三体(Netflix版)

以前、原作と中国(テンセント)版についてはここに書いたが、今回Netflix版が配信されたので一気に鑑賞。なお、この記事のおおまかな部分は、BLACKHOLEの『三体』特集でとりあげていただいたので、そちらもぜひ参照ください:-)
ネトフリ版はテンセント版みたく長くない。8話と短かくする代わりに、キャラクターを大胆に再構築。最初は、多様性のためのキャストかと思いちょっと心配していた。が、それぞれが原作(3部まで)の役割をちゃんと担っておりしっかり意味のある存在だった。かつ、『三体』の肝となる部分、たとえば文革に始まる冒頭(これは中国製作をはなれたおかげか、テンセント版よりもちゃんとやっていた)や、またたく宇宙や網膜カウントダウン、人間コンピュータ、ナノカッターによる船体切断などのセンス・オブ・ワンダーもしっかりおさえつつしっかりと8話に抑える離れ業には脱帽。当初の不安はふっとび、次シーズンに期待がふくらむ。
が、短かいがゆえに不満な点も。一つはサイエンスフィクションとしての科学の深堀りが甘いこと。たとえば、英語タイトルにもなっている三体問題とはどういうものか、なぜ三体世界が何度もほろぶのか、当然物語の重要な部分でもあるはずなのだが、Netflix版では十分に説明しきれていない印象。「科学が殺される」ことの意味や、「射撃手と農場主の関係」についても同様。前述の人間コンピュータにしても、単にビットに見立てた人をたくさん集めるだけではコンピュータにならない訳で、データを処理する部分(CPU)や、計算したデータを運ぶしくみ(バス)が必要になる。原作や中国版ではここをきっちりやっていた(ちゃんとコンピュータの父フォン・ノイマンが登場し説明する)ので、ここまではやってほしかった。
もう一つ、長い物語を8話に収めたゆえ、メインキャラクター以外のキャラクターの深惚りもあまりできていない印象。プロデューサーのベニオフ&ワイズといえば、長い時間をかけて、言わずもがなあの『ゲーム・オブ・スローンズ』の、100を超える登場人物それぞれに深みを与えていたコンビである。だから我々も今回の三体の中にゲースロのサム(ジョン・ブラドリー)やダヴォス(リアム・カニンガム)を見つけてなんとなくうれしくなったりできるのだ。中国版では、30話使って、楊冬(ヴェラ・葉博士にあたる人)婚約者や、今回登場しない組織の女申玉菲やその夫、ベネディクト・ウォン(史強)の部下などにも活躍の場が与えられていただけに、「もしテンセント版なみの長めの尺で彼らが作ったら…」と思ってしまわざるを得ない。
前回、テンセント版の魅力の一つとして、主人公汪淼(ワンミャオ)と史強のバディ関係を挙げたが、せっかくベネディクト・ウォンをキャスティングしながら、そこが活かせなかったのも残念。

なんやかんや不満の方が長くなってしまったが、Netflix版の今後に期待していることは本心です。

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