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夏の終り〜高校野球の思い出〜

もう9月か。夏も終わりだ。
夏の終りになると、毎年思い出す光景がある。

大学生の時の話だ。
暑い暑い真夏のバイト休憩中に、事務所のテレビで、ぼんやりと高校野球を見ていた。(僕は野球部じゃなかったし、ルールすら曖昧なくせに、高校野球だけは毎年見ていた。夏の風景の一部に、高校野球がある感じ)

そう、あれは確か、東東京大会の準決勝あたりだったと思う。

「あ、〇〇君」

一緒に見ていた同僚の女の子が、ふと呟いた。マウンドには背番号1を背負ったエースが、日に焼けた精悍な顔を汗で濡らしながら、一夏の夢を追っていた。

どうやら〇〇君は、東東京の強豪・安田学園のエースらしい。あの巨人の阿部慎之助を輩出した、僕らの地元の名門だ。甲子園常連校ではないものの、毎年東東京でベスト4 とか8には入っていた。

女の子曰く「中学の時、同じクラスで席も隣だったんだー、あの時からカッコよかったなー、中学でもエースで....」

そう、たしかにカッコよかった。"背番号1"、
"ピッチャー"、"エース"、そのどれもが、同世代の女の子を夢中にするには、十分過ぎるほどの要素だった。

僕は、そんな女の子の呟きを耳にしながら、画面上で奮闘するエースを、ただぼんやりと眺めていた。

女の子から称賛のシャワーを浴び続けている彼は、帽子を目深に被り、体中をバネのようにしならせて、もの凄い速さで、白球をキャッチャーミット目がけて放り投げる。

アルプスの声援、ブラスバンドのマーチ、絵の具をぶちまけたみたいに青い空、ゴキゲンな夏の情景だ。

不思議と、どれだけエースが女の子に称賛されようと、隣でキャーキャー言われようと、嫉妬心は生まれなかった。強がりではなく、本当に。

多分それは、高校野球だからなのだと思う。

その言葉で、すべてが丸く収まる気がした。 僕のように野球経験が無くとも、何歳になっても、僕達が、画面越しの夢追い人に夢中になるのは、それが高校野球だからなのだと。きっと、そういうことなのだと。

今年も夏が過ぎてゆく。

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