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アップルの巻き返しはあるかApple Could Still Be AI’s Big Winner激化するAI競争

メタの最新生成AIツール

18日、フェイスブックを運営するメタ<META>(旧フェイスブック)が新たなチャットボットを発表した。この新たな生成人工知能(AI)ツール「Meta.ai」は単語を入力すると即座に画像を生成することができる。

このチャットボットはLlama 3と呼ばれる最新のオープンソース大規模言語モデルに基づいており、2024年時点のAIチャットボットに要求されるすべての機能を備えている。筆者はこのチャットボットを使って、アルバムの推薦リストとスポーツ用多目的車(SUV)の比較データのリストを得た。だが、この技術は生成AIが日常的な消費者向けツールであるとの筆者の見解を変えるものではなかった。

とはいえ、株式市場がAIを背景に何兆ドルもの価値を新たに加えてきたことは確かだ。まず、AIの真価を認めることから始めよう。


META.AI

医療におけるAIツールの可能性

筆者はMeta.aiを試した後、総合病院メーヨ・クリニックの心臓病教授兼事業開発担当医長であるピーター・ノーズワージー博士に話を聞いた。

ノーズワージー博士は、「医療の問題の一つは、医療がサービスとして提供される結果、スケーラブル(柔軟に増加・減少できる)ではないことだ。医薬品なら、大規模言語モデルとAIによって、サービスから製品に転換できる側面もあるだろう。そうなれば、スケーラブルでポータブルになり、人々はそれをポケットに入れて持ち運ぶことができる」と語る。

ノーズワージー博士によれば、メーヨのチームは、一般的に行われている心電図(ECG)で疾病マーカーを検出するためにAIを利用していて、AIを利用したECGツールは「心電図のプロでも心電図に頼らずにさまざまな病気を特定できる強力なマーカー」だという。ノーズワージー博士は、最終的に、それらのECGツールはアップル・ウオッチのようなデバイスでも使えるようになり、「そうなれば、消費者は臨床レベルのECGツールを手首に装着して、われわれのAIを利用することになる」と言う。

スマートフォンは全能のフォームファクターとなる可能性があり、ノーズワージー博士は、「患者の声からは、特に時間の経過とともにその傾向が顕著になる場合、健康や病気に関するあらゆるシグナルを検出することができる」と語る。同様のシグナルは、スマートフォンの歩数カウンターや、ユーザーの歩行の変化を測定することからも得られる可能性がある。

ノーズワージー博士はAIとスマートフォンを、子供の表情で即座に病気に気づく母親になぞらえ、「鋭い観察者による病気のサインの診断はAIでも再現可能だろう。スマートフォンは持ち主の顔を毎日何十回と見ているはずで、それを活用する機会があるかもしれない」と言う。スマートフォンはすでに人々の生活において多くの役割を引き継いでいるが、愛情深い母親の役割とは新しい考え方だ。

ノーズワージー博士はまた、「患者と医師の対話に最も近いのは、おそらく医療チャットボット形式の生成AI大規模言語モデルソリューションだ。半年前なら、信頼できる医療チャットボットが誕生するのは数年後だと思っただろう。現在では、6カ月後には臨床的に有用なものが得られるかもしれない」と述べた。メーヨ・クリニックはこの種のチャットボットに積極的に取り組んでいる。ノーズワージー博士は、チャットボットが「臨床医の眼識に匹敵する性能を発揮」するようになるには、まだ数年かかりそうだと付け加えた。

短期的には、チャットボットが患者の投薬治療の調整や薬物相互作用に関する質問に役立つ可能性がある。ノーズワージー博士は「そのようなテクノロジーの最も成熟したバージョンでは、患者はチャットボットと自然言語で会話し、症状や懸念事項を話し合い、質の高い吟味された医療情報を分かりやすく自然な会話で得られるようになる」と語る。

リミットレスのアプリ

パーソナライズされたツールは、AIを別のレベルに引き上げる。筆者はリミットレスという会社の創業者兼最高経営責任者(CEO)のダン・シロカー氏に話を聞いた。リミットレスは、AIを活用して記憶を強化することができるという。筆者はリミットレスの初期の製品「Rewind.ai」を試したことがある。このアプリは文字・音声認識によって通話、文章、メールなど、Mac(マック)の画面とスピーカーから得られるすべての情報を記録し、大規模言語モデルを使って、われわれの生活に関する質問に答えてくれる。例えば、「ママとの最後の会話について教えて」、「私たちのランチは何時か」などだ。

リミットレスの新製品の名前は社名と同じ「リミットレス」で、Mac、Windows(ウィンドウズ)、ウェブ向けのアプリがある。リミットレスは先週、マイク付きウェアラブルペンダントを発表した。利用者が身につけて直接会話を録音することができるものだ。これによって大きな可能性が生まれる一方で、もちろんプライバシーに関する重大な懸念もある。シロカー氏は、この二つは矛盾するものではないとし、「基本的な前提として、プライバシーが利便性と引き換えになってはならない。メタなど、広告収入に頼る企業は、利便性のためにプライバシーを妥協しなければならないという考えを植え付けた。これは、世界に大きな不利益をもたらした」と話す。

新しいペンダントには、録音を許可した声だけを追跡する同意モードがある。販売価格99ドルで8月に出荷開始予定で、すでに1万件の注文が入っているという。ペンダントからリミットレスのクラウドに持ち込まれるデータはすべて、秘密の鍵で暗号化され、リミットレスを含めて誰もアクセスできないという。録音された会話の要約や書き起こしのために生成AIに送信されたデータは、30日後に削除される。

リミットレスはこれまで、アンドリーセン・ホロウィッツやニュー・エンタープライズ・アソシエイツといったベンチャーキャピタルや、オープンAI創業者のサム・アルトマン氏から3300万ドルを調達している。

シロカー氏によれば、「リミットレス」の特徴はAIモデルにコンテキスト(背景、状況、場面、文脈など)を提供することだという。これは、チャットボットに「私は青と緑が好きだ。ベンジャミンムーアのペンキで一番いい色を選んでくれ」というプロンプト(指示)を書くようなものだ。

しかし、「リミットレス」の場合、コンテキストは単に青と緑が好きというような情報だけにとどまらない。利用者がこれまでに交わしたすべての会話をAIモデルに送信できる可能性がある。最終的には、一般的なインターネット上のデータで訓練されたAIモデルが、利用者の生活にパーソナライズされた回答をする。

パーソナライズされる生成AIとアップルの親和性

では、このことは株式市場にとって何を意味するのだろうか。AIへの期待は、すでに株価を大きく上昇させている。しかし、消費者の生活に関するコンテキストをどの会社よりも多く持っているアップル<AAPL>の株価が取り残されているのは皮肉なことだ。

筆者のiPhone(アイフォーン)にあるヘルスケアアプリには、毎日の歩数、心拍数、1日に立ち上がった回数、大きな音にさらされた時間、血中酸素濃度などのデータが何年分もある。加えて、iPhoneには、位置情報とタイムスタンプ付きの写真が何千枚も入っている。さらにテキストデータもある。筆者が許可すれば、アップルはこれらすべてを生成AIに送り込み、私の人生に関する途方もなく詳細な日記を作成することも可能だろう。そして、それは健康管理やストレスコントロールに役立つだろう。

確かにプライバシーの問題はあるが、筆者は、アップルがそのデータを今以上にパーソナライズした使い方をするのは構わないと思っている。
アップルに対する現在の批判は、ハイテク大手のライバルであるメタやアルファベット<GOOGL>、あるいは新興企業のオープンAIと違って、独自の大規模言語モデルをまだ構築していないことだ。

AIの世界でもアップルは最後に笑えるのか

アップルのティム・クックCEOはこれまで、「アップルはAI開発に多くの時間を費やしており、今年中にその詳細を発表する」と述べている。6月に開催される年次開発者会議でおそらく大きな発表があるだろう。今のところ、投資家はアップルとAIについてほとんど諦めているが、筆者には、この諦めが大きな見落としのように感じる。

メリウス・リサーチのアナリスト、ベン・ライツ氏は先月末、「最後に笑うのはアップルかもしれない」と題し、アップルのAIの取り組みに関するノートを書いた。ライツ氏はアナリストとして、また銀行家として20年以上アップルに関わってきた。ライツ氏は「このノートを書いた理由は、アップルが市場を創造する会社であることを思い出してほしいからだ。そして多分、アップルの話を最後まで聞くべきだ。スティーブ・ジョブズ氏がiTunes(アイチューンズ)を創った時、ジョブズ氏は音楽を作ったのではなく、音楽をより楽しめるようにした」と話す。

ライツ氏は「アップルがこの新しい世界で勝者になるためには、世界中の企業を打ち負かすAIモデルを作る必要はない。マイクロソフト<MSFT>になる必要はないし、オープンAIやグーグルになる必要もない。アップルはアップルである必要があり、それにはこの新しいAIの世界でアプリを楽しむインターフェースを提供することだ。アップルにはそれができると考えている。アップルはそのための土台作りを慎重に始めていて、6月に発表する可能性がある」と話す。

この記事を書いている時点で、アップルの株価は年初来14%の下落だ。これに対してS&P500指数は4%の上昇、AIのリーダーである米半導体大手のエヌビディア<NVDA>の株価は56%上昇している。
ライツ氏は、アップルが中国のスマートフォン市場でシェアを急速に落とし、iPhoneの販売台数が減少していることは懸念材料だと話す。また、アップルのこれまでのAIへの取り組みを心配する投資家がいることも理解している。

しかし、アップルは以前にも同じ経験をしたことがある。iPhone 5が発売された2012年9月からiPhone 5S発売の2013年9月にかけて、アップルの株価は33%下落した(同期間のS&P500指数は18%上昇)。当時、サムスン電子<005930.韓国>は大画面スマートフォンで勢いを増していた。そして2014年後半、アップルは初の大画面スマートフォンであるiPhone 6を発売した。それ以来、アップル株は635%上昇している。同期間のS&P500指数は198%の上昇だ。

AIへのシフトは、より大きな画面のスマートフォンを作るよりも難しいことは確かだ。しかし、アップルの優位性は変わっていない。そして、その優位性のおかげでアップルは、あらゆるシフトの中心にいることが可能なのだ。

この記事は「バロンズ・ダイジェスト」で公開されている無料記事を転載したものです。