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ワタナベくん、あなた今、どこにいるの?

高校生だった、もう20年以上前の話。

家庭の都合で両親は僕が小4の時に離婚し、僕は母親と2人で暮らすことになった。中学からは親元を離れ、全寮制の中高一貫校に通った。ゲームや漫画、およそその年代の娯楽という娯楽は禁止され、高校になるまでは外出さえも許可されていなかった。週刊漫画を買って読むために病院への外出(その当時「病外」と略していたように記憶している。敷地内からバスが定時に出ていた)を使って漫画を買ってきていた。もちろん秘密で。

今でも僕のワクワクするポイントが、「漫画を買うときの気分」を基準にしているのも、ここから来ているんじゃないかと思っている。 

当時、僕には付き合っている彼女がいて、休みになると敷地内をよく散歩をした。近所の山の中や、施設がもっている宿泊棟、はたまた生物の先生お気に入りの温室などもそのポイントだった。忍びこんでは見つかって、先生に叱られた。(その当時、なぜか「デート」するとは言わず、「ミンチ」するという隠語を用いていたと記憶している)そして、隣に歩いていた彼女の横顔や仕草を僕はよく覚えている。
 
時はさかのぼり、高校1年生の夏だったか、僕はサッカー部に所属していて、ちょっとしたいざこざを起こしてしまった。おなじように問題を起こした同級生は停学になり家に帰されていた。僕はといえば、家庭の事情で一人寮に残る事になった。先輩からの目、周りからの目。説明したくてもできない負い目があった。まさに針のむしろだった。

「○○、会いにいってもいいか?」

そんな時、ほとんど連絡をとっていなかった父親から連絡があった。実に5、6年ぶりだったように記憶している。母親が頼み込んだのか、それとも虫の知らせがあったのかはわからない。「何だよ急に」と照れくさく思う反面、内心嬉しくもあった。

車の中で話をした。
今まであったこと、今の自分の気持ち。彼女はいるのか、いないのか。有意義にすごしているのか。父親が学生時代にトルコ風呂(昔のソープランドの呼び名)のバイトして、すごく興奮したこと。三無主義の話。「ノルウェイの森」っておもしろいぜ。と言う話。父親は前日に飲みすぎたのかどうだかわからないが、腹を壊してトイレに駆け込んでいた。かっこ悪いなあ。でもまあいいか。もしかすると、久しぶりに会う息子にどうやって会えば良いのかわからなかったのかもしれない。そして、帰っていった。

僕はといえば、すぐに「ノルウェイの森」を買ってよんだ。何度も何度も読んだ。人にもすすめて読ませた。今読んでみると、人生に対して大きな気付きを与えてくれるような本でもなかったし、ちょっとこころに闇を抱えた人たちの、ちょっとおしゃれなお話というところなんだろうけど。なんでそんなに読んだかはわからない。

でも、今思うと、どうやら内容ではなく父親との思い出を大事にしたいから、ずっと読んでいたんじゃないかと思う。
ずっと母親と父親がまた一緒に暮らしてくれたらと思っていたんだと思う。
こだわっていた。結局それは叶わなかったけれど……。
そして自分も同じように結婚し、離婚をした。

大人になったから、少し親の気持ちもわかるようになった、それも人生だと思えるようになった。

今なら「○○くん、あなた今、どこにいるの???」と小説の最後のシーンように聞かれても、なんとなく答えられるような気がする。

それでは、また明日。


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