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人を救う共感から生まれる愛

冷たい雨の月曜日です。新しい週の始まりをいかがお過ごしでしょうか?

やっと本を1冊読むことができるようになりました。今回は韓国で30万部突破し、13か国で翻訳が決定した作品です。

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扁桃体が人より小さく、怒りや恐怖を感じることができない十六歳の高校生、ユンジェ。そんな彼は、十五歳の誕生日に、目の前で祖母と母が通り魔に襲われたときも、ただ黙ってその光景を見つめているだけだった。母は、感情がわからない息子に「喜」「怒」「哀」「楽」「愛」「悪」「欲」を丸暗記されることで、なんとか“普通の子”に見えるようにと訓練してきた。だが、母は事件によって植物状態になり、ユンジェはひとりぼっちになってしまう。そんなとき現れたのが、もう一人の“怪物”、ゴニだった。激しい感情を持つその少年との出会いは、ユンジェの人生を大きく変えていく―。怪物と呼ばれた少年が愛によって変わるまで。(「BOOK」データベースより)


本作の主人公ユンジェは脳の扁桃体(彼と彼の周りがこれをアーモンドと呼んだ)が特異性を持っていたため、人間の感情を理解できないまま高校生になります。

あらすじにも書かれているとおり、通り魔事件の被害により祖母は亡くなり、実母は植物状態となるのですが、もちろんユンジェに感情はなく、むしろ周りがその事件に反応、学校で益々彼を孤立化してしまうのです。

「放っておいてもらえると助かります」というべきだった。p85
みんな”平凡”という言葉を、大したこととは考えず気軽に口にするけど、その言葉に込められた平坦さに当てはまる人生を送っている人がどれだけいるだろうか。僕にとってはなおのこと難しい。p90

そんなユンジェに寄り添ってくれたのは、母が残してくれた古本屋と本でした。なんか嬉しいですよね。

手にとって開くまでは、まるで死んでるみたいに黙りこくっている。そして、開いた瞬間から話し始めるのだ。ゆっくりと、ちょうど僕が望む分だけ。p131

そしてユンジェに自分とはかけ離れているけれど、自分の人生に影響を与える人たちの出会いあり、それがゴニとドラです。

両親と不幸な別れと再会のより感情の起伏の激しいゴニの良さをユンジェだけが認め、ドラに対して思春期ならではの女性への感情を抱いたのです。

クライマックスは衝撃的ですが、更にユンジェの脳裏の言葉が突き刺さりました。

遠ければ遠いでできることはないと言って背を向け、近ければ近いで恐怖と不安があまりにも大きいと言って誰も立ち上がらなかった。ほとんどの人が、感じても行動せず、共感すると言いながら簡単に忘れた。
感じる、共感するというけれど、僕が思うに、それは本物ではなかった。
僕はそんなふうに生きたくはなかった。p245

こうして共感を認めたゴニと向き合った時間がユンジェに「愛」を気づかせたことを私も悟りました。

著者は映画の脚本、演出を手掛け、結婚、出産を経験し執筆したのが本作で、文壇デビュー作でもあります。ユンジェの感情にない一人称での文章は映画人の作家らしく、映像を見ているような文章でとても読みやすかったです。

著者は本作で「人間を救えるのは結局、愛なのではないか。」というそんな物語を描いてみたかったと言っているそうです。

日本でも無差別な殺傷事件、いじめ、虐待なども多く多発し、根底に共感の欠如が言われているそうです。著者のいう「愛」改めて考えさせられます。

是非呼んでみていただきたい作品です。


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