明子

花氷生きてゐしかば眼濡れ/岩井三千代

生き継ぎし村を湖底に囀れる/山本ふみ

生き皺も骨のようなり椿の日/永田耕衣

花石榴生きるヒントの二つ三つ/森慎一

草一条氷柱の中に生きてをり/二川茂徳

草市の槇の青さの生きてをり/塚田青女

生き物の足裏乾けりビルの街/森田幸子

曖昧に生きぬ証しの寒紅ひく/中村明子

草茂る鄙野に生きるもの親し/稲畑汀子

生き殘る蠅ならなくに秋惜む/正岡子規

萩咲くや生きて今年の望足る/正岡子規

生き殘る藪蚊するどし秋の風/正岡子規

生き死やがやがや語り墓参り/中山純子

薄暗き匂い夏蚕の生きる音/片江恵美子

こくめいに生きて句に住む寒椿/原石鼎

生き死は人の世のこと山笑ふ/半田陽生

虫籠に生きのこるみな金亀子/福永耕二

黒闇を生きて黒髪冷まじき/文挟夫佐恵

蛞蝓の愚直に生きて愚に徹す/岩田洋子

蜩の生きる軽さを掌に受ける/星永文夫

蝙蝠の逆さでゐたり生き通す/玉城一香

この星に生きて存へ月祀る/鈴木ひさ代

この館に生きてゐるダリ鰯雲/唐橋秀子

蟷螂の土色を濃く生きてをり/伊藤白潮

生き死にの話に及び土筆和え/増田斗志

蟾蜍神恨まずに生きやうぞ/大野せいあ

生きすぎて忘れらるるな山椒/鷹羽狩行

行年の齲歯の虫が生きてをり/萩原麦草

西日中一つの窓で生き通す/内藤三津子

炎天下生きては古ぶ顔かたち/三橋敏雄

記憶生き五感引緊む月光裡/河野多希女

貝塚に蟹は火色に生きてをり/飯山/修

したたかに生きし眼や寒の餅/遠藤信子

身に余る髪を塒に生きんとす/栗林千津

身の丈に生き十薬の花の白/小島日登美

身の秋や俳諧に生きて悔もなし/原石鼎

生き方も死に方もまた霧の中/東智恵子

身を軽くして生きるべし桜餅/栗原稜歩

泥生きて椋の実を今押え込む/木村正光

朝曇壊れぬやうに生きる母/山田みづえ

身一つに生きる気安さ蝸牛/仲田志げ子

連翹忌日陰に生きて光源たり/香西照雄

滝冷やか生きて濁りてゆく眼には/静塔

運河の上星生き降誕祭近し/古賀まり子

酒蔵の酒生きてゐて冴返る/中島木曽子

■今日の短歌

・サラダ記念日
「「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」

「今日までに私がついた嘘なんてどうでもいいよというような海」

「「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ」

「思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ」
(俵万智『サラダ記念日』より)

「族なるをみな三人海のぞむホテルにこころを曝して語る」
(矢野悌子『沢瀉』より)

「観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日(ひとひ)我には一生(ひとよ)」
(栗木京子『水惑星』より)

「我のみが知る記念日は数ありてそのたびひとりのさびしさに気付く」
(田中雅子『令月』より)

「きみの持つ釣りざお見ながらゆく港 寒い そうだね噓みたいだね ね」
(初谷むい「臨海、海だらけってことだよ」『北大短歌』第五号より)

「秋のよるもう寒いねと傳八で品書(しながき)見をり おからがいいね」
(高野公彦『水苑』より)

「紙ひとえ思いひとえにゆきちがいたり 矢車のめぐる からから」
(平井弘『前線』より)

「夏帽のへこみやすきを膝にのせてわが放浪はバスになじみき」
(寺山修司『空には本』より)

「きみに逢う以前のぼくに遭いたくて海へのバスに揺られていたり」
(永田和宏『メビウスの地平』より)

・ピアノの日
「花束はピアノの上に置かれたりアンコールへと入りゆく静寂しじま」
(飯沼鮎子『プラスチックスクール』より)

「革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ」
(塚本邦雄『水葬物語』より)

「ねこたちが居間でうろうろアドベンチャー ピアノに乗ってさらに欄間へ」
(山川藍『いらっしゃい』より)

「藍よりも愛はつめたし 夜の窓を右舷となしてきらめくピアノ」
(井辻朱美『コリオリの風』より)

「アダムの肌白人は美はしき白といひエチオピアの子は褐色といふ」
(春日いづみ『アダムの肌色』より)

「誰も弾かぬピアノとチェンバロある家で除湿機の水をせつせと捨てる」
(福井まゆみ『弾かない楽器』より)

「消し去るための過去などあるな君の部屋のグランドピアノ黒鍵ばかり」
(福島泰樹『哀悼』より)

「わがピアノ薔薇のフェンスを越えゆけば苦しき日日は虚空に溶くる」
(徳高博子『ヴォカリーズ』より)

「ぴあのぴあのいつもうれしい音がするようにわたしを鳴らしてほしい」
(嶋田さくらこ『やさしいぴあの』より)

「ゆふぐれはピアノをさらふ時刻なり子も友の子も弾きにしハノン」
(森川多佳子『スタバの雨』より)

「ゆるやかにピアノの中にさし入れる千年前の雨の手紙を」
(鳴海宥『BARCAROLLE 舟唄』より)

「蔽はれしピアノのかたち運ばれてゆけり銀杏のみどり擦りつつ」
(小野茂樹『羊雲離散』より)

「〈中ピ連〉をネット検索せしときに「中年ピアノ愛好者連盟」が出る」
(生沼義朗『水は襤褸に』より)

「夢の中ではジャズピアニストのものだった指で洗濯物をあつめる」
(安田茜『結晶質』より)

「どこからが音であるのか一本の指のおもさが鍵盤キイになるとき」
(河野美砂子『無言歌』より)

・メロンの日
「メロンパンの袋をあける いつもとは違うあけ方でとても綺麗に」
(二三川練「それを夜と呼ぶ」『象』第五号より)

「まよなかのメロンは苦い さみしさをことばにすれば暴力となる」
(兵庫ユカ『七月の心臓』より)

■参考図書

「安野光雅きりえ百首 俵万智と読む恋の歌より」安野光雅(著)

「あなたと読む恋の歌百首」(文春文庫)俵万智(著)

「王朝百首」(講談社文芸文庫)塚本邦雄(著)

「百首でよむ「源氏物語」 和歌でたどる五十四帖」(平凡社新書)木村朗子(著)

「日本とは和歌 国史のなかの百首」松浦光修(著)

■「自分の力なんてないんだ」という感覚

自分の力なんてないんだと思っている人は、まわりに支えられて生きていることがわかっているので、謙虚です。

謙虚とは、感謝すること。

可能な範囲で、「そ・わ・かの法則(掃除・笑い・感謝)」を生活の中で実践することで、教え合い、学び合い、交歓し合う。

■また1日が過ぎていく

Lizabet「Another Day Goes By」


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