見出し画像

知能と感性、肉体をフル活用せよ!八百屋が教える市場仕入れその④〜セリ取引編〜

<AM7:00〜AM7:30 競売を活用して目玉となる商品をつくろう> 
 7:00になるとセリ(=競売)が始まります(セリの時間は市場によって若干異なります)。前回のnoteでも述べましたが、すでに青果取引の大半はこれまで説明してきたような売り子さん(卸売会社の担当者)と1対1で値段や取引数量を交渉して決める相対取引となっているものの(東京都の中央卸売市場の場合、相対取引の割合は95%以上と言われています)、市場の公共性という側面によるフェアなプライシング機能を担保するため、各自治体によりセリで販売される最低限の数量が定められています。

 弊社が取引を行う豊島市場(東京中央卸売市場)の場合、各10ケース程度の主要品目(トマトやきゅうり、キャベツや大根などの定番野菜)の青果物が毎朝セリによって取引されます。

 当日取引で仕入れができなかった野菜については、このセリでなんとか仕入る必要があるのですが、そうした状況下では、他の買参人も同じような状況(商品が不足していて相対取引で仕入ができなかった)が多いため、他の買参人との取り合いになり、セリ場は戦場さながらのような状況となります(笑) 

 また、すでに十分な仕入れができている場合でも、セリ取引は相対取引と比べて安く仕入れられることが多いため、当日のお店の目玉となるような商品を仕入れるチャンスでもあります。

<セリにおける実際のやりとり>

 セリの順番としては、セリ人(=売り子さん=卸売事業者の担当者)がそれぞれ担当の野菜をセリ台にて順番に販売していくのですが、基本的な流れは下記のようなやりとりとなります。

売り子:「はい、この埼玉県産のきゅうり50本入れA品、10ケース、いくら!?(文字にすると迫力がないですが、威勢が良い感じで笑)」

買参人A:「ばんど!」

買参人B:「せんりょう!」

買参人C:「どうぐ!」

売り子:「どうぐ〜、どうぐ!」

買参人C:「4ケース」

売り子:「3133、4ケース」→ノートに買参人、値段、数量を書き込み

買参人A:「まり!」

買参人B:「まり!」

買参人D:「まり!」

買参人E:「まり!」

売り子:「3304、3233、3021」→ノートに買参人、値段、数量を書き込み

 上記のやりとりにおいて特に買参人が数字を伝える部分は、すべて指を使った手で表現することが多いです(数字を表す指の出し方も若干、一般の数字の数え方と異なる部分があるので注意が必要です)。

 今の読者の皆さんもそうだと思いますが、私が初めて実際のセリに参加したときは、最初から終わりまで「???」という感じでした(笑)

 セリ人と買参人のやりとりもそうなのですが、いつセリで野菜が落札したのかさえも分からないくらい???でした(いつのまにか終わってる(落札してる)みたいな・・・)

では、上記のやりとりを翻訳して解説していきます。

売り子:「はい、この埼玉県産のきゅうり50本入れA品、10ケース(セリにかける数量)、いくら!?」

買参人A:「ばんど!(800円でほしい!)」

買参人B:「せんりょう!(1,000円でほしい!)」

買参人C:「どうぐ!(1,100円でほしい)」

売り子:「どうぐ〜、どうぐ!(他の人、1,100円でいいですか?では、1,100円にきまり!)」

買参人C:「4ケース(10ケースもいらないので4ケースで)」

売り子:「3133(買参人Cの番号)、4ケース」→ノートに買参人、値段、数量を書き込み(あとで自社のシステムへ入力するため)

買参人A:「まり!(同じ値段(1,100円)でいいのでください)」

買参人B:「まり!(同じ値段(1,100円)でいいのでください)」

買参人D:「まり!(同じ値段(1,100円)でいいのでください)」

買参人E:「まり!(同じ値段(1,100円)でいいのでください)」

売り子:「3304(買参人Aの番号)、3233(買参人Bの番号)、3021(買参人Dの番号)」→ノートに買参人、値段、数量を書き込み(あとで自社のシステムへ入力するため)

<セリにおける暗黙のルール>

 セリのルールについては市場ごとに若干異なるかとは思うのですが、上記は弊社が買参人となっている豊島市場でのやりとりです。

 セリについては市場へ入荷している荷物が少ないときなど(前注文を入れても朝品物がないときなど)は、さながら戦場のような様相をかもしだします。

 例えば、上記の場合、買参人Cがセリで一番最初に値段をつけて4ケースを競り落とした後、残りの6ケースについては、同じ値段でも買いたいという買参人同士の取り合いのような形になることが多いです。

 では残りの6ケースの割り振りを誰が決めるのかというと、セリ人が決めます。基本的には、セリ人の方はフェアーに割り振りをしてくれるのですが、やはりそこはセリ人も人間なので、知らず知らずのうちにバイアスはかかっているものと自分は思っています。

以前のnote(担当者に嫌われたら試合終了!?八百屋が教える市場仕入れその②〜相対取引と事前注文取引について〜)でも書いた通り、やはりその辺も日頃からのセリ人(担当者さん)とのコミュニケーションが大切です。

 私がセリに参加し始めたときは、セリ人さんたちが新人ということですごく配慮してくれたので本当に助かりました!

 そして他の買参人の方もセリのルールや指の出し方などすごく親切に教えて頂き、本当に感謝しかありません(みなさん、ありがとうございました)。

 ご参考までに、下記は個人的に感じたセリ人さんに品物をセリで割り振ってもらいやすくするためのポイントとなります。

○ 買参人番号のバッジが付いた帽子をしっかりとかぶる(本来はしっかりと帽子を被らないといけないルールなのですが、ベテランの買参人さんなどになってくると(セリ人の中でも顔と番号が一致しているので)、帽子を被らない人もいます)

○ できるだけセリ人さんの見えやすい位置(前列の方がベター)にポジショニングする

○ 他の買参人さんを押しのけたりしない(特に市場全体の荷物が少ないときのセリは基本的に押し合いみたいな状態になります(笑))

 また、セリについてはその他にも、値段を細かく刻みすぎない、相場と比べて高すぎる値段をつけない(仲卸業者が夜中のうちに仕入れた商品の値段が朝のセリの値段に連動する仕組みとなっているため、セリを不必要に高値で落としすぎるとそれらの仕入額も上がってしまうた仲卸業者から怒られることもあります・・・というか怒られたことがあります笑)などいくつかの暗黙のルールがあるのですが、基本的にこれらは禁止事項ではないため、そこまで気にする必要はないかと思います。

<固定競売と移動競売について>

 豊島市場では、大きく2種類のセリに分かれており、一つは固定競売と呼ばれるもので、セリ台(固定の場所)にて毎日決まった主要品目がセリにかけられます。

 もう一つは、移動競売と呼ばれるもので、こちらはセリ台ではなく、荷物の置かれている場所へセリ人、買参人が移動するのでこうした名称が付いていると思われるのですが、セリにかけられる品目(野菜の種類)はその時々で変わります。

 例えば、ちんげん菜の入荷が多くて、朝の相対取引で売り切れなかった場合(ちんげん菜は葉物なので、売り子さんとしてもできるだけ早く売りたい商品です)、残ったちんげん菜はこの移動競売(セリ)にかけられます。

 この移動競売が、八百屋にとってはある意味大きなビジネスチャンスで、上記の通り、売れ残った野菜については値段が大幅に安くなることが多く、ここで安く仕入れられると通常の仕入の商品よりも大きな利幅を得られることを意味します。

 値段についてはそのときどきの相場によって変わるので、これは例ではありますが、上記であげたちんげん菜(10袋入/ケース)、相対取引で仕入れをすると500円/ケースだったものが、安い場合には移動競売だと100円/ケースとなったりします。

 移動競売に限らず、固定競売でも基本的には朝の相対取引よりも値段は少し安く仕入れることが可能なのですが、セリについては大きく2点、注意点があります。

画像1

<事業者ごとの様々数字と事情が日々複雑に絡み合うセリ取引> 

 一つ目は、セリは必ずしも狙った品物が買えるという訳ではないという点です。もちろん、高値を出せば買えるのですが、それだと商品は変えても結局仕入値が上がってしまうので、自店舗のお客さんに適正な利益を乗せて販売できる値段で、セリ落とす必要があります。

 ここで面白いのは、買参人さんそれぞれが、自分のレッドラインみたいなものがお店のスタイルや客層などにより)異なるということです。

 すなわち、セリにおいて重要なのは、ここまでの値段なら買おう、この値段以上なら買わないでおこうといった数字を明確にそれぞれのセリにかけられる商品ごとに持っている必要があるということです。

 そして当然、この数字はその日の相対取引の相場にも影響を受けるため、その時々のそれぞれの商品の相場を頭に入れておくことが必要不可欠となります(何十種類もの野菜の相場感のインプットは、日々の地道な努力が必要となります)。

 さらに、このレッドラインは同じ事業者さんでも日々変わります。例えば、事前にお客さんから注文が入っており、何がなんでもその野菜の仕入れを行わなければならない場合(飲食店に納めている事業者さんに多いですが)、値段に関係なくセリ落とすことも多々あります。

 ここで、ちょっとずる賢い読者の方であれば、「それなら買参人同士でカルテルを組んで、値段を安くだせばいいんじゃないの?」となるかと思います(自分もはじめそう思いました笑)。

 ただ、セリ人(卸売事業者側)は必ずしもセリで販売しなければならないというルールはないため(市場法のルール上、セリを開く必要はあるのですが)、相場と比べて値段があまりにも安い場合には、販売をしないという選択肢も持っています。

<セリにかけられる野菜やくだものの品質を見極める>

 二つ目の注意点は、セリにかけられている野菜やくだものの品質です。これまでのnoteでも述べてきましたが、農産物は一つとして姿形が全く同じということはありません。

 もちろん、すべてがバラバラだと取引効率がわるいため、規格という概念を作ってある程度品質やお大きさなどの統一化が図られているのですが、それでもやはり、同じ千葉県産のALのネギであっても、ケースごと品物は若干違っていたりします。

 品質の良い野菜やくだものがセリにかけられることもありますが、逆に品質がわるい、または日にちが経って品質が劣化している野菜やくだものなどが、セリにかけられることもあります。

 後者の場合、お店のスタイルによっては(弊社の場合はそうなのですが)、どれだけ値段が安くても(ほうれん草が1束10円、10kg箱のじゃがいもが1ケース10円みたいなこともあります)、そうした品質の低い商品をお店で売ることで(短期的には利益がでるのですが)中長期的にお客さんが離れてしまうリスクが大きいため、セリにあえて参加しないことも多いです。

画像2

 セリに参加する前の注意点として、事前にセリにかけられる品物をしっかりとチェックしておく(朝の時点でセリ用の商品はセリ場に置かれていることが多いです)ことが大切です。

 たまに、その日場内で売れ残った商品がスポットでセリにかけられるケースもありますが、そうした場合でもしっかりとその品質を確認することが重要になります(このあたりの商品の質を瞬時に見極める力(=目利き力)が仕入担当者としての力の見せ所にもなります。

 冒頭でも述べましたが、近年、市場取引全体に占めるセリ取引の割合は、相対取引の拡大もありひと昔前と比べるとその割合は非常に小さくなっています。

 そのため、スーパーなどの量販店にとってセリ取引は仕入の確実性、ボリュームの観点からセリ取引は魅力的なものではなく、逆に規模の小さな青果店にとっては、セリ取引はスポットで安く商品を仕入れられる魅力的な仕入方法の一つとして位置付けられているというのが、現在のセリ取引に関する実情といます。

 次回のnoteでは仕入れた商品が店頭に並ぶまでの青果店の裏側について解説していきたいと思います。