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【会津地域で活躍する人・団体レポート③】まちにあるものを活かし、人がつながる仕組みをデザインする~駅舎活用、まちあわせ文庫、事業承継~

利用者減になってにぎわいを失った駅
廃業してしまったまちの洋服店の空き店舗

ありふれた光景の1つではないでしょうか。
磐梯町も例外ではなかったが、今こうした古きものにスポットを当て、地域に関わる人の繋がり方のデザインにチャレンジしている若者がいます。

2020年度に地域おこし協力隊として磐梯町に移住し、「駅舎活用プロジェクト」にチャレンジする石田新さんです。
石田さんは駅舎活用の企画のほか、人の行動動線上にある場所、地域の歴史や思い出がつながるような場所など、まちの様々な場所で、地域の人の思い出が詰まった本を詰め込んだ本棚を置く「町あわせ文庫」などのプロジェクトの企画・運営などにチャレンジしています。

磐梯町地域おこし協力隊の石田新さん

▼なぜ駅舎活用なのか?

磐梯町には、会津若松市と郡山市をつなぐ磐越西線「磐梯町駅」があります。駅舎の利用状況は、年年間54,750人、1日あたり約150人が利用しています(平成30年度推測値)
主な利用者は、週末の観光客のほか、まちの高校生。磐梯町には高校がないので、近隣市町村の通学は電車を利用しています。また、磐梯町に医療機関はありますが、診察科目が特定されるため高齢者が近隣の病院に通院される方が利用することもあります。

本来、磐梯町駅は利用者数の関係から無人化となる予定でしたが、無人化になってしまうと駅の活気が失われ、観光の町として顔がなくってしまう……。そこで、磐梯町は第三セクターに駅の管理運営を委託しJRのOBを雇用しながら、駅舎の運営・窓口事業を進めてきました。しかし、JRのOBも高齢化しています。また、切符販売のみの活用で駅舎を活用してのイベント等は実施していません。

駅舎運営業務は、現在は研修を受ければ必ずしもJRのOBでなくても担当できるようになりました。他の地域では、商工会や農協が駅業務を行っている事例もあるそうです。
磐梯山の表玄関口、町の顔として町民はもとより観光客がふれあいを大切にした気軽に立ち寄れる場所としていきたい。
駅に行けば、地元観光はもとより、他観光施設へのルート案内やコースのプランニング、情報の提供などのプラスαが得られる施設にしたい。

そんな思いから、磐梯町では駅の窓口業務を行いながら、地域内外の人がつながる関係案内所になるように、駅舎を活用したコミュニティ活性にチャレンジする人を地域おこし協力隊として募集し、石田さんが着任されました。

磐梯町駅から見える磐梯山

▼1年目:最初は思うように進まなかった駅舎活用

石田さんが地域おこし協力隊として磐梯町に着任したのは、2020年4月。新型コロナウイルスの第1波によって、日本全国に緊急事態宣言が発令された最中のことでした。
また、町としても駅舎を活用していきたいと考えていましたが、JRとの契約がコロナで延期し、当初考えていた切符販売や駅舎活用の企画なども、なかなかスタートを切ることができずにいました。
大学卒業後すぐに地域おこし協力隊に着任した石田さん。駅なども含めて、高校生の探究マイプロジェクトの実験場にしたいと、アイデアソンなどを考えたものの、社会人や地域での経験不足を感じていました。コロナ禍の影響で地域でプロジェクトが進められないこともあり、石田さんは自ら磐梯町に提案し、先進地域に研修に行くことを決めました。
研修・インターン先に選んだのは、NextCommons Lab南相馬(福島県南相馬市)が取り組む小高駅活用プロジェクトの現場と、津波で全壊した駅をシンボルに新しいスタートが始められる場所を作った宮城県女川町で高校生が地域のために活動する「マイプロジェクト」を実施する、NPO法人カタリバでした。
カタリバは15年間、「生き抜く力を子ども若者へ」というビジョンのもと、主に高校生に向けて進路を考える機会を届けてきました。東日本大震災後は、被災した子どもたちの日常の学習に向き合いながら、身近にある地域課題を教育機会と捉え、高校生がそれらの課題を解決するリーダーとなる教育プログラム「マイプロジェクト」を立ち上げたそうです。そこでの約半年間のインターンシップで、社会人としての仕事のやり方などを学びつつ、高校生のマイプロジェクトの現場に入ることができたことで、高校生と地域のつながりがそれぞれにもたらすものなどたくさんの学びが得られたとのこと。
NPO法人カタリバ「マイプロジェクト」

高校生のマイプロジェクト

▼2年目のチャレンジ ①「町あわせ文庫」

2年目の今年度(2021年度)は、駅舎待合室をJR東日本から町に賃貸してもらうことができましたが、工事等の関係でしばらく駅舎が使えないことが判明。駅舎活用をなかなか進めらない中、1年目のインターン等の経験を踏まえ、石田さんが新たに始めたのが「町あわせ文庫」でした。東京都出身の石田さんは神田神保町の古本屋街を訪れるのが好きだったとのこと。今の自分がチャレンジしたいことを考え、大好きな「本」をテーマにした地域活性ができないかと、今回の企画として考えたそうです。
「町あわせ文庫」は、誰もが無料で利用できる町内に点在する本棚です。磐梯町駅やバス停、テレワーク施設のLivingAnywhere Commons会津磐梯など町内5カ所に設置された小さな本棚には、地域住民から寄贈された古本が並んでいます。本棚は町内の廃材を利用した手作りで、電車やバスを待つ間、誰かを待つ間に読むこともできるし、自宅に持ち帰って読むこともできるのだそう。本棚には「感想ノート」が置かれており、駅にはスキーに来た観光客からの感想が、小学校前のバス停には子どもたちからの感想などが書かれています。地域の子どもたちからは「面白かった!」、「おすすめの本を教えて欲しい」等のコメントが寄せられ、石田さんはノートにお返事を書いたりして、大切にできる本との出会いはもちろん、様々な人が地域とゆるくつながるきっかけとなっています。
この取組は地元の新聞紙にも取り上げられ、石田さんの自信にも繋がって、今新たなチャレンジを様々起こしています。

町あわせ文庫の感想ノート 子供たちからのコメントがたくさん

▶︎2年目のチャレンジ ②駅舎活用

もちろん「駅舎活用」も少しずつできるところから始まっています。町あわせ文庫の設置に始まり、現在は待合スペースに電源を設置し、滞在しやすい環境づくりなどを行なっています。2022年度にはフリーwifiも整備される予定です。
ただ、場を考える上で駅は公的なスペースでもあるので、点字ブロックなど配慮した設計をしなくてはいけないなど、色々な気づきなどももらっているそうです。
待合室の機能はアップデートされていくので、ぜひ電車でテレワークに来られる方には、駅で仕事をしてみたり、変わりゆく駅や駅前の変化を楽しんでご利用いただきたいと思います。
石田さんも、週の半分は役場ではなく駅にいますので、ばったり会ったときにはぜひお話してみてください!

駅待合室

▼2年目のチャレンジ ③面で捉え、駅前の活用を ~地域のお店の事業承継~

地域のお店・商店街が空き店舗が増えているのは磐梯町に限ったことではありません。通りに面したお店がなくなると、昔を知る地域の皆さんは寂しさを覚え、空き店舗しか知らない子ども世代はうちの地域は寂れていると感じてしまうこともあります。

磐梯町駅から徒歩2分。体操着等を扱う地域の洋服店があります。高齢化等もあってお店を廃業されようとしていたところで、地域に愛されていた場所を空き店舗にするのではなく引き継がせて欲しいと、石田さんはそのお店の事業を継業し、個人事業主として地元の小中学校に制服や体操服を販売するお店も始めるところです。

今後は、古物商許可も取得し、古着、古本なども取り扱っていき、また地域の人や古着屋古本を求める人が交わる場所にしていきたいと考えていらっしゃいます。

磐梯山エリアにはホテルやペンション村がある一方で、町の中心部に宿泊できる場所はありません。そこで、駅前にあるこちらの物件の一部をゲストハウス化し、駅を含めて複合的な機能を持つ「関係案内所」にしていけるように準備を進めているとのこと。ただ、泊まってもらうだけではなく、訪れた人が磐梯町をもっと知ってもらって、つながってもらえるような仕掛けも感がています。
例えば、磐梯町には他に10名を超える地域おこし協力隊が、様々なテーマで活動しています。新規就農や鳥獣害対策に取り組む協力隊員と連携して、鳥獣被害対策体験や農業体験等のツアーなども企画していると、石田さんはこちらのチャレンジについても語ってくれました。

事業承継で活用する予定の空き店舗

▼石田さんが磐梯町でチャレンジする理由

元々、福島県で何かがしたいという思いがありました。
そして、旅が好きだったこともあって、旅を向かい入れる側の気持ちになりたかったんです。そんな時に、福島県磐梯町の駅舎活用の求人情報をgreenzで見た時に「どんな駅舎だったら面白いだろう?」と想像することが楽しかったんです。駅舎ゲストハウス計画、カフェ開店など、募集要綱から想像を膨らませていました。

実際は様々な制約などがあって思うように進められないことも多かった中、それでも石田さんは現場で柔軟に工夫して、様々なチャレンジを起こしています。


▼3年目(2022年4月)のチャレンジのテーマ ①『人とデザインの関わりから「まちづくり2.0」を考える』

人が交わる仕掛けとしてデザインの重要性を実感した石田さんは、地域おこし協力隊としての活動、事業承継した場所の新たな活用に加えて、並行して『人とデザインの関わりから「まちづくり2.0」を考える』をテーマに据えていきたいと、この4月から美大の通信カリキュラムでデザインについて学び始めます。

デザインを学びつつ、ポートフォリオとして駅舎を活用、そのデザイン活動に高校生を巻き込んで行きたいとのこと。例えば、1ヶ月ごとに駅舎にテーマを設けて、場所のデザインを考えるようなイベントを実施したいとのこと。ただ、これも初めて見ないことにはわからないことも多い。ただ、着任後からコロナ禍等で活動内容を柔軟に変えざるを得なかった経験から、成り行きに任せつつ、その変化の中でやりたいことを手繰り寄せる芯を持っている石田さん。
「外の人」も巻き込みながら、活動を変化させて行けるようにしていきたいと意気込みを語っています。

「例えば、「放置自転車対策かつ自転車を置くことがアートになる仕組みを考えよう 」という企画を考えています。磐梯町は駅の利用者の規模の割に放置自転車が多いのが現状です。町に放置されている自転車を撤去した後に、あるいは撤去される前に、自転車を置くことがアートに加担する仕組みを作り、撤去しづらい環境。自転車で通うことが楽しくなる仕組みをみんなで考えてみたりしたいですね」

▼3年目(2022年4月)のチャレンジのテーマ 本にまつわるチャレンジ_町あわせ文庫の拡大と駅舎図書館化計画

今は町の中心部やLivingAnywhere Commonsなどの5箇所に本棚を設置していますが、町内全域に広げたり、本の持ち込み、作品の展示といった新たな機能の付与や、公民館の設置しなくなった本を町あわせ文庫で活用したり、図書館との連動なども考えていきたいとのこと。

また、町内の交流館の中にある「子どものサードプレイス 学びときばんだい」とも連携し、交流館・公民館・駅待合室を連携させつつ、まち全体を図書館にするような図書館構想も考えています。

「こうした活動の中で、住民の創作意欲を高めるような「絵本を作ろうプロジェクト」なども実施したいとのこと。誰かに評価されるのではなく、自分の創作意欲などを高め、町がクリエイティブになっていけるといいなと思います」

ただ、課題もある。町の人からも言われたことは「お金=事業にすることは難しいね」と言うこと。実際、協力隊だからできていることもあるので、協力隊の任期後にどのように事業にしていけるかについては、他の地域に視察・研修に行ったり、地域の人はもちろん、外の人からもアイデアをいただきながら、持続可能な事業について考えていきたいとのことなので、「磐梯町でテレワーク」事務局でも、石田さんとぜひ磐梯町に訪れる皆さんと作戦するような場も設けていきたいと考えています。

ぜひ、磐梯町の玄関「磐梯町駅」にいる石田さんに、ぜひ会いに磐梯町に会いに来てください!

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