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移動することを約束する(7-50)

2019年11月に単行本化された小川洋子氏の作品を読みました。

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ハリウッド俳優Bの泊まった部屋からは、決まって一冊の本が抜き取られていた。
Bからの無言の合図を受け取る客室係……「約束された移動」。
ダイアナ妃に魅了され、ダイアナ妃の服に真似た服を手作りし身にまとうバーバラと孫娘を描く……
「ダイアナとバーバラ」。
今日こそプロポーズをしようと出掛けた先で、見知らぬ老女に右腕をつかまれ、占領されたまま移動する羽目になった僕……
「寄生」など、“移動する"物語6篇、傑作短篇集。(Amazon内容紹介より)

「妊娠カレンダー」で芥川賞を受賞以後、多くの文学賞を受賞している著者は、本好きならきっと必ず一つは作品を思い出される作家の一人だと思います。特に「博士を愛した数式」は本屋大賞受賞、映画化されているので、小川洋子という作家名を知らずとも作品は知っているという方もあるかもしれません。

さて、今回の作品ですが、内容紹介にもあるように「移動する」がテーマとなっています。

約束された移動
ダイアナとバーバラ
元迷子係の黒目
寄生
黒子羊はどこへ
巨人の接待

表題になっている「約束された移動」ではハリウッド俳優Bがスイートルーム備え付けの書棚から宿泊するたびに本を抜き取っていく、という本の移動により、俳優Bとの繋がりを密かに楽しむ客室係の心のうちが描かれています。

毎回、必ず一冊づつだった。二冊以上になることも、零冊の場合もなかった。その規則は律儀に守られた。そして言うまでもなく、どの本も誰かがどこかへ移動してゆくお話だった。p31

「元迷子係の黒目」では裏の平家に住む”ママの大叔父さんのお嫁さんの弟が養子に行った先の末の妹”は、彼女の遠い親戚である少女のうちで飼っている熱帯魚の出産による稚魚を見事に新たな水槽に移動。しかしそれらのすべての熱帯魚を全滅させ、彼女が絶望に落ちた少女を”末の妹”は以前勤務していたデパートに連れて行き、少女を迷子にし、迷子係から王女様のような扱いを受けさせて連れ帰るのです。

台所の小窓を開けると、デッキチェアに座る末の妹の後ろ姿が、窓枠からはみ出しもせず、小さすぎもせず、ちょうどいい大きさで見える。裏庭の四角の中にある、もう一つの四角だ。(中略)大勢の子どもを帰るべき場所に返してきたのに、自分の子どもだけは戻ってこなかった(※流産)元迷子係は、水槽で泳ぐ熱帯魚のように、今、小さな四角に守られている。p120-121

全く現実味のない話もありますが、作品の文章の一つ一つが無駄がなく、美しく、心地の良い昔話を聞いているように感じるところが著者の魅力だと思います。

短編集ですので入り込めばあっという間に読めます。是非手に取ってみてください。

今日も読んでいただき、ありがとうございました。

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