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マ リ コ

10年以上前、愛知県に住んでいた頃の話

働いていた工場の夜勤では終業間際になると、廃品を工場裏の倉庫に捨てに行く事になっており
妙なルールで、捨てに行く時は必ず2名というルールがあった
外がまだ暗くて倉庫まで距離があるからなのだろうと思っていたが、
周りの噂を聞くと何やら違うらしく、皆怖いから2人で行っている様だった

ある日、いつものように廃品を裏の倉庫に捨てに行った時
先輩と2人で倉庫に着くと
「ここの話知ってる?」
ボソッと先輩が話し出した
先輩は上をキョロキョロと見回しながら
「この倉庫なぁ、怖い噂があるんだよ」
「女の霊が出るっていう...」

自分は幽霊など見た事が無いので笑い飛ばしていたが、
その倉庫の去り際、自分のすぐ右後ろの方から
「フフフッ」
女の笑い声が聞こえた気がしたが、怖すぎて振り返る事も出来ず
無言でしばらく歩いた
倉庫から離れた所で先輩が急に
「さっきの聞こえた?」
話を聞くと、先輩も女の笑い声を聞いていたらしい
聞こえた方向が先輩だけ天井付近からだったのが気になったが
先輩は顔を引きつらせながら
「あの話本当だったんだ...」
「この倉庫で昔、女性が首を吊って自殺したという話があるんだよ、
 それ以降廃品を捨てる時に女の声が上からするんだと」

倉庫の屋根が風かなんかで音をたてただけだろうと、
自分に言い聞かせてその日は終わった

何事も無く数週間が経ち、家で長電話をしていた時
通話しながらメモ帳に無意識に落書きをしていた
電話が終わりそのメモ帳に目を向けると、
おかっぱ頭で目がつりあがった
黒いワンピースを着た背の高い女を描いており
その人物の下にはカタカタで
「 マ リ コ 」と名前も無意識に書いていた
不気味に思った自分はすぐに捨てた

更にそこから数週間が経ったある日

夜中、急に目が覚める。
無性に何か甘いモノが食べたくなった
何故かその日は我慢出来なくて、近くのコンビニへ出掛けた
まだ日が昇る前で外は真っ暗に冷え切っている
道中、今まで感じた事が無いぐらいに物悲しい感情が湧き出て来たのを覚えている
あの感覚は未だにそれ以来無い
買い物が終わり、コンビニから出て
帰ろうとした時だった

「ドンッ」

急に自分の背中に衝撃が走った
そして次に

「ボキボキボキッ...!!!」

背中から異様な音が聞こえる
気付くと、バックしてきたワンボックスカーが自分に接触していた
幸いにも運転手が気付いてすぐにブレーキを踏んでくれたので
車の下敷きにならずに済んだが
少し間を置いて背中に激痛が走る
そのまま車が走り去ろうとしたので何とか呼び止めて
警察と救急車を呼び、現場検証が始まった
運転手は中年の女性で、気が動転しているのか目が虚ろになっている
不気味にボーっとどこか一点を見つめたまま動かない
後日、警察から渡された相手の資料を見て自分は凍り付いてしまった

運転手名の欄に
「 万 里 子 」
フリガナで「 マ リ コ 」と書かれていた

自分が長電話しながら、無意識に描いた不気味な女の名前だ
ケガを治し職場に復帰すると、先輩が真っ先にお払いに行くぞと言ってきた
何回か断っても必死に誘って来るので、愛知から京都まで車を走らせて連れて行って貰う事に
帰り際、先輩が無言で自分に何かを渡した
それは健康守と書かれた真っ白な御守りだった

不思議とそれ以降、ケガをした事が無い
普通、御守りは一年毎に寺で焼却して貰うが
自分は未だに持ち歩いている
なんだかそれを手放してしまうと
あの女の霊がまた、自分の近くに来る様な気がして

今になって気付いた事がある
あの倉庫で聞いた女の声
先輩は天井から聞こえて、
自分は真後ろから聞こえた

もうあの時から女の霊は
自分の傍に居たのかも知れない

自殺した女性の名が「 マ リ コ 」なのか
どうして女の霊が自分に憑いて来たのかは未だに謎のままだ。

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