見出し画像

#10 社会人博士体験記 その2

まずは、#9の記事を一読されたい。

■社会人のバックグラウンドがあって良かったこと

 社会人のバックグラウンドが博士課程の研究生活にプラスに作用した点がいくつかある。正直なところ、修士からそのまま博士課程に進学しても、私が社会人博士課程で実施したのと同等の研究成果を挙げられた自信はない。

  1.  午前中から研究室に行くようになった
     昼夜逆転していた学生時代が、社会人になって矯正された。結果的に、研究に費やす時間が増えた。

  2.  計画的に研究できるようになった
     学生時代は、行き当たりばったりで実験をしたり、面倒な実験は後回しにしたりしていた。一方、会社経験のおかげで、数か月単位の実験スケジュールを立てて計画的に研究できるようになった。このとき、余裕を持ったスケジューリングを行うことで、万一実験が失敗しても挽回する時間的猶予を確保することができた。

  3. 実験や資料作成の効率が上がった
     単に経験年数の問題かもしれないが、素早く丁寧に実験するスキル、パワポ等の資料を効率的に作成するスキル(Microsoft Officeのスキル)は、会社で身についたものである。また、会社の実験ファイルみたく、エクセルで研究内容を一括管理するようになったことも、研究効率アップに寄与した。(学生時代の実験フォルダ内は、カオスそのものだった、、、)

■社会人博士課程で大変だったこと

  1. 休日が侵食される
     進学する前から覚悟していたことではあるが、いくら会社が協力的で業務として研究ができるとはいえ、平日のみですべてをこなすことは不可能だった。実験スケジュールの都合で土日に大学に行かないといけないこともあったり、ゼミ発表準備(月一で自分の担当…!)、学会発表準備、論文・博論執筆が間に合わず、休日返上で作業したり。
    当然のことながら、プライベートの時間は削らなければならず、私の場合は所属する市民オーケストラの練習にほとんど参加できなかった。

  2. ちゃんとした研究成果を出すこと
     私は、会社のお金で大学に行かせてもらっている身分であり、かつ研究室の学生から見ればかなり上のOBでもあった。そのため、会社と研究室の両方に顔向けできるよう頑張らなくては、という(謎の)使命感のもと研究に励んだ。
     そのおかげで指導教員からは、「これほど多くの研究をした社会人博士課程の学生は初めて。研究室の学生たちの手本になってくれてありがとう。」との感謝の言葉を頂くことができた。

  3. 対外発表の際の社内調整
     私の会社は、知的財産権に対する考え方がシビアであり、学会や論文発表の際の社内承認(スタンプラリー)が非常に面倒だった。同じ内容を何度説明しに行ったことか…

■博士号を取った後

 指導教員のご厚意で現在も研究室に共同研究員として在籍しており、毎週ゼミに参加している。自身の研究もしてよいことになっているが、会社業務との兼ね合いで研究する時間は全くない。また、博士課程在籍中には書き終わらなかった3つ目のテーマの論文投稿を準備している。

 会社では、名刺に博士の肩書が加わったものの、給料等の待遇は全く変わらず、今春同期たちとともにエスカレーター昇進した。新卒の初任給は学歴で変わるので、昇給を少しでも期待していた自分がバカだった。
 一方仕事内容は少し変化があり、上から言われた実験をやるだけの名ばかり研究から、ある程度は裁量があるアカデミックマーケティングを任されるようになった。専門性を生かせるよう配慮をしてくれたようだ。

■最後に

 巷で、「博士号は、足の裏の米粒だ。取らないと気持ち悪いが、取っても食えない」と言われているように、博士号は専門職の資格ではないので、取ったからと言って何かが変わるわけではない。ただ、博士課程の3年間を通して研究の楽しさを再認識できたし、海外の研究者とディスカッションする際に後ろめたい気持ちにならずに済むようになった
 会社で社会人博士に行かせてもらえるような制度があれば、その活用を是非ともお勧めしたい。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?