バーテンダーになんかなりたくなかった
前回の話で「気づいたらバーテンダーになっていた」と書いたけど、ホントの事を言えばバーテンダーになんかなりたくなかった。
じゃあ何になりたかったのかと問われても今じゃもうよくわからない。きっと、いや絶対にあの当時でも良くわからなかったはずだ。
あれもしたいこれもしたいでずいぶんフワフワしていたと思う。きっと地面から1センチくらい浮いていたんじゃないか。ドラえもんみたいに。
多くの人が若い時に持つ、あの「根拠無き自信」というヤツにしっかりと捕まって浮いていた。そうじゃなければ「訳の分からない全能感」に支えられていたのかもしれないけど、どちらにせよ同じことだ。そしてそれらは当人に何の益ももたらさない事の方が圧倒的に多い。
あれを使いこなせるのはある種の才能があり、それを活かせる分野で活動している人間だけじゃないだろうか。そんな人間は世の中でもほんのひと握りなわけで、当然のように僕はその選からは外れていた。
ちょっと考えればわかることのような気もするけど、根拠無き自信−或いはムダな全能感−で麻痺してると得てしてそういう事には気づかないものだ。
そして、ある日。
唐突に突きつけられるのだ。
「オマエは何者でもない、凡人だ」と。
素直な感情を持ち合わせているのなら受け入れられるのかもしれないが、そうはいかないのがこの手の人種だ。
その事実を心の片隅で認めつつ、でも認めてしまうとこれまでの時間を全否定する事になるが故になかなかできない。
御多分に洩れず、僕はその事実と自分の理想の間で右往左往しながら−というより狼狽えながら−生きていた。そんな時に、縁のある人が店を開くから働かないかと声をかけてくれた。
それで、飲食業に身を投じた。
しかし、ひとりでいるのが好きで大してコミュニケーションも取れなければ話術も立たない(これは今でもそう)人間には全く合わない職種だし、右も左もわからない、ど素人からのスタートだから予想に違わず仕事もできない。いわゆる「使えないスタッフ」だった。
他店の、先輩みたいな人にも「才能無いから辞めとけ。辞めるなら1年以内だ。あと戻りが利かなくなるぞ。」と言われた。それは誰より自分が良くわかっていた。が、これ以外にやる事を見つけられなかったから続けた。続けざるを得なかったと言うべきか。さっさと辞めて他の仕事に移りたいとは常々思っていた。
けっきょく、声をかけてもらったそのお店には起ち上げから関わらせてもらって1年半くらいで辞めた。これで別の仕事に就こう、と考えていたのも束の間、純粋な飲み手だったころに通っていたお店で良くしてくれたシェフからヘルプを頼まれてそこを手伝い、なし崩し的にレギュラーで仕事をするようになってしまった。でもアルバイトという立場は崩さなかった。すぐにどこにでも行きたかったから。でも最終的には4年くらいいただろうか。飲食ではよくある話だ。
合間合間に、やってみたかった仕事のほんの表層を撫でたり、瞬間的に別の業種の仕事もした。
だけどなぜか数店からヘルプで出来ないか?というお誘いを頂き(いま思えばBAR業務が少しできるなら誰でもよかったのかもしれない。それでも敢えて僕に声をかけてくれたのはとてもありがたいことだったと思っている)、曜日ごとに違う店に入ったりなんだりしているうちに見事に、そしてしっかりと「バーテンダー」という肩書きを持つに至ってしまった。そのあとはこの現状が物語る通り。
まあ葛藤やらいろいろあったし、それは今も抱えている。機会があればここに書き留めたい。
幸いにもと言うか皮肉にもと言うか、お客様からはバーテンダーを「選んだ」人間として見られることが殆どで、「なりたくてなったわけじゃない」と答えると意外な顔をされる。でも、間違いなく、きっぱりと「なりたくてなったわけじゃない」と言ってしまう。そうとしか言えないのだ。なぜならこれは動かしようのない事実で、生涯変わることのない、変えることのできない答えだから。
ただ、今現在において自分がバーテンダーであり、BAR TooLという店を構え、曲がりなりにも6年半程度続けられているという事実。
これらについては、満更でもないと思っている。
もし、記事を読んでくれてお店の方が気になったら覗いてみてください。Instagram / FBもページがありますが、まずはオフィシャルHPを。 http://www.bar-tool.com/ サポートしていただけた場合はお店の運営に充てさせていただきます。