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【書評】「#真相をお話しします」結城真一郎

知り合いに勧められて読んでみた。

作品の構成は独立した短編5つから成り、読みやすい。また、テーマが「YouTuber」や「パパ活」、「精子提供」など現代に生きる私たちに馴染み深いテーマなのも取っつきやすいです。

普段ミステリーは読まないので、特に考察せず話の流れを追いながら読んでました。が、正直ストーリー自体は無理やり成立させている感が否めない。

東海オンエアの虫眼鏡さんが「『絶対に読者を騙してやろう』というすさまじい執念に恐怖すら感じました……」とコメントしてた理由が分かった。基本的に叙述トリックで、ストーリーとしての整合性は薄い。

この後の展開はどうなるんだ…と予想しながら見る分には楽しめるかもしれないが、ある程度予想できる部分も多かった。
そのため結末を見てもどこか納得いかない話もありました。

作者が東大出身とのことで、基本的に主人公がエリート寄りの設定になっている。
もちろん作品の質に影響するわけではないですが、主人公がどこか冷静沈着で読者に説明するかのような状況描写が多かった。それが何となく作者の性格というか、人物像を思わせる。
そういう意味では登場人物に感情移入しにくかったですね。

ミステリーかつ短編なら仕方ないのかもしれないが、手放しで絶賛するほど名作とは言い難い。
メディアであれだけ宣伝されたので、期待値が上がりすぎたのかも。

良くない点ばかり書きましたがトリック自体は面白く、「うわ、そうなるのか」と思わされた話もありましたし、十分楽しめました。

⚠︎以下ネタバレ注意




惨者面談

母親が偽物だというのは読んでて分かるが、まさか子供まで偽物だとは…
名前トリックを2回使うのは騙された。その点ではいい作品でした。

しかし、ストーリー全体はこじつけ感がすごい。確かに流れに矛盾はないのだが、読者をなんとしても騙そうとしているように見えてしまう。

短編ミステリーということで、殺害の動機まで緻密なものを書くのは難しいでしょうから、ある程度は許容せざるを得ないのだなと感じました。

この作品では小学生の犯罪がテーマとしてある気がする。現在14歳未満の者が犯罪を犯しても刑事事件に問われない。
しかし最近は小学生プログラマーなど、現代技術に慣れ親しんだ子達が多くいる。

昔と違う点は犯罪の規模が大きくなりやすいこと。
盗難の被害は被害額に上限がある。あくまで物理的に盗難可能な範囲だ。
しかし、クレジットカードの遠隔読み取りやオレオレ詐欺など、少し詳しい小学生なら出来てしまう。電子のやり取りなので、被害額の上限はなくなる。

こうなった時、果たして14歳未満は刑事事件に問われないとして良いのだろうか…
そこにいる小学生は本当に無垢で純粋な子なのか…
そんなテーマを投げかけられた気がする。

ヤリモク

マッチングアプリをテーマにした作品。最近様々なアプリが出てきており、社会的にも認知されてきている。
昔はインターネットで知り合ったというと、「怪しいんじゃないか」という声も多かったが、今はアプリであった人と結婚したという話もよく聞く。

最近アプリで会うことの抵抗感がなくなっているが、実際によくわからない人と会うのは危険だと本作品では示している。
美人局と殺人鬼。初対面の人が何を目的にしているか分からない。

そんな背景がストーリーに表れている。初めは男はヤリモクだと思っていた。感情描写を何度見ても、人を殺すような感情には見えなかった。
そんな人が連続殺人犯であると最後に明かされる。

好意的に解釈すれば、マッチングアプリは実は怖いんだと示している。そんな教育的ストーリー。
しかし、ミステリーの出来としてはいまいち。最後修羅場で違和感を解説するシーンはシュールで面白かった。明らかに読者を意識したセリフだった。





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