2note表紙本光寺

“笑って帰れるお寺”をめざしてお寺改革に挑戦する、仏教界の風雲児・尾藤住職。

都心から約40分。千葉県市川市、「市川大野駅」を降りて閑静な住宅街を5分も歩くと650年の歴史ある寺、光胤山本光寺が見えてくる。
境内にはおしゃべりや笑い声が聞こえ、まるで公園のように人が集っていた。買い物帰りの主婦が話し込んでいたり、若いカップルが腕を組み、楽しそうに「パワースポット」と書かれたエリアを巡り歩いている。

650年と聞いて枯れた風情のある古寺をイメージしていたが、想像と違い、明るくて開放的な雰囲気があり、お寺特有の敷居の高さは感じられない。
今回、取材させていただくこの寺のご住職、35世尾藤住職とはどんな方だろう。実際に新しく変わろうとするお寺の姿を見ることができ、俄然、興味が湧いてきた。未来に向けて日本の伝統を残す術を、じっくりとお伺いしたい。

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「時代にあわせる。型にハマらない。迷ったら第三者の目になり客観視すること。」

革新的なPR広告、多彩な地域貢献活動、オリジナルグッズが揃う通販サイト、サービス満載の寺造り…。尾藤住職の型破りな挑戦は数々ある。

「風と雲が沸き立ち、昇天する龍が勢いを強め上りつめる。」
これは、風雲児を意味する表現だが、勢いのよさが尾藤住職にピタリと当てはまっている。
けれど、いかに志が高くても、迷いや不安がたくさんあったにちがいない。決断に踏み切る秘訣はあるのだろうか?

-尾藤住職・INTERVIEW-

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大学生の時に先代の住職だった祖父が亡くなり、正式に寺の跡を継いで住職になりました。その時、祖父が守ってきた650年の伝統を今度は自分が守っていこう!そう決心はしたんですが、そのために何をすべきか、やるべきことがはっきりとわからなかったんです。
そこで、10年間は頭を下げ、檀家さんや周囲の方々の教えに従うことに決め、それを守りとおしました。
10年経って、自分のやるべきことがはっきりと見えました。650年続くこの寺を守るのに必要なのは、公園のように気軽に人が訪れるお寺に変えていくことなんです。若い人にも関心を持ってもらいたい。そのために、お寺のイメージを変えようと、これまでやっていないようなことにチャレンジしていくことにしました。
簡単なことではないとは思っていましたが、想像以上に大変でしたね。

迷ったこと?それはたくさんあります。初めてやることばかりなので、それに反対者もたくさんいましたから(笑)。
迷った時は、自分自身のことを客観視して見直すようにしました。第三者の目で見るんですね。そうすると、今まで見えなかったことが見えてくる。これで大概は判断がつきます。なかなか難しいですよね。感情を入れないで第三者になるのは簡単じゃない。でも訓練すればできるようになるんです。私は頭を下げて過ごした10年の間に、感情に流されず、冷静に現状を把握して判断することができるようになりました。何事も経験ですね。無駄な経験などないのです。


「時代をキャッチできれば、アイデアは浮かんでくる。効果を出すには、何を使って伝えていくかが重要です」

これまで行ってきた様々な新しい試みを伺い、尾藤住職は人を惹きつけるアイデアの宝庫のような方だと思った。サービス精神旺盛の新しい発想で次々と人を魅了し、さらに効果も出していて、見習うべきところがたくさんある。
強烈なインパクトで話題となったCMがよい例で、お寺とは思えない奇抜な内容で、一度観ると忘れられないと評判だ。さらに、YouTubeという媒体を選択したことで若者への認知訴求を実現している。型破りな印象ばかりが先に立つが、実は効果を出すことに重点をおいているのだろう。お寺の新しいイメージが若い世代に伝わっている。

■前代未聞のお寺のCM。観たら必ず記憶に残る、認知訴求の効果抜群。


ー尾藤住職・INTERVIEWー

やっていることが型破りと言われることは確かにたくさんあります。いろいろありすぎて、どれをお話したらいいのか迷いますね(笑)。
一番、大騒ぎになったのが本光寺のCMを作り、YouTubeにアップしたことですね。あの時は大変で、檀家さんがたくさん集まって会議になって。内容が斬新だったし、ネットという不特定多数の方が視聴することで、お寺に誹謗中傷する人が出ないか心配してくださったんですね。
それでも断念しませんでした。檀家さんたちに、悪意のある嫌がらせ行為があったら即止めると約束してYouTubeデビューしました(笑)
時代の流れには、やはりそうべきだと思ってます。関心を持ってもらえなければ、やる意味がないからです。今の時代は若い世代には動画で伝えるほうが届きやすい。YouTubeが流行りだしていたので、インパクトのあるCMなら話題になり、本光寺を知ってもらうことができると考えました。

CMの他にも、たくさんのことに挑戦しています。アイデアは、お寺であることを意識しなければたくさん出てきます。ヒントは人から得ることが多いですね。求められていること、あったらいいなということを教えてもらうと、新しいアイデアが湧いてくるんです。
YouTubeやFacebookなどのSNSも活用しますが、“人に喜んでもらえることをやっていきたい“というのが基本なので、それを忘れないようにしています。

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■イメージアップに大活躍、オリジナルキャラクター「木魚のぽっくん」
オリジナルキャラクターも作りました。子供から大人まで誰もが覚えやすく、親しみをもってもらえるのがキャラクターの魅力です。ご当地キャラのイメージですね。今は予想以上に大活躍してくれていて、寺の名前が出てこなくても、ぽっくんのお寺と覚えてもらったり。とてもうれしいことです。

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■境内散策「パワースポット」
境内は、広くないので、どうしても訪れた人の滞在時間が短くなってしまいます。そこで、テーマパーク的に寺のあちこちにあるスポットを紹介し、寺巡りを楽しんでもらおうと考えました。世の中でパワースポットが注目されていたこともあり、中国の五行の思想を取り入れて五行のスポットにしたら、ご年配の方だけでなく、若い人も訪れてくれるようになりました。

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■お守り・お札・オリジナルグッズなどが手に入る通販サイト
古き良きものは、ずっと残していくべきだと思っています。でも、部分的にでも時代にそったやり方に変えたほうがいいということもあります。
例えばお布施など、金額をはっきり決めるのはなんとなくタブーとされていましたが、その曖昧さが寺離れにつながっていると感じていました。金額が決まっていたほうが安心してお付き合いできるはず。だから、本光寺では様々なご供養や祈祷の金額を明確にしています。さらに一年中いつでもお札やお守りが購入できるよう通販のサイトを立ち上げました。
お寺に来れない人でも通販を利用すれば、本光寺とつながっていただけるので、ありがたいことです。


■文化の伝承、昔ながらの人が集う場を再現した寺子屋教室
日本の伝統を伝え残していくことに少しでも貢献できればと「寺子屋教室」を始めました。現在、お寺の部屋を利用して、6種の教室が開催されています。地元の方ばかりでなく、遠方からも受講者がいて、なかなか好評なんです。教室が縁で本光寺を知ったという方も多く、人の輪が広がっていくのがこれからも楽しみです。

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※仏像彫刻教室

「蒔いた種がどう育つか。成長を助け、見守るのも楽しみです」

走り続けて10年が経ったそうだが、振り返ると、やってないことはないというほど次々に新しいことに挑戦されている。節目の10年が過ぎたが、これからのプランは? 今まで取り組みに対して、どのようにアフターケアをするのかも気になるところだ。

ー尾藤住職・INTERVIEWー

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たくさんチャレンジして、10年経った今は、穏やかに様子を見ている感じですね。一生懸命、種を蒔いて、それが芽を出しているので、これからどう育つか見守っています。育ち方が悪いようなら肥料や水をあげなければいけないし、変な方向に向いて育っていくようなら、枝葉を切ったりして調整をはからなければなりません。勝手にうまく育っていくならば、そのままでよし。成長するのを見守るのも楽しいですね。

私は人が好きなんですね。新しいことに挑戦することで、新しい出会いがあり、そこからまた人との付き合いが広がっていく。そんな人との繋がりができることが楽しみなんです。
今、人の輪もどんどん広がっているので、うれしくてわくわくしています。

お寺では地域の方々が交流し、楽しんでいただける催しを年間をとおして開催しています。少しでもお寺に来る回数を増やしてほしい。増えていくことで敷居が高いという印象が、徐々になくなっていくことを期待しています。
お寺に気軽に来て、悩みや不安があれば、一人でため込まずに話をしてほしい。人との関係性が希薄な今、孤独を抱えている人はたくさんいます。つまづいてしまった時に助けを求める先は、医師やカウンセラー、セラピストとか。そうした受け皿の中の一つにお寺という選択肢があってほしいんです。仏様の教えを伝えるというよりも、話をきくだけ、話してくれるだけいい。話したら気持ちがラクになって、お寺に来たときは難しい顔していたのに、変える時はスッキリと笑顔になる。そんなふうに、本光寺とともに、私自身も人に寄り添いお役に立てる存在になりたいんです。
そうなるように、これからもまだまだ、辛抱強く挑戦していきたいと思っています。

取材後記

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古いお寺育ちのご住職が、お寺を守るために改革をするという話は、とても興味深く、目標を成し遂げるためのヒントをたくさん教えていただいた。話しながら、ご住職の人を救いたいと思う温かい思いやりの心も伝わってきて、私も熱い気持ちに。言葉や気持ちはきっと伝染するのだろう。
私からの直球ストレートな質問にもざっくばらんにお答いただき、感謝でいっぱいだ。
このインタビュー記事を読んだ人が、私と同じようにご住職の話から、元気や勇気をもらうことができたらとてもうれしいと思う。

また、古い伝統を残す=大切なものを守る、という永遠のテーマは伝統工芸にも通じるものがある。古いままでは変えられない。新しいことに挑戦し、型を破ってこそ守ることができる。
つまづいた時は、ご住職の話を思い出してとにかく型を破ろう。きっと道が開けてくるに違いない。

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ご住職の蒔いた種が、これから大きな花を咲かせ、花畑ができるのを私も楽しみに眺め続けていきたい。


★本光寺の公開情報がすべてわかるHP
https://www.honkouji.com/

裏本光寺

Writing:Rie Maeda


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