📒人は好き。でも、優しくされると逃げたくなる。

優しさを分け与えるのが好き。それも小さな親切。

満員電車で席を譲るとか、知らない人に道案内するとか、そんな類い。後腐れのない感謝。重くなくて、それでいて気持ちが軽くなる。ホッとするというか、小さな社会貢献というか、そんな感じ。

でも、一つだけ問題がある。

人からの優しさを受け取るのが、心底苦手なのだ。
理由はよくわからない。

いや、わかっていながら今日の今日まで逃げていたのだ。

「いつもかなねーさんの撮った写真を楽しみにしています」
「素敵な写真をありがとうございます」

褒められると素直に嬉しい。誰かに自分が撮った写真が届いて、感想をいただくとありがたい。写真展でもお花をいただいたり、球場でもお土産をいただいたりする。

それが怖いのだ。

この人たちは、本当にそう思っているのだろうか。
親切の裏に、何かあるのではないのだろうか。
私を利用しようとしているのではないだろうか。

親切や優しさを素直に受け止め切れない自分に悲しくなる。
自己嫌悪に陥る。
そこまで価値のある人間ではない。私はなにも凄くない。

短時間に様々な思いが頭を巡って、一気に疲れ果ててしまう。

しまいにはその場から逃げ出したくなってしまう。
優しくしてくれる人々を差し置いて。私はなにを考えているのだろう。

実際、楽しいことだけではなく嫌になることもあった。
しかし、それと優しさの拒絶は話が違う。
そう理解していながら、なぜ上手く受け止められないのだろう。
与えることは苦にならないのに、どうして。

その親切、優しさに応えられる自信がなかった。
それが次第に疑いの気持ちに変わった。

夢を叶えるため、目標を達成するために、私は『かなねーさん』と名乗るようになった。別人格のつもりもないし、なんら私に変わりはない。ただ、少しだけ格好つけて生きている気がする。

かなねーさんは『こうなりたい』と、自分が強く思った理想の人間。こうあるべき、こうでありたいと追求しすぎたゆえ、時々自分を縛り付けているとも思う。

作家になりたい、カメラマンになりたいと、次々に目標を掲げた。人より少しだけ行動力があったのと、周りのおかげでたくさんの活動ができている。自分のことを過大評価するわけじゃないけれど、自分が思う以上に名前が広がっていると感じることがある。多分、それが怖いのだ。

なんの能力もない人間が、いきなり大舞台に立たされた気持ち。

卑下しすぎともいわれるけれど、自信をもったら過信に変わりそうで、それがなにより恐ろしい。

でも、それではいけない。

人の優しさから逃げちゃいけない。

このままではいけない。

私は思い立った。

相手の純粋な気持ちを『疑いの目』で見る自分に、嫌気がさしていた。

――――ありがとうをいう練習をした。

私は大体一言目に「え、いいのですか」と、親切に対し遠慮(拒絶)気味で反応をしていた。それをやめようと誓った。

「ありがとうございます」

真っ先に感謝の気持ちをいえる人間になる。
それも、相手の目を見て。

その親切、優しさは相手が決めたこと。私も人に席を譲ったり、道案内をするとき、感謝されたいと思ってやっているわけではない。

相手が困っているかもしれない。それを解消できたらと、たったそれだけの気持ち。

私に対して声をかけてくれる人も、もしかしたらそういう思いなのかもしれない。深刻に考えなくていいし、言葉通りに受け取っていい。疑わなくていい。その方がお互い喜び合うことができる。

これは野球のときに限らない。家族も友達も、私の周りにいる大切な人たち全員にいえること。

昔から褒められること、優しくされることが苦手だった。大人になって、それが顕著にあらわれた。二言目には「いやいやそんなことないよ」と、謙遜を通り越してもはや嫌味だ。

どうしても変わりたかった。

いつか必ず解消したかった。

何度『やってしまった』と、家で枕を濡らしたことか。
何回『なにやってんだよ』と、自分に呆れかえったことか。

いったいどれだけの人に嫌な思いをさせてしまったのだろうか。

人が好きだったり嫌いだったり、どれほど振り回し振り回されたことか。優しさから逃げ、幾度となく傷つくことから免れたことか。かえって、深く傷つくことを知っていたくせに。

だから、もう、逃げない。

相手の優しさ、親切は素直に受け取っていい。
その期待に応えられなくても、そんなことは気にしなくていい。
ありのままでいい。
受け取った先、もしかしたらなにかできるかもしれない。

気持ちを軽く、目の前の優しさに真摯に向き合う。
今の私ならできる。いや、そうする。

受け取ったらまた、撮ること書くことで誰かに繋げたら。

優しさが循環できたら、私は変われる。
上手く受け取れなかった自分と、ようやく決別できる。
そんな日は恐らく、もうすぐそこにきていると確信した。