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Criminals~ともだちのうた~後編

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ホテルを出ると既に西の空はオレンジ色に染まっていた。しばらく、眺めるともなく空を眺め、気づけば、夜の闇に包まれ静寂な夜の真ん中に立っていた。


「そろそろ、帰るか。」大きな荷物を下ろすような深いため息をついてから力なく家路へと歩いていると月明かりが妙に眩しく疎ましく思えた。舌打ちしてから夜空を見上げると、いつもより月が綺麗に見えた。



「やっぱり綺麗に見えちまうか。」



月だけじゃない。小さい頃から花、空、雲、星などが綺麗に見えるときは決まって悲しいときだった。



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身の程をわきまえず欲張っても、ろくなことはない。醒めてるというか、用心深いというか、誰と接しても疑ってかかる。誰かに期待して信用しても裏切られるだけ。


いつの頃からか、こんな考えになっていた。



勿論、こんなことを人に言った事はないし、人生に絶望しているわけでもない。ただそのぐらい淡白に考えた方が楽に生きられる。



そういう考えのせいか、自然と割り切った大人の関係、そういう人としか関係を持たないようになった。そういう関係でもお互いを想う気持ちがあるのかもしれないけど、何が嘘で何が本当の気持ちなんてどうでもいい。



確かめる術はないし、確かめる必要もない。



僕の存在は彼女達にとって、ちょっと寄り道して楽しむ場所。寂しさでしか埋められない寂しさを埋める場所。そういえば聞こえはいいが彼女達にとって最終的に僕は「過ち」と言う存在でしかない。




人は必要な時期に必要な人としか出会わない。お互い一緒にいる意味がなくなれば遠ざかっていくのは仕方ない。だからと言って、誰も好きにならない、愛さない、なんて言うつもりはないけど無防備に向き合うことができない。丸ごと自分を差し出すのが怖い。



誰にでも好かれようと八方美人で当たり障りなく接し、相手が求めているのであろう言葉を察して投げかける。そんなズルさは自然と身に付いた。だから相手は決まってこう言う。


「優しいね。」



違う。すぐ逃げられる程良い距離でしか接しないだけだ。その癖、飢えて渇ききってる餓鬼のように偽りでも愛情を欲する。



卑怯で悲しい考えの男だからこそ、彼女達と曖昧な関係でいられる。曖昧な関係でいてしまう。どっちの表現を使えばいいのか自分でもわからない。




つまらない関係を繰り返して何とか今日をやり過ごし、希望とは何かもわからず明日がくる毎日だった。そんな中、彼女と出会い、はじめて女性(ひと)を好きになった…のに。




でも、はじめからわかってたことじゃないか。入れ込んでも想いは実らない、と。



夜空から目線を下げると、線香花火の先の粒が丸く大きくなり転げ落ちるように涙が頬を伝い落ちた。



これでいい。




子供が擦り傷に唾を塗り込み、おまじないを唱えるように自分で自分の言葉にうなずく。



これで…いいんだ。




大きな荷物をひとつおろすかのような深い溜め息をつき、神妙な面持ちで煙草に火を点けると、煙が月明かりを受けて銀色に輝きながら夜の闇に漂い消える。



この煙のように僕の想いも、ゆらゆらと風に乗り夜の闇に溶けて無くなってしまえば楽なのに…。



静寂な夜の真ん中に身を置き、疎ましそうに夜空を、月を、見上げた。



触れるまでもなく先の事が
見えてしまうなんて
そんなつまらない恋を
随分続けて来たね


胸の痛み直さないで
別の傷で隠すけど
簡単にばれてしまう


手を繋ぐくらいでいい
並んで歩くくらいでいい


それすら危ういから
大切な人が見えていれば上出来


大切な人は友達くらいでいい


友達くらいが丁度いい



【中村中『友達の詩』より一部抜粋】

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