見出し画像

エスニック料理で多文化共生を実現したい!川口エスニック祭(2024年2月7日)

※2024年2月7日に開催したイベントのレポートです。

埼玉県川口市。ここは、日本で一番外国からの移民が多い街です。

多様な文化、バックグラウンドをもつ人々が集まるこの街では、なかなか外国人への偏見やトラブルがなくなりません。

そんな社会課題を解決すべく立ち上がった、大学生たちがいます。

「川口を、多文化共生のモデルシティにしたい」

そう語るのは、学生団体S.A.Lの EthniCity Kawaguchi(※)代表、八重樫海斗さん。慶應義塾大学法学部に在学し、川口は自身の地元でもあります。

八重樫さん率いるEthniCity Kawaguchiが着目したのは、”外国人が多い街川口”だからこその魅力―――バラエティ豊かな、エスニック料理店が多いこと。

「食べることを通してなら、多文化交流のハードルを下げられるのではないか?」

多文化交流に真摯に向き合う、若者たちの挑戦を聞きました。

※EthiniCityは「ethinic(民族的な、異国の)」と「city(街)」をかけあわせた造語

川口エスニックフード祭り2024概要

「#週末みんなで世界旅行」!
日本で一番外国人が多い街、川口には、「世界」の魅力あふれる食も集結。
美味しいエスニック料理をはじめ、民族舞踊や伝統音楽のステージパフォーマンス、海外に精通したインフルエンサーによるトーク企画などを通し、楽しく異文化交流ができるフードフェスです。

期間:2024年2月16日(金)~2024年2月18日(日)
   ※金曜17:00~20:30、土曜10:00~20:30、日曜10:00~17:00
開催地:川口駅前 キュポ・ㇻ広場
公式サイト:https://www.salkeio.com/kawaguchi-ethnic-food-festival/top

主催:慶應義塾大学行員学生団体S.A.L 
入場無料


旅が好き。地元が好き。だから見過ごせなかった、川口の現状

現在大学2年生の八重樫さん。10代の後半は、コロナ禍にありました。そんな中で憧れを募らせたのは、旅好きの父が語る様々な国・地域の話。

「父はゴリゴリのバックパッカーで、その冒険譚をたくさん聞かされたんです。いいな、かっこいいなー!と思って。コロナの影響がまだ強かった時期は、国内をヒッチハイクで回ったりしました」

海外渡航の規制が緩和されると、八重樫さんは旅欲を解放!2年弱という期間で、訪れた国は17カ国にのぼります。

「ベトナムで英語の先生をやったり、ジョージアでヒッチハイクをしたり。その土地の人に出会う旅が好きです」

アクティブに旅を続け、自身の世界も広げていく八重樫さん。その一方で、いつしか地元・川口に目が向くように。

要因は、ここ数年、メディアで取り上げられる川口在住のクルド人(※)の問題。

「クルド人、というキーワードがよく耳に入るようになって。どうやら川口にクルド人のコミュニティがあるらしい、とわかったんです」

関心を抱いた八重樫さんは、川口に住む外国人と直接交流したいと考えます。思いついたのは、「ディープなエスニック料理のお店に行きまくる」こと。

「川口の中なのに、エスニック料理のお店にはいると本当に外国みたいなんです。日本語の通じない”ガチ中華”のお店があったりもします」

飲食店だけでなく、移民家庭の子どもが多くやってくる子ども食堂や、外国籍のお客さんが多い八百屋を実際にスタッフとして手伝うことも。

川口から足を伸ばして訪れた東十条にある日本唯一のクルド料理店では、思わぬ再会が。なんと、中学時代の同級生が働いていたのです。

「クルドにルーツをもつ彼女に、『(在日クルド人の問題で)僕たち学生にできることはない?』って聞いてみたんです。でも、『それは無理だと思う』と言われてしまいました」

※トルコ、イラン、イラクなどにまたがった地域「クルディスタン」に住むイラン系の山岳民族。

学生が目の当たりにした、クルドの厳しい現実

そもそもなぜ、クルドの人々は日本へやって来るのか。彼らの故郷では、何が起きているのでしょうか。

疑問を抱いた八重樫さんが着目したのは、2023年2月に起こったトルコ・シリア地震における復興支援。

「民族によって、受けられる支援に格差があるのでは?と仮説を立てました」

現地の様子を確かめるべく、トルコを訪れるスタディツアーを立ち上げます。

ここで八重樫さんに代わりマイクを取ったのは、同じく慶應義塾大学に在学中の川西杏奈さん。EthniCity Kawaguchiでは広報を担当している彼女も、スタディツアーに参加したひとりです。

「トルコ・シリア地震の発生から半年以上経っていたのですが、まだまだ街は悲惨な状況でした。公式には発表されていない、住む場所に困る人が大勢いたり。なかなか表に出てこない問題として、雇用の機会が失われているという現状もありました」

トルコでの3週間の滞在のうち、1週間を過ごしたのが南部にあるパザルジク。日本にやってくるクルド人の多くがこの地域の出身で、中には、以前日本に住んでいたという人も暮らしています。

現地で出会った男性からは、日本での滞在中に遭った痛ましい出来事も語られました。

「4度の強制収容を受け、収容所では暴力を受けることもあったそうです」

さらに、スタディツアーの参加メンバーにショックを与えたのは、トルコ国内にあるクルド人への偏見・差別の空気。

クルドの問題は、政治的にも、歴史的にも根深い背景を抱えています。簡単に『解決しよう』と言えるような甘いものではない。それを理解しているからこそ、八重樫さんたちは大きく悩み、何度もメンバー内で議論を重ねたそうです。

”食”の可能性を信じて立ち上げる、川口発の多文化交流イベント

それでも、日本にやってくるクルドの人々のために、何かをしたい。

八重樫さんたちが希望を見出したのは、川口の街に集う多様なエスニック料理店の存在でした。

「メディアでは、つい移民が多いことによるマイナス面が目立ちがち。でも、川口のエスニック料理店にはすごく魅力が詰まっているんです。そこに光をあてたいと思いました」

八重樫さんたちが考えたのは、不和の一因が「日本人と外国人の間での接点が少ないことにあるのでは?」ということ。

別々の集団に属する人同士が互いに知り合い、関わることで、相手の集団へのマイナス感情(偏見や排外意識など)が弱まっていく。「接触仮説」として、社会学で提唱されている理論です。

実際にEthniCity Kawaguchiの面々も、トルコ現地や川口で出会った人々とのつながりから受けたマインド面の影響を感じていました。

そうして立ち上げたのが、今回の「川口エスニックフード祭り」。

美味しい食べ物を通してなら、仲良くなれるはず。食を通して接触機会をつくり、ポジティブな多文化共生を目指していくプロジェクトです。

「『異文化交流しよう』と呼びかけても、相手を動かすのは難しい。でも、『○○があれば仲良くなれる』仕掛けをたくさん生み出すことで、エスニックな魅力がまちを彩る”EthniCity”をつくりたいんです」

4ヵ月かけて準備を進めたイベント。過程には、「しんどい」と感じることもたくさんありました。

各行政への申請や会場の準備、事務的な諸手続き…出店店舗探しも容易ではありません。

「日程が週末なので、その期間店舗を空けられないという人手の問題や、言語の壁もありました。資金調達も大変で、出店料をお店に払ってもらわなくてはいけないことも心苦しくて」

それでも共感して手を差し伸べてくれる人、そして自ら立ち上がってくれた、エスニック料理店の方々がいました。地域からの応援の力も大いに感じたといいます。

ここまで力強く歩を進めてきたようにみえる八重樫さん。しかし、まだまだ厳しい現実を感じているそう。

浸透してしまった、「クルド人問題」のネガティブな意味づけ。日本人コミュニティと移民コミュニティ、双方がもつ”外国人”に対する心の壁。

多文化共生へのポジティブな空気をつくりたい。そう思って活動する八重樫さんたち自身へも、強い風当たりがあります。

「問題は根深いし、自分たちの行動が必ずしも正しいものとはいえない」と省みつつ、それでも八重樫さんの抱くビジョンの輝きは失われません。

「世論の逆風があっても、ホンモノでありたいんです。取り組む人が他に少ないからこそ、やる意義があるはずと思っています」

大きなハードルを前に、自分たちにできることを見つけ進んでいく八重樫さんとEthniCity Kawaguchi。今年スタートした「川口エスニックフード祭り」は、今後、年に1回の恒例開催を目指しているそう。

いつの日か、川口が日本の多文化共生のモデルシティとして知られるように。国籍を問わず、誰もが暮らしやすい社会が訪れるように。彼らの挑戦は続きます。

EthniCity Kawaguchiの活動情報はこちらから!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?