母とラジオ体操

 相変わらず自宅と実家を行き来して父の介護をしているのだけど実家滞在もようやくこなれてきた今日この頃。当初はすぐに自宅が恋しくなってたんだけど、あらかじめ勉強道具や遊び道具をフンダンに送っておいたり、気候も良くなって、実家で私が使ってるエアコンのない部屋でも快適に過ごせるようになったことが大きいんだと思う。ただ、最近仲間入りした更年期障害によるホットフラッシュがちょいちょいと顔をのぞかせることが面倒だ。今が程よい気候であっても、急に体が熱を帯びて鼻の頭に汗をかいたり、暑くて上着を脱ぎたくなったりする。辛いというより不快という感覚。ネット情報によると、更年期障害の対策は「バランスの良い食事と十分な睡眠と適度な運動」と書いてあった。これはダイエットの基本とまるで同じじゃないか!健やかな生活を送るための方法は結局この王道しかないんじゃないか!でもこれが一番難しいことじゃないか!なんだよーと憤慨しながらもしみじみうなずく妙齢の秋。

 更年期症状を始めて自覚したのは、実家から自宅にいったん戻った時だった。自宅にいる時は、今がチャンスとばかり効果的に時間を使おうと努めていた。本当はあまり好きではないジム通いも、ダイエットと健康を兼ねるんだという気合だけでそれなりに楽しく通えてたし、毎日ほんのちょっぴりではあるけれど、韓国語を勉強したり、放送大学の授業を履修したり(科目履修生なのです)できたのが、すっかりやる気をなくし、何もできず一日中ソファにごろごろして過ごしていた。唯一できたのは配信の映画を見るくらい。
 でも、これが、今思うと更年期症状の始まりだったんだと思う。ソファで何もせずじっとしているのに、時々、体が熱くなって、ぷわぁ~と汗がふきだしたり、意思をもって動こうとしてもスッと動けない。なので余計にだらだらしてしまうという悪循環。けれど、その時は、これはおそらく介護生活の中だるみなんだろうな、こんな時期もあるだろうな、そんなに頑張らなくていいんだよな、と気に留めないようにしていた。どうせまた2週間後には実家に戻って介護三昧になるんだし、自堕落になるのも今だけだと思ってたし。

 案の定、実家にもどると、6時に起床して10時には床に就くという規則正しい生活が始まった。長袖のシャツに薄いセーターを重ね着している母の横で、私はTシャツ1枚で汗をかきながら父のオムツ替えをする。
 夜、寒いからと母が用意してくれたモコモコの長袖パジャマは、寝ていると暑くて脱ぎたくなるし、掛け布団なんてもってのほかで蹴散らしちゃう。そしてしばらくするとまた急に寒くなって布団をかぶるという繰り返し。
 そうか、やっぱり、私の体にはヤツが宿ってるんだと改めて認識する。特別ではない誰でも起こることだ、しょうがないじゃないか、だったら好意的に迎え入れてやろう。ともに更年期を駆け抜けてやろうぜと鼻の頭に噴き出る汗を拭きながら自分に言い聞かせた。

 驚いたことに、82歳の母が朝の6時半からラジオ体操を始めていた。肩こりや腰痛がひどくて毎日湿布を貼っていたのがラジオ体操を始めたら劇的に軽減したのだと言っていた。私とは全く違う華奢な体つきで、たくましく生きている。すごいぜ、お母さん。
 なので私も隣で一緒にやっている。ラジオ体操、侮るなかれ。最初のころは息が切れた。冒頭にも書いたとおり、更年期の対策は「バランスの良い食事と十分な睡眠と適度な運動」だ。これはうってつけじゃないか。それに、母と並んでこういうことができるのもあと少しの期間だろう。こういう時間もじっくりと味わおう。だんだんと一つ一つの思いが深くなるんだな。

 自宅に戻っても続けよう。

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