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優しい人

友達のたかしくんは優しい男だ。僕は彼ほど優しい人間を他に知らない。

たかしくんはおとなしくて、ちょっと気弱なところはあるけれど、すごく優しいから誰からも好かれている。たくさんの友達に囲まれて、彼はいつも楽しそうだ。

「まぁ、でも、ぼくにも悩みはあるんだよ」

あるとき、たかしくんはそんなことを言った。

「みんな、ぼくにアドバイスしたがるんだ」

たかしくんのためにみんながアドバイスをしてくれるんなら、それはむしろ良いことなんじゃないかと僕は思った。それがなぜ彼の悩みの種なのかわからなかった。

「ぼくもありがたいことだと思ってる。それはそう思うんだけど……」

それはたかしくんがみんなから好かれている証拠だろうと僕は思った。

「そうなのかな?それだったら、まぁ、いいんだけど。でも……」

みんなの好意を疑うなんてたかしくんらしくない。友達からの好意は素直に受け止めるべきだと僕は思った。

「それは、そうすべきだろうけど……ただ、ぼくは、誰にもアドバイスなんて求めていないんだよ。
 どうやらみんなは、ぼくが不幸せな生き方をしてるって思ってるみたいでね。勝手に心配してくれるんだ。
 だけど言わせてもらえれば、ぼくは自分が不幸だとは思ってないよ。そりゃ、めちゃくちゃお金持ちではないけどね。めちゃくちゃ頭も良くないけどね
 ほくはそれなりだけど、それなりに幸せではあるんだよね」

僕はたかしくんがこんなにいっぺんに喋るのを初めて聞いた。だったらみんなにそう言えばいいじゃないか。

「言えないよ」

たかしくんは薄笑いを浮かべて言った。

「だってみんなが楽しそうだから」

僕はたかしくんほど優しい人を知らない。たかしくんは優しくて、少し可愛そうな人だ。

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