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「ベイトマンニュース」スコットランド生活㊳職人技

野菜工場で働き始めて早くも2か月です。
最近では人参ピックだけではなく、バターナッツスクオッシュ(ひょうたんみたいな形をしたかぼちゃの一種)やパースニップ(白人参)、スウェード(かぶの一種)をカットしたり、パプリカの種を取ったり、人参をカットする機械を担当したり、と仕事内容もバラエティーに富んできました。

一緒に働く人たちとも顔見知りになり、身振り手振りで話したり笑ったりできるようにもなりました。
今回は一緒に働く人たちの中で、めっちゃ面白い職人技を持っている人たちを紹介していきたいと思います。

まず人参ピックを専門としているおばちゃん。どこの国の人かな。たぶんポーランドかなぁ、となんとなく思っています。
まぁこのおばちゃんの人参の取り方が大胆です。両腕を交互に振りかぶって、ガシっガシっと掴んでいきます。そのテンポがちょっとだけ、微妙に遅い。笑。私が取ったその直後におばちゃんの大きく振りかぶった「ガシっ」がやってきて、私の手ごと掴み取られる。これが痛いんですよ。私はこのおばちゃんのことを密かに「妖怪人参両手掴み取り婆ぁ」と呼んでいて、このおばちゃんが私の向かい側に立つと、かなり緊張でビクビクするほど。
でもこのおばちゃんの攻撃のおかげで、私の人参ピックのスピードがますます速くなったのも確か。だって「ガシっ」とされたら痛いですからねぇ。おばちゃんが腕を振り上げた瞬間に私はサッと取ってしまい、おばちゃんは「ガシっ」とベルトコンベアに空振りでぶち当たっております。笑。

もう一人は前述の妖怪(失礼!)よりもう少し若い人。ルーマニア人かなぁ、と思っているけど確かではありません。
彼女の恐ろしい技は、バババっと目にも止まらぬスピードで取った人参たちを、まとめて振りかぶって一挙にシュート(ゴミ箱のようなもの)に叩き落とす、というもの。私はこれを「人参岩石落とし」と呼んでいます。
これも非常に危険です。人参は思っているよりもずっと硬く、それをまとめて高い位置から叩き落とされたときに、たまたま私の手が同じシュートのところにあると、もう大変。私のか細い手が岩石落としを一挙に浴びることになってしまいます。一度私はこの攻撃で左手中指が紫色に変色し、パンパンに腫れるっちゅう痛い目にあいました。
以降彼女が私の隣にきたときには、シュートから急いで手を引っ込めるようにしています。

一番素晴らしい技の持ち主は、この道15年のベテランのスコットランド人のよう肥えたおばちゃん。彼女は仕事始めにデンとシュートの横に立ってからは、一日中全く動きません。動くのは右手のみ。同じリズムでぽっぽっぽっと人参をシュートに入れていきます。どんなにたくさんの人参が流れてきても全く動じず、同じ姿勢、同じリズムでぽっぽっぽっ。いや、ちょっとだけテンポが速くなるかな。ぽぽぽぽぽって感じ。ほんまにすごいです。
この人を見ていると、前述の妖怪も岩石落としも、無駄な動きが多すぎてまだまだやなぁ、としみじみ思ってしまうほど。
無心で同じペースで同じリズムで、一日中ぽっぽっぽっ。いやぁ、ほんまにすごい職人技やなぁ、と感心します。(同僚に危害を与えることもないし。)

そんな中でまだまだ駆け出しの私が編み出した技は、下腹を利用して大量の人参をホールド(持つ)という悲しいもの。 
流れる人参に沿って動きながらピックをしていると、うっかり’少しずつシュートから離れてしまうんですよ。そうするとピックした人参をたくさんホールドしないと、シュートまで横移動を何度も繰り返す、というバスケの自主練みたいな動きになってしまい、へとへとになるんです。
だからできるだけ一度で多くの人参を抱え持ちたい。ところが私はこんなに背が高いのに、手足がものすごく小さいんです。(背が高くてバスケ部にスカウトされたのに、結局手が小さくてボールを片手で持つことができず、大成しませんでした。)せやからめいっぱい手を広げても、たくさんの人参が持てない。う~。と編み出したのが、背中を丸めて、腕と下腹の間にへこみをつくり、そこで人参をホールドするってもの。いや、これはかなり持てますよ。今まで邪魔者扱いしていた私の立派な下腹が役に立つことはうれしい。うれしいけど同時に悲しい。この技で人参がめっちゃ持てるけど、なんだか物悲しい。そんな技です。笑。

野菜を扱う仕事でも、真剣に取り組めば職人技と呼べる域に達することができるんですね。逆にいえば真剣に取り組まなければ職人技にはならんわけです。
さぁ、私も頑張ろう。いつの日かぽっぽっぽっと取れるかな。

まん丸人参三兄弟
てくてく人参

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