呪箱を置く人

2:厄災を招く本

 複製や持ち出し、触れる事すらも禁止された本がある。【レ•イーノの遺言書】【さとふ異本】【パッズ典礼書】世界にはこの三冊がそれに当たる

三冊の本は一箇所に集まる事が無い様に、それぞれの権力を持つ場所へ保管されていた。【レ•イーノの遺言書】は上院議会が、【さとふ異本】は騎士団、【パッズ典礼書】は大司教が保持する規定があった

それら三冊の中には厄災を導く呪いがかけられているとされ、保管者も開く事を強く禁じられていた。各本の特徴を説明すると

【パッズ典礼書】は革表紙を覆い尽くす様に斑らに黒黴が生えており、所々に見え隠れする白蛇の鱗は、経年変化による皹や灰黄色への変色で不気味さを一層際立たせている。表紙に蛇の牙で装飾された留具が付けられた本の内容は、邪神を現代に蘇らせる儀式方法が記されている

【さとふ異本】の外装は布表紙だけではなく天染めも赤黒く染められており、その色は歴代所有者の血液により染まっていったとされている。表紙に取り付けられた錆び付いた金属製の留め具と、謎の引っかき傷が目立つ本の内容は、未だ一切明かされていない

【レ•イーノの遺言書】は著者の人皮で装丁されており、その生々しさは目を凝らすと毛穴が見える程。人皮からは不吉な予兆を知らせる様に汗が滲み出る事があり、その汗がウィルスによる感染症を引き起こす。嘗て大規模の感染者による大量殺戮を招いた歴史があるが、この本を処分しようとすると不慮の事故などが起きる事から、保管され続けている。本文には感染症を予知する記述もある “我の遺志は生ける細胞に侵入し、一部を組み込み増殖する。遺志に寄生された細胞はやがて死滅するが、破壊された細胞から新たな遺志が放出され、他の細胞へと螺旋状に増殖を繰り返すのだ” 本はこういった内容の著者イーノの遺言が記されており、王族である事の恨み辛みも記述されている

それら呪われた三冊の中のひとつ、レ•イーノの遺言書が上院議会から消えた


つづく–––

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