指定管理者制度の光と影

指定管理者制度という、制度を知っていますか?簡単に言うと、皆さんの税金で運営している公共施設を、運営費は税金のままNPOや企業といった民間に運営してもらうことです。

今まで公共施設というのは、公務員の方や外郭団体しか運営できませんでした。それをいわゆる民間に運営してもらうことが、2003年からできるようになりました。いわゆる公設民営という考え方です。

なぜ指定管理者制度はできたの?

指定管理者制度を導入した理由を見ると、総務省ではこんなことが書かれています

住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設である公の施設について、民間事業者等が有するノウハウを活用することにより、住民サービスの質の向上を図っていくことで、施設の設置の目的を効果的に達成するため

ざっくりいうと、公務員だとノウハウがないから民間のノウハウを使ってより良くしたいよと綺麗なことが書いてあります。

もちろんこれは建前なので、本音としては、当時、新自由主義(ネオリベラル)と呼ばれる個人の自由と市場原理を重視し、適切な市場で個人が競争をすると社会は全体として良くなるのだから、政府のやることを減らそうといった考えが、台頭していました。(現在でも強い考え方ですが)

民間に競わせることで、安くより良いサービスにして行政をスリムにしようと考えたわけです。

さらに、当時バブルが弾けた後の低成長期でした、多くの人の収入が下がってくると、公務員に注目が集まるのは人間の良くないところです。
「仕事中に寝ている」
「窓口の対応が悪い」
といった声はいつの時代もあることでしょうが、その時は強く取り出され、国民の支持もある程度あったため、法律は制定されました。

指定管理者制度の光

よく言われるメリットは3つあります。

1、今までよりも安く運営できるため、地方公共団体の負担が減少。
2、民間努力による時間延長などのサービス向上。
3、NPO法人のような民間非営利組織の強化です。

1は地方公共団体から見ると大きなメリットです。これが問題でもあるのですが、安く運営出来ないのであれば、行政たちからわざわざ指定管理にする必要はないと考えるので、必須の条件だとも言えます。

2は利用者側からみたメリットです。公務員ですと、時間の縛りが強かったものが、指定管理になったことで柔軟になり、利用時間の延長や今までとは違った専門性をもつ人材が入ることによって、サービスが良くなるということもあります。

3は指定管理者になることで大きなメリットを受けた、NPO法人の視点です。
日本のNPO法人はボランティア団体出身のところが多く、財政的な基盤が弱かったのですが、安定した指定管理費を得ることによって、法人として安定した活動をできるようになった団体もあります。

もちろん、民間企業にもメリットがあり参入してくることもありますが、(特に体育館のような運動施設)元々非営利で運営していた施設を営利団体が運営するのは難しいようです。(TSUTAYA図書館は完全に失敗しました)
要するに、安くより良いサービスをというのが目的のようです。

指定管理者制度の闇

指定管理者制度にも当然たくさんの弱点があります。そもそも公的にやっていたことの最大のメリットは公共性という、みんなにとって必要なものを長期にわたって安定的に供給することです。

この図は内閣府からとってきたものですが、指定管理者制度は下から3番目の公設民営に当たります。
ここに書いてあるように、費用は抑制されますが、公共性の担保は十分ではありません。

特にデメリットとして大きいのはこのような考えを行政が持っていた場合です。

行政が建物は維持したいがお金はケチりたいという思考が強い場合です

この場合、サービスの向上といったメリットの部分を忘れ、費用の抑制にだけ目が向いてしまいます。

その結果、評価方法が費用の抑制に偏ることになってしまい、低賃金労働者を生み出したり、専門性のない質の低いサービスを生み出すことになります。
確かに費用は安くなりますが、よくわからない団体が、質の低い行政サービスを行うというのは公共性を担保するという本来の意味でも、利用者にとっても、専門性をもった団体の活躍という意味でもメリットがありません。

指定管理者の倒産というリスク

当然ですが、民間というと倒産のリスクもあります。

上越市(新潟県)の光ヶ原高原観光総合施設(光ヶ原高原牧場、光ヶ原わさび田、光ヶ原
みずばしょうの森)の指定管理者「新井リゾートマネジメント(株)」は、本業であるスキー 場やホテルなどが豪雪(2005~06 年)の影響などで業績不振となり倒産、わずか3ヶ月で指定を取り消す事態となった。
牧場の動物、遊具は全て指定管理者側の所有物だったため、呼び物の動物は姿を消し、遊具は「使用禁止」の札が貼られ、動物のいない無料の公園となった。市に残されたのは、食堂の建物、いす、テーブルだけとなり、休業しているため、単なる「休憩所」となっている。
【出典】平成19年度 指定管理者事例研究会 指定管理者の評価と再指定に向けた取組報告書 https://www.furusato-zaidan.or.jp/wp-content/uploads/2017/07/H19_designated-administrator-report-of-research.pdf

これは牧場なので、明日からなくなりますと言われても、大きな被害はないが、保育園が明日から閉園しますと突然言われたらどうだろうか?
結局倒産した場合、もう一度行政でやることになれば、高くつくことは間違いないでしょう。

当然利用者にとっても大きなデメリットになります。
こうしたリスクは抱えており、行政が楽になりたいからととりあえず指定管理を利用しようとするのは、かえって良い結果にならないでしょう。

指定管理者制度の今後

指定管理者制度の光と闇を見てくると、失敗するのはコストにだけ目を向けた時でしょう。行政がコストの削減だけ目を向けるといい加減な指定管理者を制定して、たいして、何をしているかのやりとりもせず、評価も費用面だけになり、結果全員が損をするという悪循環になりそうです。

例えば、名古屋市の緑児童館ではNPO法人と社会福祉協議会(外郭団体)のコンソーシアムで指定管理を受けている。NPOのノウハウと公共の安定性をうまく足したシステムだといえるでしょう。

あなたの各自治体をよく見ていないと気づいたら、公共施設がいい加減な指定管理者になり潰れていたなんてこともあるかもしれません。

もちろん良い使い方をすれば、可能性のある制度だとも思います。

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