『日本の海上権力――作戦術の意義と実践』下平拓哉著、成文堂、2018
はしがき i
第Ⅰ部 戦略・作戦・戦術
第1章 「作戦術」とは何か 3
はじめに 3
空母4隻を失った日本海軍のミッドウェー海戦における大失敗は、太平洋戦争の流れを大きく変えた。また、米国のベトナム戦争における予想外の失敗は、米国内のみならず世界中を震撼させた。米海軍は、これらの失敗を「作戦術(operational art)」の無視あるいは欠如によるものと分析している。しかしながら、米海軍大学のベゴ(Vego, 2012a, p. 63)教授によれば、米海軍は、現在に至ってもなお、依然として戦略と戦術の観点から判断することが支配的であり、「作戦術」が見過ごされやすいと警鐘を鳴らし続けている
一般に戦争の本質は、代わらないが、戦争の性質は変わるもので、戦争の理解は科学(science)であるが、戦争の実施は術(art)と言われる(Vego, 2012b, p. 69)。「作戦術」によれば、より小さな部隊でもよく訓練すれば、より大きな敵を迅速かつ決定的に打ち負かすことができる(Vego, 2012a, p. 64)。つまり、「作戦術」の目的は、できるだけ短期間に、最小の兵力で、決戦に勝利することにあるのである(Vego, 2009, p. 3-4)
「sカウ戦術」に関する先行研究としては、日本では片岡徹也が用兵思想研究の視点から日本に欠如した研究領域と初めて指摘したものなどがあり、その概念と意義について整理されているものの*、「作戦術」を構成する具体的な要素について分析したものは管見の限り見当たらない。米国では、米海軍大学のVego (2009a)が、太平洋戦争を教訓に分析して、「作戦術」を体系的にまとめ、同大学の統合作戦に係る教育及び研究等に反映させている。
本章の目的は、まず、「作戦術」とは一体何であるのかを明らかにすることにある。そのために、まず、「作戦術」の発展経緯について整理し、次に「作戦術」の意義について分析する。そして、ベゴ教授の研究成果を中心に「作戦術」を構成する主な要素から、その本質を明らかにしていく。
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