ASOBIJOSの珍道中㉒:バンクーバーアイランドへ
”ねぇ、バスまだかなぁ”
”乗り場8番って書いとったけん、大丈夫やろ、眠い…”
と、両手をスーツケースに置いて突っ伏して眠る私…。
”もう時間なのに…”
”遅れとんやろ…。”
と、ウトウトとしていると、”Airport! Airport!"と叫び声が後ろから…。
”フランス語わかんねぇと、すぐコレだ。”
”だからいったやん”
と、大慌てで、スーツケース2つと、バスキング(路上演奏)で車輪を壊して全く動かなくなった3つ目のスーツケースを必死にずりずりと押して進む私たち。危うくモントリオール市街から空港行きのバスに乗り遅れてしまうところでした。
飛行機の預け荷物の重量制限もやっぱりギリギリで、重量検査の前に、コートを取り出して腕にかけて、パーカーも取り出して、お弁当箱ほどの充電バッテリーもコートのポケットに隠して、あぁ、本も3冊くらいポケットに入れながら、”なんか言われたら着とけばいいのよね、着とけば…”と、真夏だというのに、やたらと冬服をもっさりと両手に抱えて、どうにか検査状を乗り越え、飛行機へと乗り込んだ私たちでした。
バンクーバーへの着陸時、天候が悪かったため、やたらとゴゥゴゥ、ミシシシシシと機体が揺れ出すと、これ来たとばかりにMARCOさんの腕を掴んで揺すって怖がらせて遊んでいますと、ガタンッとかなりの衝撃を立てて地面から一瞬、ふわっと跳ね上がり、思わず私も”うぉっ”と、声を立てて、前の椅子席に掴みかかると、”あんたもびびってるやん…”と冷ややかに笑われてしまうのでした……。
とにかく、”飛行機なんてもう二度と…”と、相変わらず。
9月の1日、夜中の1時にバンクーバーの空港に降りたった私たちでした。目指していたのは、これから滞在することになる、私の友人ユウタ・サニー夫妻宅で、バンクーバーアイランドという島の、ナナイモという、なんとも芋くさい響きのする名前の町でした。ここバンクーバーからは、さらにフェリーに乗って海を渡らねばならなかったため、早朝のフェリーまで空港で夜を明かそうという段取りでした。
「空港泊」という言葉もあるくらい、世界各地の国際空港には横になれるベンチがあったりするものですが、このバンクーバーの空港はほとんどのエリアを閉鎖してしまい、Dunkin’ Donuts(ダンキン・ドーナツ) やらSubway(サブウェイ)といったチェーン店の並んだ狭いフードコートのようなスペースに、乗り継ぎ待ちの客や、夜明け待ちの客もみな追いやられてしまうのでした。
盗難も怖いので、椅子に座って、両手をスーツケースに掛けたままウトウトしてみたり、なにかの仕切りのために置かれた太いポールとポールの間にスーツケースを並べて、うまいことベッドみたいにして、寝そべってみたりもしてみましたが、小さな耕運機のような形状の、大きいブラシがついた掃除機を運転する掃除婦の女性に起こされてしまうのでした。
”こういうところを夜中に掃除する人も大変なんだろうなぁ…。”
と、眠たい目をこすりながら、南アジア系らしき、労働者の男女に対する見方がすっかり変わってしまった自分たちを見出すのでした……。
”腹減ったぁ〜”とぼうっとあたりを眺めますが、どれも全く食欲のそそられない、冷凍食品を焼いただけみたいなチェーン店のフードコート……。
仕方なくSubway(サブウェイ)の列に並んで、"Hi!"と店員に挨拶をすると、
”バンズは?”
”何があるん?”
”Italian(イタリアン), 9-grain(雑穀9種), 9-grain with honey oat(雑穀9種とハチミツとオーツ麦), sesame(ごま付き),,,,"
”全部見た目一緒やん…”、と呟きながら、 「雑穀9種とハチミツとオーツ麦」のバンズを選んで、
”Chicken breast(鶏むね肉のハム), smoke meat(燻製豚肉のハム), Bacon(ベーコン)…"
と来て、”これも見た目一緒やん…”と呟きながら選び、
"メープルハニー,シーザー、ハニーマスタード、マヨネーズ、スモーキーBBQ…”と聞かれて、
色が違うだけやろ…。と呟きました。
横にいたMARCOさんは、全て違う選択肢を選んでみた、というので、ワクワクとしながら出来上がってきたものにかぶりついて、比べっこをしてみましたが、やはり、
”味一緒やね…。”
”いやいや、こっちアボカド入っとるけん”
という程度のものでした。しかも税金もたっぷりかかって、一個23ドル(2300円)…。思わず、”ラーメン食いてぇ”、と繰り返しながら、ラップ紙に包まれたサンドイッチに歯を食いしばる私でした……。
それから、気を取り直して、始発の電車に乗ってフェリー乗り場があるバンクーバーの水辺まで行くと、ちょうど目の前の海の向こうに見える岸辺から陽が昇り出すところでした。
モントリオールの古着屋で買ったビンテージのロングコートを着たMARCOさんは、そのコートのピンクや水色の花柄の刺繍や、肩に入ったパットがいかにも古めかしい品格を醸し出すシルエットを浮かべながら、その朝焼けの黄金の靄(もや)に包まれた空や海面に佇(たたず)んで、
”喉にキ◯タマができたわ”
と訳のわからぬことを言い出すのでした。
フェリーに乗り込むと、バンクーバーからナナイモへ向かう間の海景は、波も穏やかで、山がちな小さな島々がポカリポカリと並び、非常に四国の瀬戸内海の景色とよく似ていて、みかん畑を懐かしく思ったものでした。
そして、ユウタが車で迎えに来てくれていたので、そのまま荷物を乗せ込んで、ようやく彼らが暮らす、ピンクのペンキ塗りで煙突の突き出た木造一軒家へと到着したのでした。
ため息をつきながら荷解きをして、ベッドに転がり、20時間ほどぶりに手足を伸ばして寝そべった私たちでしたが、横でまた、MARCOさんが、
”喉にキ◯タマができてん…”
と、顎を出しながら指でさすって見せるのでした。
”眠いんやけん、”と思いつつ見てみると、確かに、MARCOさんの喉元には、奇妙なシコリのようなものができていました。
”MARCOさん、それいろうたら(弄ったら)あかんで。病院行かな…”
とまた病院でも一苦労なのでしたが、それはまた次回に。
とにかくこうして、カナダ滞在の後半を過ごすことになる、西海岸の島の港町、ナナイモへと辿り着いたのでした…。
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