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革新であり、原点。金紋秋田酒造、熟成日本酒の挑戦(2023年12月6日)

※2023年12月6日に開催したイベントのレポートです。

日本屈指の米どころ、秋田県。

金紋秋田酒造株式会社があるのは、中でもひときわ気候風土が稲作に適した内陸の盆地・大仙市です。

同社が手間ひまをかけ、こだわりぬいて製造する熟成日本酒は海外でも高く評価されています。

本日お話しいただくのは、金紋秋田酒造株式会社三代目社長の佐々木孝さん、そしてその娘さんであり、社員でもある優紀さん。

おふたりにお持ちいただいた美味しい熟成日本酒を味わいながら、日本酒の新しい可能性を切り開く金紋秋田酒造のストーリーを伺います。

旨味を楽しむ熟成日本酒。”SAKE”の新たな価値は、古来の伝統にこそあった

金紋秋田酒造の創業は、昭和11年。

歴史ある蔵元の多い秋田では、後進にあたる立場であったと佐々木社長は語ります。

「うちは地場に弱かった。その中で、どのように特徴を出して生き残っていくかというのは、苦労した点です」

近年、日本酒の中で”王道”として支持されているのは純米大吟醸。

さわやかでスッキリとした味わいが広く好まれていますが、金紋秋田酒造は、”後発である自分たちが同じスタンスで酒造りをして、昔から酒造を続けてきた蔵に叶うのか”と自問。

伝統の力は、くつがえせない…。

そこで注目したのは、日本酒の原料となるお米そのものがもつ力―――旨味、でした。

「米の旨味に焦点をあてていくと、熟成酒が頂点である、という結論にたどり着いたんです」

日本酒を熟成させると、どのようなことが起こるでしょうか。ポイントとなるのはメイラード反応です。

メイラード反応とは、糖とアミノ酸と熱を加えることによる化学反応によって、食べ物が褐色に色づき香ばしい香りがする現象のこと。

炒めた玉ねぎが飴色になったり、クッキーなど小麦粉のお菓子にこんがり焼き色がつくのもメイラード反応によるもの。

お米の主成分はデンプン、つまり糖。メイラード反応をお酒で再現することで、糖に反応がおき、旨味のもとが増えていくのです。

とくに、酒造りによく用いられる酒米は”心白(しんぱく)”と呼ばれる中心の白濁した部分の割合が高いのですが、ここには多くのデンプン質が。

たっぷりの糖がアミノ酸と反応しあって旨味が生まれ、その外側にあるミネラルが年月とともに溶かされると、さらに味わいが深まると語る佐々木社長。

「香辛料的な旨味や、フレッシュなレモンピールのような香りが出てくる。(熟成で)古くしているはずなのに、新しい味が生まれてくる。そういう奥行のあるお酒だと思っています」

実はこの酒を熟成させるという手法、古くは鎌倉時代まで遡る伝統的なもの。

当時は甕でお酒をつくっていたため、自然と熟成が進み、侍や僧侶に親しまれていたそうです。

その後戦国時代には、高級酒として武将たちに愛されました。

しかし、近現代になるにつれいつしか新酒が増えていき、熟成酒は表舞台から遠ざかります。

金紋秋田酒造も、製造をはじめてしばらくの間は、なかなか熟成した酒を受け入れてもらえないという現実に苦心したそう。

転機が訪れたのは、2009年のこと。

ロンドンで開催されたIWC(International Wine Challenge)の日本酒部門で、出品した「山吹1995」が、最高賞にあたるチャンピオン賞を獲得したのです。

当時の感動は非常に大きなものだったと、佐々木社長は振り返ります。

「光が差したようだった。今まで、国内では”裏”だったものが、世界でメジャーとして認められたのですから」

ともに出品した「山吹ゴールド」も金賞の評価を受けており、その後数年にわたり複数のメダルを獲得。

金紋秋田酒造の熟成日本酒は、ブリストルホテルやロブションなどの名店で採用され、世界が認める味となりました。

実際に、熟成日本酒を味わってみよう

それではお待ちかね。実際に、金紋秋田酒造のお酒をいただいていきます。

1杯目は、「純米原酒 X3 Rose」。

「X3」シリーズは金紋秋田酒造のイノベーティブライン。「日本酒の概念を拡張していくもの」というコンセプトのもと作られています。

商品名の「X3」は「3倍」という意味で、通常の3倍量の麹が使用されているほか、ワイン樽での熟成など技術の”掛け算”によって、日本酒の新たな愉しみが提案されている品です。


この「X3」シリーズの「純米原酒 X3 Rose」は、原料に赤米が加えられています。グラスに注がれたお酒は、その名の通りのばら色。

「これが日本酒?」と驚く華やかな香りとともにお米らしいまろやかな甘みを感じ、記憶にあるどの味とも異なります。

熟成日本酒の旨味成分は、一緒にいただく食べ物の美味しさも引き出すとのこと。

「油ものとの相性がよい」と優紀さんにおすすめいただいたので、チーズを一口かじってみると…口の中にじんわり風味が広がります。これは美味しい。

「味の楽しみ方のひとつに、口内調味というものがあります」と、優紀さん。

「口の中で調味する。モグモグと食べ物を味わいながら、そこに日本酒を合わせることで、味がガラリと変わるんです。ぜひ、『この味はチョコレートにあいそうだな』など、色々なペアリングを楽しんでみてください」

続いて、同じ「X3」シリーズから、「純米原酒 X3 Calvados Cask黄麹仕込み」。こちらは蜜のような、まろやかな黄金色をしています。


カルヴァドスの樽で貯蔵されることにより、リンゴのような酸味が加わっているのが特徴。口に含むと、フルーティな香りがフワッと鼻へ抜けていきます。

驚いたのが、クルミとの相性。クルミ特有の苦みが消え、まるでスイーツのように甘い!これまでに食べたどんなクルミよりも美味しく感じられました。

そして最後にいただいたのが、フラッグシップライン「山吹」シリーズの「山吹ゴールド」。


IWCで金賞を6回受賞した、金紋秋田酒造を代表するともいえるお酒。

そのお味は、まさに芳醇。口にふくむとひろがる豊かな香りに、思わず表情もほころびます。

一般的な日本酒に比べてやや黄色みを帯びた色は、熟成によって作られたお酒ならではのもの。

吟醸酒は米を磨いて味から癖を取り除きますが、金紋秋田酒造ではあえてあまり米を磨かず、丸ごと熟成の力で変化させています。

よってお酒に色が残り、味の深みや個性が増すとのこと。

「熟成はホーロータンクで常温で行う」と、佐々木社長が製造のこだわりを教えてくれました。

「どれだけ時間をかけて熟成させるかが基本だと思っています。そして、夏は涼しく短く、冬は雪に閉ざされる秋田の環境は熟成に適している。秋田の四季をじっくりとかけてつくっています」

美味しく、多彩なペアリングも楽しめる熟成日本酒。ぜひ色々な場所でいただく機会があれば嬉しいのですが、国内での普及は、まだまだ伸びしろのある状態だそう。

その理由の1つがやはり、日本酒の一般的なイメージからは離れている点。

「むしろ、海外からのほうがフラットに評価されます」と、優紀さん。

「『あぁ、この味は私たちがよく飲むシェリーに似てるね!』と、ご自身の文化との共通点を見つけてくださるんですよね」

近年、様々な国・地域で日本酒への注目度は上昇中。海外との取引の現場にも赴く優紀さんは、日本の”味”へ興味を示す海外の顧客の熱量を肌で感じています。

「スペインの方が、大豆が手に入らないからピーナッツで味噌を作ったと教えてくれました。海外の方は今、日本の旨味を面白いと感じてくれて、自国にある食材で日本人の発想にはない味を作ろうとしています」

吟醸酒よりもさらに深い歴史をもつ熟成酒。その特徴である”旨味”が国境を越えて親しまれつつある現象には、温故知新という言葉がぴたりと当てはまります。

この伝統と革新の共鳴する日本酒の味を、そして旨味の楽しみを広めるべく挑戦を続ける、金紋秋田酒造。

秋田の、そして日本の”味”を牽引する存在として、これからもっともっと、多くのひとに美味しさの感動を届けてくれるはずです。

金紋秋田酒造の熟成日本酒を味わってみたくなった方へ

金紋秋田酒造公式オンラインショップでは、今回のBAR IAPONIAのイベントにお持ちいただいた「山吹ゴールド」や「X3シリーズ」の日本酒を注文できます。

商品の魅力が伝わるInstagramも、ぜひご確認ください。


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