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コミティア134で買った本の感想

今回のコミティアで特に素晴らしかった作品の感想を書きます。

かわすみ非常『愛する価値もない・下』

 

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約2年前から発表されたシリーズの完結版。未来のない酒と薬づけのニートの男(25)とそれに翻弄される男子大学生の暴力的な関係性のBL。描写の緻密さと、主観的なカメラワークが高い没入感を与えてくれてすばらしい。きたなさとかわいさの混濁した感じが良い。マンガ表現は簡単に現実を越えてしまうけど、この作品はどこまでも現実から逃れられないことが前提の破滅性で、死の香りも、暴力も、その場しのぎで物語的カタルシスを生まない……そのアメリカンニューシネマ的やるせなさがすばらしい。

 そういえばこのマンガはじめて読んだとき俺はぎりぎり大学中退前で21くらいだったはずだが、今はどうしようもないニートの23歳(お薬ももらってるし…)なので登場人物とのシンクロ率が上がったのも味わい深い……。


ツムラネオ『ぐみ沢を待ちながら』

 タイトルでわかる通り『ゴドーを待ちながら』的構造を持った物語性の薄いマンガ。写真を模写したような写実的な背景に線の少ないキャラというガロ的な、あるいはコミティア的ともいえるスタイルで、ぐみ沢を待つ二人のキャラのとりとめもない会話が続く。さて、この作品のすごさは最後のコマに集約される。読者はゴドーと同様にぐみ沢は来ないのだろうか、それとも来るのだろうかと思って読む。途中でぐみ沢について出る説明は「どうやら背が高い」ということだけ。
 そうして迎えた最後のコマ。不思議なスロープの上で「どこにいるんじゃー」「ぐみ沢ーーー」と言う二人。そんな二人の背景のビルの向こうに超巨大な怪物が見える(二人は気づいていない)というオチ。

 この背景の怪物をぐみ沢だと思うこともできる。その場合背が高いってビルよりデカイってことかよ!ってことになり、ギャグ的にとらえられる。道中には二人の主人公の二分の一くらいのサイズのキャラ(クリスマスネズミと呼ばれる)も出てくるから、デカすぎる奴がいてもおかしくはない世界観ではある。

 だがこれがぐみ沢という保証はない。最後のコマで二人が立っている謎のスロープは回廊上になっていて、これはループを暗示させる。そもそも『ゴドー』自体がループくさいし…ということで、最後のコマでいきなり巨大な不条理が現れる感じが最高。今までの小市民的なコマも会話もすべてがなにか意味深に感じられる。全部説明しちゃったけどpixivで公開しているから読んでみてね。


弱酸コミックナツ号

つきあいのあるアラスカ4世さんが寄稿されたと聞いて買わせていただいた合同誌ですが、そのほかの方の作品も良かったが、特に私の琴線に触れた作品の感想を。

アラスカ4世「ヤバイアイランド旅行記」
 政治ネタと不条理成分とミニマリズムな絵が特長のアラスカさん。今回の作品は「ヤバイアイランドがどうヤバイか」を説明するだけにマンガの全部を注ぎ込んでいてすごい。この人ぶっこわれてんな(誉め言葉)。

戸塚こだま「呪術無双」

 なろうパロ的な作品。なろうパロ的な作品すら飽和してきたなかで、十分な読みごたえとおどろきがあった。

あと青酸(聖・サンダー)さんの絵もかわいかった。次回も買いたい

高橋高志『それいけ日常アニメ部!~オレが美少女になった~』


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 どうでもいいけどタイトルだけ書くとエロ漫画みたいっすね。作者曰くかくまい氏の『独立小国家きらら』(僕のブログで紹介したときの記事はこれの最後)に影響されたそうで、アニメ的な世界にあこがれる人々がアニメキャラごっこをはじめるという点は『独立小国家』と同じ。だが、それを男子高校生が部活としてはじめる点に差別化と独自性がある。

 一念発起した主人公が意味わからん部活をつくり、やってくれそうな顧問を見つけるというくだりが入るが、その筋書きは、要するによくわからん部活モノ萌えアニメのはじまりを感じさせる(「ゆゆ式」とか「あそびあそばせ」とか)。萌えアニメにあこがれる人間が萌えアニメ的展開を起こすというこのこみいったメタ性がおもしろい。
 しかし物語は主人公をライバル視して日常アニメ部を将棋部に戻そうとする敵との将棋バトルになる。勝負は妹の死という回想シーンを挟んだ主人公の勝利におわるが、それはもう萌えアニメではない。哀しき回想シーンを挟んで勝つのは少年漫画的「燃え」の世界である。つまり主人公は日常アニメ部を守ろうと戦ったことでむしろ日常アニメ的世界を壊してしまったのではないか?という疑問が成り立つ。友情のすばらしさに感涙するオチを眺めつつ、われわれオタクはいつも安易に消費している「ゆるいユートピア」の難しさと遠さを感じるのだ……。という感じで批評性の高い作品でした。


インシス『とつおいつのまにまに ざんてい版ver.1』


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 単眼キャラとグロテスクななにかを描かれることの多い方の作品。今回の作品はストーリーと世界観がキャラのやりとりから垣間見えてくる感じがとてもすばらしかった。グロさとガジェットの感じが二瓶勉作品みたいでかっこよく、単眼キャラの喜怒哀楽の表情がすごくかわいかった。そして男の娘が出てくる!続きに期待。


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ちょっとファンアート描いてみました。


今成震『饗奔』

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 こんかい買ったマンガでもっとも衝撃を受けた作品がこれです。

 マンガという形態をネタにしたメタマンガというのは古今東西あり、装丁やページ数に自由が利く同人誌という媒体はそれをするのに向いていると言えます。この饗奔という作品もそうしたメタマンガなのですが、ここまでやったマンガがいままであっただろうか?!というくらいにすごい。あと男の娘もでてくるし…。

 まあこれから持ち歩くので私とあった人は借りてよんでください。

今成震『繭する国』

 同じ作者の作品。12-14歳で人間が繭をつくって、大きく姿を変えるという世界の悲喜劇が描かれる。要するに第二次性徴期のメタファーなのだが、それをマンガ的にギャグっぽく表現しながらも、性徴期を経て起きる変化への恐怖と残酷さは戯画化されているが故に明瞭に描かれる。そして最後に表現される絶望感……。すごい作品だった。悲劇と喜劇は同根であるというが、これほど喜劇から悲劇へスムーズに移行できるものなのかとびっくりした。
 今回のコミティアで後悔したことはこの方の作品を全部買わなかったことです。


 とりあえずこんな感じです。自分と自作についてのどうでもいい語りは明日します。

 今回はサークル数もすくなく、ちょっと縮小版コミティアといった感じでしたが、買った本の満足度は高く、なかなか悪くなかったぞ。









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