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新規事業アイデアを評価するための観点にはどのようなものがあるか

本記事投稿の背景

新規事業開発における参考情報として、世の中の新規事業開発のプロフェッショナル団体が事業アイデアを評価する際に重視している観点を調査し、自身の経験や他社事例も踏まえながらざっとまとめておく。

参考にした新規事業開発のプロフェッショナル団体

以下の4団体それぞれが掲げる事業アイデアを評価する際に重視している観点をベースとした。

  • DIMENSION株式会社:ポケトークや、カバー、LegalOn Technologies等、150社を超えるスタートアップに投資を行い、内32社(2023年3月時点)の上場実績を持つVC

  • 株式会社リクルート:新規事業提案制度「Ring」にて、1982年のスタート以来、「ゼクシィ」「HOT PEPPER」、最近では「スタディサプリ」等、数々の新規事業を輩出

  • McKinsey & Company, Inc.:世界トップレベルの戦略コンサルティングファーム。これまでに数千の新規事業構築を支援

  • Code Republic:Z Venture CapitalとEast Venturesが共同で運営するシード期の起業家に投資するアクセラレータプログラム

各団体が提示する新規事業アイデア評価の観点

各団体が提示する新規事業アイデア評価の観点は以下の通り。

DIMENSION株式会社

  1. 市場の規模と成長性

  2. ユーザーペイン(課題の深さ)とソリューション(解決策の妥当性)

  3. 競合に対する優位性"ならでは"の要素があるか(ダントツで勝っている、模倣困難性を高く&長く保てる要素はあるか)

  4. ビジネススキーム(何を外部に公開して連携していき、逆に何をクローズドに内製化するかが適切に取捨選択できているか)

  5. 収益構造とお金の回収エンジン(課金形態、金額、コスト構造の設定は適切か。売上は伸びても永遠に黒字化しない事業になっていないか)

  6. 集客とマーケティング(顧客理解は十分か/ディープな一次情報に触れることにより、ユーザーの抱える課題の理解をぐっと深められているか)

株式会社リクルート

  1. 提供価値(誰のどのような課題をどのように解決するか)

  2. 市場性(どれくらいの市場規模があるか。リクルートの規模からすると、最低でも100億円は見込めるものが期待される)

  3. 事業性(顧客から対価を得られるか、継続的に収益を得られるビジネスか)

  4. 優位性(最低限、自社のポジショニングに加え、他社との違いは何かということは明確化の必要あり)

McKinsey & Company, Inc.

  1. 狙うことのできる市場(TAM)は十分に大きいか

  2. アンフェア・アドバンテージ(自社の持つ圧倒的な優位性)があるか

  3. ノックアウトファクター(それが成立しないと事業が成り立たない前提)がないか

Code Republic

  1. 誰の何の課題を解決しているのか(ターゲット顧客は誰か。どうニーズを満たし、ペインポイントを解決するのか)

  2. スケールできるのか(十分な市場規模があり、大きな事業規模を見込めるのか)

  3. 既存のサービスに置き換わる新しいサービスか(差別化、競争優位性があるのか)

  4. ビジネスとして成立するのか(収支が合うか。KSFを理解できているか)

  5. 数年後により多くの人に使われるサービスか(将来性があるのか)

新規事業アイデアを評価するための観点

各団体が提示する新規事業アイデアを評価するための観点は、以下の5つにまとめられる。

  1. 市場規模(TAM)の大きさ

  2. 顧客課題の解像度・解決策の妥当性

  3. 圧倒的な競争優位性

  4. 収益性・採算性

  5. 実現可能性

1. 市場規模(TAM)の大きさ

TAM(ある事業が獲得できる可能性のある全体の市場規模)は、自社努力で変えることが難しい。TAMが10億円の市場で、どんなに事業をピボットさせても10億円以上の事業にはならない。それならば、最初から100億円、1,000億円規模の市場で事業を興す方が良い。リクルートでは自社の規模感から最低100億円を基準としている。

もし現在検討している事業が対象とする市場規模が小さい場合は、はじめはニッチな市場で実績・ノウハウを培い、それらを基に周辺の大きな市場に拡大していくといった成長ストーリーを描かれたい。

例えば、東レの炭素繊維事業では、市場規模の大きい航空機や自動車用途は安全性やコストの要求が非常に厳しく、実績のない新素材を採用してもらうのは難儀だった。

そこでまずはゴルフクラブ、テニスラケット、釣り竿用途で売り出し、実績を積みながら性能向上やコスト削減を図った。レジャー用途であれば品質要求は産業用途のもの程高くはない。レジャー用途で稼ぎながら、航空機用途の認定作業を続け、自社が取れる市場を拡大していった。

2. 顧客課題の解像度・解決策の妥当性

顧客課題の解像度が高いとは、以下の論点に明確に答えられる状態であると考える。

  • 具体的に何が課題か/どのような場面で発生しているか

  • なぜそのような課題が発生しているのか

  • なぜ既存の製品・サービスでは解決していないのか

  • その課題の解決にお金を支払う人はいるか/どの勘定科目から課題解決のためのお金が拠出されるか

  • その課題の発生頻度や抱える人・企業は多いか

Google Glassが失敗に終わった理由として、高価な値段とプライバシーの問題以外に、解決する課題が既存の代替品で充分に解決できていることが挙げられる。インターネットを使って調べたい事が目の前で見られるという中心機能は、スマホで充分であった。

顧客課題の解像度を高めるには、とにかく外に出て市場や顧客に触れることが重要である。私も新規事業開発を支援させていただく際は、ビザスク等を活用して顧客ヒアリングを数十件行うことを欠かさない。保育園向けのサービスを企画していた時は、クライアント含めて誰も保育園とのリレーションがなかったので、直接保育園に1件1件電話で問い合わせていた。

解決策は、基本的には課題の裏返しで、顧客課題の解像度が高い程、解決策も具体的に考えられる。逆に解像度が低いとどんな課題でも解決できる魔法の杖(実際はどの課題も解決できない)のような解決策になってしまう。

3. 圧倒的な競争優位性

競争優位性がない事業は継続的に成長して利益を上げ続けることが難しい。特に大企業が新規事業を行う際は、その会社の持つアセット・ノウハウ(顧客基盤・ブランド・知的財産・他事業とのシナジー等)が活かせるかは事業の成功可否に直結する。

失敗事例としては、ファーストリテイリングが2002年に始めた食品販売事業が挙げられる。食品は衣料品と異なり工業製品のような計画生産ができず、ノウハウが活きなかった。欠品が続き利用者の普段使いに耐えられるものとならず、2004年に撤退している。

4. 収益性・採算性

課金形態、金額、コスト構造の設計を間違うと、売上は伸びても永遠に黒字化しない事業ができあがってしまう。

例えば、借り放題のサブスクでユーザーの利用を促進するために配送料無料(企業が配送費を負担)のプランを打ち出した場合、ユーザーの利用が増えると配送費やメンテナンスコストが増加する一方で、サブスクなので売上は変わらず採算が悪化する。ちょっと前に牛角が試みてすぐにサービスを閉じた焼肉食べ放題も同じ構図である。

5. 実現可能性

どんなに解決策が優れていて収益性が見込めるとしても、それを実現できなければ絵にかいた餅である。

実現可能性に影響を与える要因としては、例えば以下のような自社でコントロールの利かない外部要因が該当する。

  • 技術的に実現が難しい/コストがとてつもなく大きい

  • 社会的に実現が難しい

  • 法務的に実現が難しい

  • 特定のパートナーの協力がないと実現が難しい

私の不徳の致すところとしては、技術的な実現可能性を具に検証せずに事業開発を進めてしまった過去がある。機械学習による画像認識を活用したサービスを考えていたが、対象の挙動を判定することが難しい、サービスの要件を満たすために開発すべきモデルが多く1つ1つのモデル開発に掛かる費用が高すぎることがプロジェクトの終盤で発覚し、頓挫となった。

社会的な実現可能性の観点では、昨今AIカメラを用いて来場者の性年代を識別し、それに合った広告(女性ならば化粧品、男性ならばビールの広告等)をサイネージで配信する試みが広がりつつあるが、まだ普及に至っていない。技術的には可能だが、プライバシーの懸念から施設側のOKが出ないといった社会的な実現の難しさがある。

【再掲】新規事業アイデアを評価するための観点

最後におさらいとして再掲し、終筆とする。

  1. 市場規模(TAM)の大きさ

  2. 顧客課題の解像度・解決策の妥当性

  3. 圧倒的な競争優位性

  4. 収益性・採算性

  5. 実現可能性


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