見出し画像

昔飼っていた犬のクロに想うこと


トントントン…寝ていると早朝母親が階段を登ってくる音が聞こえてきた。

その音でクロはもうこの世界にはいないんだなぁとわかった。

なぜ今こんな想いが甦ってきたのか、こんなに胸をしめつけられるのか…。

子供の頃初めて飼った犬

実際はその前に初めて迎えた子犬がいた。

近所でたくさん生まれた雑種の子犬

その中で一番小さい白い子犬をもらってきた。

あとから思えば小さいにはその理由があったのかもしれない。

長くは生きられなかった。

それから一年くらいたった頃

近くで雑種の子犬が生まれたと聞いて見にいった。

子犬は6匹いた。

もうそのうちの何匹かは貰い手がついているという

家に帰って夜仕事から帰ってきた父に

飼ってもいいという許可をもらって

次の日に子犬をもらいに行った。

6匹いた中で貰い手のついていない子は3匹、その中から

白と茶色のまだらもようの子犬をもらってかえった。

帰ったら猫嫌いの母が

背中が猫っぽいから他の子に変えてもらえないだろうか

と、言い出した。

変えてもらいに行ったらもう

残っていたのは真っ黒くて目の上に茶色のまあるい眉みたいのがある

ワンコだけが残されていた。

今度はその子を連れて帰ることにした。

名前は真っ黒いから「クロ」

それがクロとの出会いだった。

その当時はほとんどの家で犬は外飼いだった。

うちも父が日曜大工で(DIYなんて言葉はまだない)

クロの犬小屋を作ってくれた。

冬の寒い日も夏の暑い日もクロはその犬小屋で過ごした。

夏の暑い時に犬小屋の下を掘って、掘って

犬小屋が傾いたこともあった。

土を掘ってその中に体をうずめるときっと冷んやりして気持ちよかったにちがいない。

鼻先にたくさんの土をつけて満足げな顔で寝ていた。

その当時は今ほど夏の暑さは厳しくなかったとはいえ

冬は今以上に寒かったはず

毛布を数枚犬小屋にいれたくらいでは

きっと寒かっただろう。

クロは雪が降るほど寒い日、台風や大雨の日は玄関に入れてもらえたが

それ以外は犬小屋で過ごした。

たまに家から出てくる家族を見つけると

尻尾をちぎれるほど振って鎖をジャラジャラ鳴らして駆け寄って来た。

子供だった私は暇さえあれば犬小屋へ行ったりいっしょに散歩したり

友だちと遊んで帰ってくると夕飯までクロと過ごした。

クロは文字通り真っ黒でしかもイカつい顔をしていたので

その見た目だけで番犬の任務の9割は果たしていたかもしれない。

ただその怖そうな風貌に似合わずものすごい怖がりでもあった。

雷もコワイ、花火もコワイ

そのたびに犬小屋の近くの部屋の縁側から家に入ってこようとした。

そんな時は恐怖でブルブル震えるクロを抱きしめて怖い時間が

過ぎるまでいっしょにすごした。

クロはその怖がりのせいかよく吠えた。

怖い顔で吠えるので用のないセールスの人が庭に入ってくることもなかった。

外にいるクロの楽しみは散歩の他一日二回のご飯。

でもその頃の犬の餌ときたら

よそでもだいたい同じだったけど、ドッグフードより

ご飯や食パンを食べてる犬も多かった。

犬に関しての知識も知識を仕入れる方法も乏しかったとはいえ

今思えば本当に申し訳ないことをしたと思う。

うちでもクロの食事といえば、ドッグフードはたまに

あとは、残りのご飯に、父が大の魚好きだったため

毎日食卓に登る魚料理の魚の骨や皮を混ぜて

上からみそ汁をかけた物。

今考えたら恐ろしい。

みそ汁なんて、犬にとっては大変な塩分量と、みそ汁の具には

ネギや玉ねぎのかけらも入っていたかもしれない。

外飼いとこんな食生活でそれほど長生きできなかったのも

当然かもしれない。

クロの晩年も医者通いが多かった。

手術もした。

手術でおしりの周りの毛を全部そられてツルツルのお尻で

それでも大好きなお散歩を嬉しそうに楽しんだ。

手術をしてもオシッコがあまり出せない症状が続いていた。

元気に見えるクロも医者にはもうそれほど長くは…。

と言われた。

玄関に毛布を何枚も敷いて体が冷えないようにして毎晩そばにいたけど

夜遅くになると、もう寝なさいと言われて

部屋に戻りベッドに入るのだが

なかなか寝れずに祈り続けた。

きっとクロは心細かっただろうし

私にそばにいてほしかっただろう。

怒られてもずっとそばについていてあげるべきだった。

いまもその後悔はぬぐえない。

クロはうちに来て幸せだった?

聞く機会があってもきっとこわくて聞けないだろう。

クロのあとに迎えた次の子もいまのワンコも

暑くも寒くもない家の中にいて私と同じ時を過ごしている。

犬に関する知識も積極的に取り入れた。

それだけにクロには無知で至らなかったことを

自分自身悔やまれる。

もっとやってあげられたことはあったはず。

ゴメンナサイ。

クロ。あなたはもう生まれ変わってどこかで大事にされてますか?

もし、私のそばに来ていてたのに気がついていなかったら

ゴメンナサイ。

それとも虹の橋のたもとで私のことを今も待っていてくれてるのですか?


トントントン・・・・・・・・・・・・。

母が階段を登り終えて私の部屋のドアを開けた。

「クロが死んじゃったよ」












この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?