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無意味な笑いを解き明かす意味ーー『BANDIT Vol.3』のためのイントロダクション

5/19(日)『BANDIT Vol.3』を発行する。今回の特集は「ハガキ職人と笑い」。

今回は、その導入となるテキストをお届けする。

『BANDIT Vol.3』表紙
『BANDIT Vol.3』目次

『BANDIT Vol.3』をお届けする。今号の特集は「ハガキ職人と笑い」である。

 中学から高校時代まで毎晩のように『オールナイトニッポン』や『JUNK』を聞いていた。朝方まで起きる癖がついてしまったせいで完全な夜型人間になってしまったし、午前中の授業をきちんと聞いた記憶もほとんどない。
とにかく笑っていたかった。悠久とも思えるような人生が続くのが苦痛で、次の日が変わらずやってくることが鬱陶しくて、とにかく笑うだけの時間に浸っていたかった。

 三時を過ぎてもまだまだ寝られないときは『オールナイトニッポンエバーグリーン』も聞いていて、おかげで昭和歌謡にも詳しくなった。でも、そこまで起きていられることはほとんどなく、二時間の番組の途中でうつらうつらし始めて、エンディングテーマを聞きながら、「ああ、今日も楽しい時間が終わってしまうんだ」と、虚しさを抱えながら眠りに就いたものだ。

 ハガキ職人というともうひとつ思い出すのが、部室に VOWの単行本が置いてあったことだ。中学一年生の自分には理解できないネタも多くあったけれど、理解できたときにはもっと楽しい世界に入りこめるはずだと直感して、元ネタを調べたり、その意味を考えるうちに、引くに引けないサブカルチャーの沼に嵌ってしまった。

 近頃、M-1がブームになっているせいかお笑いが異様に盛りあがっている。私もM-1は大好きで毎年見ているし、漫才に情熱を傾ける漫才師たちの舞台裏を迫ったドキュメントにホロリとさせられることもあるけれど、同時に過度に感動させるような、若者がひたむきな挑戦をしていることを強調するような演出に押しつけがましさを感じることも多い。コンテスト形式以外の番組を見ても、努力や技術や情熱の差異を見せびらかせて、舞台に出て客を笑わせるのにも激しい競争があることを垣間見せるような芸人が増えたように思う。

 私が大人になって穿った見方をするようになったせいなのだろうか? どうもそれだけではない気がする。私が子供の頃にお笑い芸人に持っていたイメージはちょっとしたセリフもトチってしまって、笑われてしまうような人たちというもので、地元・関西では、成績の悪い子供たちは「そんなに勉強をしなければ吉本に入るしかない」とまで脅されていたものだ。

 いまはバラエティ番組を見るときも、肩の力を抜いて、その意味のなさやしょうもなさを笑うのではなくて、グッと入り込んで面白さを堪能するようなものに成り代わってしまったように感じる。もしかすると、激化する競争社会や、どんなことにも意味づけを求めるネット社会のアナロジーを私が勝手に読み取って息苦しくなってしまっているだけなのかもしれないが。

 笑いの移り変わりについてもっと知りたい。いつまで経っても解き明かせなかった VOWのネタの意味を読み解くように、私が求める笑いの姿を解き明かしたくて、今回はハガキ職人と笑いの関係について考える特集を編んでみた。

 特集の前半では、雑誌・ラジオ・テレビ番組など各種の著名投稿コーナーで活躍した伝説のハガキ職人の皆さん、そしてハガキ職人を研究し続ける皆さんなど、九名の方に取材をし、インタビュー記事として掲載している。それぞれのページをご覧になっていただければ、取材に協力してくださった皆さんが一枚のハガキに導かれて、数奇な歩みを辿ることになった経緯を堪能していただけると思う。
 特集の後半では、ハガキ職人から一歩踏み出してそれぞれが考える笑いの形について批評的な視点で考えてもらった。五つの論考と二つのエッセイを通じて、ハガキ職人や笑いの本質に少しでも迫れていれば幸いだ。

 この特集が笑いについて思索を深める一助にできていたら、それ以上に喜ばしいことはない。
 最後に、この特集を成立させるにあたり、多くの皆さんにご協力を賜った。この場を借りて篤く御礼申し上げる。

坂田散文

※文学フリマ東京38にて頒布予定です。

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