見出し画像

ゼロステップを完全に理解できる話①

最も簡単で、最も難しいルール

バスケットを始めた最初に習うルールの一つに、トラベリングという反則があります。
分かりやすく言うと「ボールを持ったまま3歩以上歩いてはいけない」というもので、おそらくバスケをやったことのない人でも聞いたことがあるルールではないでしょうか。

いきなり余談ですが、トラベリング(Travelling)というのは「旅行」ではなく、単なる「移動」という意味ですね。3歩ではどこにも旅することはできません。

このトラベリングというルール、最も初歩的な、でも最も奥が深い反則なのです。
2018年に「ゼロステップ」という概念が登場し、より複雑になったこともあって、それこそ何十年とバスケをしている人でも(例えそれが審判の資格を持っている人でも)、このルールを完全に理解してる人はごく少数である、と断言できます。

それぐらい奥が深い反則なのです。

ルールブック(競技規則)を穴のあくほど読み込み、ベテランの上級審判の方とも議論をし、ようやくたどり着いたのは、単なるトラベリングという反則の話ではなく、エンターテインメントとしてのバスケットボールという競技のあり方でした。

トラベリングの定義

ルールブック(競技規則)には以下のように書いてあります。

第 25 条 トラベリング (Travelling)――――――――――――――――――――――――――――――――――25-1 定義25-1-1 トラベリングとは、コート上でライブのボールを持ったまま、片足または両足を方向に関係なく、本項に定められた範囲を超えて移動させることである。

2022バスケットボール競技規則

トラベリングのごく基本の内容はここでは簡単にしか触れませんが、ようするに軸足(ピポットフット)となる1歩目は動かせず、ともう一方の足(フリーフット)は2歩目として動かすことができる、ということですね。
ここまでは簡単。

ここに、
・いつボールを保持したか
・その直前の動作がどうなっているか
・次の動作がシュートやパスなのか、ドリブルなのか

が組み合わさって、トラベリングになる条件が変わってきます。

ゼロステップの功罪

トラベリングをより難解にした犯人はゼロステップです。
ゼロステップによって今まで曖昧にされていたステップが適法となり、プレーの幅は間違いなく広がりました。


ゼロステップについてルールブックに記載されているのは以下の文言です。

【補足】動きながら足がフロアについた状態でボールをコントロールした場合、フロアについている 足は0歩目とし、その後2歩までステップを踏むことができる。その場合、1歩目がピボ ットフットになる。

2022バスケットボール競技規則

この後に続く条文で両足の場合はどうか、など細かな規定がありますが読めば分かるので今回はそれには触れません。
0歩目を適用とした場合、しない場合の足の使い方はプレーコーリングガイドラインにある以下表が分かりやすいです。

JBA プレーコーリング・ガイドライン (20210901)

ゼロステップの登場により「動きながら」という条件付きではありますが、足をフロアにつけた状態でボールをコントロールした場合は、その足を1歩目とせず、そこからさらに2歩進める、ということがルール上明記されました。

なんと画期的な!

今までの常識を覆すルール改訂であると導入当時は話題になりましたね。

今では若い世代を中心にゼロステップを使ったプレーも増えてきたので幾分慣れてきた感はありますが、このゼロステップが正しく理解されておらず、トラベリングになるケースが多発しています。
さらに、審判の世界でも、間違ったステップは厳しく取り締まりましょうとお上(JBA)から通達がきているのが近年の流れです。

何が問題なのか。

ゼロステップの本質は、これまでルール上明記されておらず、曖昧にされてきた、ボールギャザー(ボールを保持する)のタイミングの足がついている状態について目をつぶりましょう(適法にしましょう)、ということにすぎません。なのに「1歩歩く距離が増えた」と思うから間違いがおこるのです。

ゼロステップというのは正しくは、ギャザーステップなのです。
このギャザーステップを正しく使うことでギャロップやユーロといったテクニカルなステップの適法となる幅が広がりましたが、反面それを利用した悪質なステップが増えてしまいました。

ジャパニーズステップ

巷に、「ジャパニーズステップ」と呼ばれるステップがあります。
ゼロステップの登場よりも以前からも、若い世代で「レイトミート」と呼ばれていたステップ(足が設置した状態でボールをキャッチしてからジャンプするようなミートステップのこと。ゼロステップが適用されなければ当然トラベリング)はありましたが、ゼロステップの拡大解釈によって本来はトラベリングであるにもかかわらず、当たり前のように使う人が増えた結果、「ジャパニーズステップ」という名で揶揄されるものになってしまいました。

↑こういうやつですね。

ここまで露骨に軸足を踏みかえているケースは議論するまでもなくアウトなのは見てわかりますが、これを平然とするプレーヤーがプロでもいるので驚きです。
むしろ何でこんなステップが許されると思ったのか、おじさんには全く理解ができません。

ただ、このレベルでなくとも、怪しいレイトミートは多く、これをトラベリングとしてきっちりコールしましょう、というのは前述の通りです。

でも、レイトミートがなぜゼロステップではなくトラベリングなのか、きちんとした説明をできる審判がどれぐらいいるでしょうか
(私も含めて帯同審判は大多数がE級だと思いますが、E級でこの説明をできる人はおそらく皆無です)

実際、D級のコーチ講習会でおそらくB級だかの審判の方が講習に来ていましたが、「ゼロステップは流れの中でしか使えないから、ミート後止まってしまうとダメ(だからレイトミートはトラベリング)」と説明をしていました。

これは明らかに説明として間違っているとゼロステップを完全に理解した今なら断言できます。
上級審判でもそのレベルなのです。

なぜこの説明が間違っているのか?正しいゼロステップとは?
長くなったので続きは次回。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?