宝箱を置く人8

8:鍛冶屋の馬鹿力

なぁ〜つぅの〜お〜わ〜りぃ〜〜♪なぁ〜つぅの〜お〜わ〜りぃ〜〜には♪ただあぁなぁたぁにぃあぁいぃたぁくぅなぁ〜〜るぅの♪いつかとおなぁ〜じぃ〜風ふぅ〜きぬぅけぇ〜るぅかぁ〜らぁ〜〜♪

すっかり夏も終わりを迎えてしまいまして。え?何の唄?あぁ、気にしないで下さい、直太朗の夏の終わりを歌っただけで特に意味は無いですから。物語的にも全く関係ないんで

いやぁしっかし本当に風吹き抜けていきましたよ、風は風でも風邪の方。死ぬかと思いました、39℃ぐらい出て全然下がらないんですもの。一週間近く苦しみ悶えて、何とか生き返った次第でございます。夏風邪は特に危険とされている中、いやぁ本当よく乗り越えたと思いますね

病院行きましたらば、喉に綿棒を当てられてウイルス検査されたんですけどね。医者が何回も床に落としたので、その度に再検査でこっちは何回もオエオエ言いながら喉に綿棒当てられて大変でしたよ。日曜日だからちゃんとした医者がいなかったからなのでしょうか「検査結果はまた後日、時間がある時に聞きに来てください」なんて言われて、こっちはくじ引いてる訳じゃないんでね、行く訳ないでしょう。時間持て余した老後ならともかく、こっちは明日も会社ですからね。薬も薬でまた問題ありまして、熱が出て喉が痛いと言ってるのに出された薬が、発熱と鼻水を抑える薬なんですもん本当参りましたよ。余計に寝込んでしまって、難儀な話ですね本当

そんな小噺は置いといて、宝箱を置く人の物語を続けさせてもらいましょうか…


世の中には科学で説明出来ない事が、意外に沢山あるんじゃないですかねぇ。というのもね、この話は私が実際に聞いた話なんですけどねぇ

タケやん一同、うっかり寺院からタクシーに乗り、離れ街の鍛冶屋を目指していた。街の名前は、そうだな仮に淳ちゃんシティーとしましょうか。そこへ着く前にタケやんの働き場所が隣町にあるというので、一同寄った。まぁそこのおやっさんが物凄い剣幕で怒る怒る。終いには心配かけやがってと泣き出して、もう喜怒哀楽が激しいったらありゃしない。おまけに頭に卵の殻を被って全裸なんだ、私はてっきり×××なのかと思いましたよ。タケやんがおやっさんに、また暫く店を休みたいと相談するとおやっさんは再び激怒した。理由を話そうにも信じられない出来事が続いているので、結局最後までおやっさんの許しは貰えなかったらしい。何せ一度死んでますからね、しかも銀の盾を部屋に持ち帰っちゃってるし、それで世界を巻き込む大戦争を招いてしまっているし、生き返ってしまったし。そら信じてもらえないのも無理はない。タケやんはその働き場所を辞める形となったんですが、荷物などはまた後日片付けるという話になった。店を出る時、おやっさんは真面目な顔で吸っちゃいけねぇ煙草を吹かしこう言った『この国も今じゃクラゲになっちまった。タケ、良いか?やるなら今しかねぇぞ、やるなら今しかねぇ』西新宿…いや、おやっさんに別れを告げ、再び離れ街の鍛冶屋を目指し一同はシータクで向かった

ブーン、ブーーン、ブーンブーン、ブブー、キキーッ!……ブーン、ブーーーン、ブーン、ブブーン、ブーンブーンブブーン、キキーッ!……ブーンブーン、ブーーーーーン、ブーン……


タクシーに運ばれ辿り着くと、結構これが良い時間になっちゃった。すっかり日は暮れて街には街灯がチッカチッカ灯っている。車から降りるとすぐ横を救急車がファンカファンカ鳴らしながら走って行った。『おい不吉だなおい、着いてすぐに救急車がお出迎えかい。嫌だなぁおい、頼むぞおい』タケやん達がそう言いながら、新香に描いてもらった地図を頼りに街の奥へと進んで行く。歩きながらタケやん気づいたんだ、どうやらこの街に来た事がある、大柄な用心棒と一緒に洞窟に行った時にね。あぁ懐かしいなーもう随分前の様な気がするなぁ、なんて思いながら進んでいって、鍛冶屋に着いた

『御免下さ〜い』

鍛冶屋に着いて入り口に向かってタケやん一同が呼ぶが、返事一つ返ってこない。そもそも建物の中に明かりが点いてないんだ。もう今日は日も暮れたし、職人さん帰ってしまったのかなと思っていた。一同が諦めてその場を去ろうとすると後ろから、ギッ…ギッ…

扉が開く音が聞こえたんで後ろを振り向くと、真っ暗な玄関から女がこっちを覗いている。一瞬気味が悪くてゾッとしたんですがね、そっと近ずいて行って訪ねた

『あの〜鍛治職人の楽大さんは居らっしゃいますか?』

三十路ぐらいの女が黙ったままこちらを見ている。ピクリとも動かないんだ、なんだか不気味な人だなぁと思っていると突然、口を開いて乾いた声でこう言った

『…旦那は……ここには…おりません……帰って来ないんです…洞窟に…行ったきり……お願いします…探しに…行って下さい……お願い…します…』

話を聞きますとね、なんでも近くの洞窟に素材となる石を採りに行ったきり帰って来ないみたいなんだ。一同、主人が居ないんじゃどうしようもないという事で仕方なく洞窟へ向かった。もうすっかり日も落ちて暗くなっているんで、その洞窟の入り口が不気味なんですよ。当たり前なんですが、その入り口だけ異様に暗い。引き返そうかと誰かが言った矢先に空から、ポツ…ポツ…ポツポツ…雨が降ってきた。まるで洞窟の中へ誘い込む様に、小雨からやがてザーーーーーーーーーーーーーーーッと土砂降りになった


逃げ込む様に洞窟の中へ入っていくと、再びタケやんが気づいた『この洞窟、あの時の洞窟だ…』なんでも大男の用心棒を雇って、宝箱をこの洞窟に置きに来た事があるらしいんだな。その時はまだ初夏の頃で、日中という事もありそこまで気味悪くなかった。まぁでも言っても洞窟ですから、ジメジメっとはしていた様なんですが、昼と夜でこんなに洞窟の中の雰囲気も変わるもんなんだな、とタケやん思った

『楽大さーん、いますかー!?楽大さーん!』

一同呼びながら奥へ奥へ進んで行く、聞こえるのは自分たちの木霊する声ばかりで一向に返事がない。更に進んでいくと奥の岩陰に黒い物体が見えたんで、恐る恐る近付くと一同ギョッとした。その黒い物体というのは、パンツ一丁で倒れている男だったんですよ。なんでこんな所にこんな格好で人が倒れているんだろうと、不思議に思ったがとりあえず意識はあるのか確かめると男が意識朦朧で『うっ…うぅっ…』再び一同ギョッとした。体に、ちょうど背中のど真ん中ですかね、ザックリと爪で切り裂かれた様な傷口があるんだ。しかし不思議な事に血が殆ど出ていない、それもその筈ですよ手には鮮やかな青色の薬草を握っていた。その薬草というのは食べると再生能力が一瞬にして強くなって、どんな傷も治癒してしまうんですよ。どうやらそれを使って一命を取り留めたみたいなんだ。近くにはキャニスターが転がっている。男の顔を見てタケやんはハッとした、なんでもその男は一緒にここへ宝箱を置きに来た大男の用心棒らしい。運命というのは不思議なもんで、タケやんと共にそれを置きに来た人物が、その薬草でもって死なずに済んだ。本当に不思議なもんですね、どこで何が役に立つのか分からないもんですよ

更に驚いたのが、なんでもその男こそが探し求めていた鍛冶屋の楽大だったんだ。しばらくすると楽大がゆっくりと起き上がった

『うっ、痛てて…しっかし驚いたなぁ、まさかあんたの薬草で助かるとはなぁ。そして今目の前にあんたがいるのにも驚いたよ、どうして俺がここにいるって分かったんだ?』

タケやん達が鍛冶屋にいた楽大の嫁らしき女の事を話すと、楽大は険しい顔で答えた

『冗談はやめろよ、鍛冶屋に人が居る訳ないだろ。職人は俺しかいないし、嫁の筈もない。大体その女はどんな格好をしていた?』

その女の容姿を思い出せる限り事細かく教えると、楽大は急に崩れ落ちるように四つん這いになった。ちいちゃく小刻みに震えているので、容態が悪くなったのかと一同、駆け寄った。ポタッポタッっと顔から水滴が落ちているので、血が流れているのかと覗き込むとそうじゃない。どういう訳か涙を流していた

話を聞きますとね、どうやら楽大の嫁さんは数年前に病気で亡くなっている様なんだな。だからその鍛冶屋に居たのは嫁の筈が無いんですが、タケやん達が話す女の容姿を聞くとね、どう考えてもその楽大の嫁さんだと言うんですよ。でもあり得ない、嫁さんはもうこの世には存在しませんからね、嫁さんの訳が無い。少しの沈黙の後、楽大は嗚咽しながら語り出した

そもそもこの洞窟に来た理由は、素材を探しに来た訳じゃないらしい。楽大は昔から酒飲みでしてね、鍛冶屋も繁盛しないもんだから一層酒ばかり飲んでは嫁に世話を焼かせてたみたいなんですよ。鍛冶屋だけじゃ食いつなげないもんだから用心棒もやっていた。そして数年前に嫁が他界して、楽大はいよいよ自ら命を絶とうとしていたみたいなんだな。つまり自殺する為に洞窟に入っていった訳だ。酒も入っていたんで、どういう訳かこの洞窟に眠る幻の鉱石の事を思い出し、どうせ死ぬ命だからってな具合にその鉱石があるという洞窟の奥へと進んでいった。幻の鉱石と呼ばれるのには理由がありましてね、なんでもその鉱石を手に入れるにはある魔物を呼び起こさないといけないらしい。そしてその魔物から鉱石を奪って初めて手に入るという訳なんだな

奥には棺がありまして、そこを開けると中から巨大な魔物が目を覚まして襲ってくるという有名な怪談話があったみたいなんです。止せば良いものを楽大はそれを開けてしまった

中から本当に巨大な魔物が飛び出て来たんで、楽大は驚いて逃げ出した。タッタッタッタッ!ハァ、ハァ、ハァ、ハァッ…タッタッタッタッ!逃げ切れずに背中に深手を負ってしまい、気がつくと薬草を握って倒れていた。自分でもどうやってここまで逃げてきたのか思い出せない、宝箱を開けた記憶もないし、薬草を食べた記憶もないんだ。でもどういう訳か一命は取り留める事が出来た

きっとあの世で心配していた嫁が助けてくれたんじゃないかと、泣きながら楽大が言うんですよ。それを聞いた梅子婆さんが急に血相を変えて怒鳴りだした

『あんたねぇ、あの世でも嫁に心配かけるつもりかい?何考えてんのあんた、それじゃあ嫁さんが可哀想じゃないか。あたし達が鍛冶屋で会った嫁さんの霊もきっと、あんたが心配で心配で出てきたんじゃないのかい。あんた良い加減にしないとダメだよ、もう安心させてあげなさいよ』

洞窟内に嗚咽する声が木霊して、何とも言えない現場だったみたいですよ…


場所は変わって、世界中の魔女達が集まる会場でちさとと母親が口論していた。何でも近頃あちこちで庶民による魔女狩りというものが起きているらしく、大変悲惨な殺され方をしている様なんだ。魔女側は魔導士と白人と対立している最中ですから、本当はそれどころじゃないんだけれども、放っておく訳にもいかなかった

『だからぁ!一般人に手を出したら王室側の思う壺だって言ってんじゃないのッ!魔女狩りが起こっているのも、あの白人共の策略に決まってんでしょッ!復讐なんてしたらアタシ達が益々孤立する事になるんだよ?どうしてママはそんな事も考えられないのッ!?』

『…でもママの立場も考えてちょうだい。世界中の魔女の権限を守らなければいけないの、トップとしてこの悲惨な現実から目を逸らす訳にはいかないのよ。ね?ちさと、お願いだから分かって』

『これ以上ママが話を聞いてくれないならアタシこんな団体なんか抜けてやるからッ!もういいッ!じゃあね、バイバイッ!』

ちさとは怒って飛び出して行ってしまった。どんよりとした曇り空の下、世界は混沌としていた。対立が対立を生み、誰にも止めることが出来ない負の歯車がゆっくりと回りだしているような、不穏な空気が流れていた


話はタケやん達に戻りまして、その幻の鉱石というのはヱビス鉱石といって、ヱビス鉱石は溶かして再び固めると、世界一の強度を誇る石になる様でしてね。ただ、固めただけでは駄目で表面の層を割る必要があるみたいなんだ、中の鉱物が空気に触れて初めて世界一の強度を誇る石になると。まるで生ものの様にその期間は短く、たった数時間で再び普通の石の様に脆くなってしまう。空気に触れてから3、4時間で強度が最高に達し、数時間後には再び3、4時間をかけて普通の石に戻っていく。その為、表面の層を割るタイミング次第で最強の鎧にも最弱の鎧にもなるという不思議な鉱物みたいなんだ

楽大は長年その鉱石で作る鎧や武器を求めていたんですな。その話を知っているもんで、新香は何かの役に立つんじゃないかと、住職の息子の楽大の場所を教えた訳だ。縁というのは不思議なもんで、タケやんと楽大を再び巡り会わせた

あーだこーだタケやん達が楽大と話していると、洞窟の奥から岩が崩れ落ちる音が聞こえてきた。その時に一同はこう思った、あぁこの音は生きてる人間じゃないな、とね。恐る恐る振り返ると案の定、楽大が襲われた巨大な魔物がそこに居た。そして一同揃ってこう叫んだ

『 生 き て る 人 間 じ ゃ な い ッ ! ジ ャ ン ボ ス カ ル ・ ボ ボ ン ガ じ ゃ ん ! 』

泣く子も黙るジャンボスカル・ボボンガが現れたんだ。これはたまったもんじゃないと、タケやん達は逃げ出そうとしましたが、梅子婆さんが対峙したまま動かない。梅子婆さんが言うには、ここでこのジャンボスカル・モモンガを倒してヱビス鉱石を持って帰ることが、楽大の嫁さんの供養になるんじゃないのかと言うんですよ。そりゃあ無茶ですよ、ジャンボスカル・キョンシーは並大抵の人間では勝ち目が無いんだ。なんせあの巨体ですからね、全長10m以上はあるんですから、無理に決まってる。だけど梅子婆さんは立ち向かって行ってしまった

ジャンボスカル・ギョウザがその巨大な手を振り下ろすと地面に衝撃が走った、その振動でもって天井から岩がゴロンゴロン転がって落ちてくる。衝撃で倒れたタケやん達が目を開けると、そこには梅子婆さんの姿は無かった。だ〜れも居ない。だ〜〜れも居ないんだ

どこへ行ったんだと思った瞬間、空高く飛び上がった梅子婆さんの姿が目に入った。なんとかわしていたんですよ、ジャンボスカル・ギョウザの攻撃をかわして空高くジャンプしてるんだ、そしてそのままジャンボギョウザの顔面めがけて回転蹴りを食らわせた!物凄い打撃音と共にジャンボ鶴田が遂に倒れる

ジャンボ尾崎は煙になって消えて行ってしまった。タケやん達は唖然ですよ、そりゃあそうですよね、老婆が倒してしまったんですから。あの泣く子も黙る魔物の年末ジャンボをやっつけて、幻のヱビス鉱石を大量に入手してしまったんですから


まだ小雨が降っていましたが、夜も明けないままタケやん一同は駆け足で鍛冶屋へと戻って来た。そしてやはり鍛冶屋にはだ〜れも居なかった、だ〜れも居ないんだ、もちろん鍵もかかってる。タケやん達が会話したというあの女性は一体何だったんでしょうね、やはり残された旦那の事を想って、あの世から助けに来たんでしょうか。世の中には不思議な事がありますよ

楽大はそのまま一心不乱で朝方までヱビス鉱石で装備品を作った、楽大は武器も作ろうかとタケやんに聞いたが、タケやんは頑なに鎧だけで良いと言ってきかなかった。鎧を造っている間も楽大はパンツ一丁だったのには一同驚いたらしい。どうやらパンツ一丁だったのは酔っ払ってるからじゃなくて、お決まりの作業中の格好だったようです。これじゃないと作業に身が入らないとか

それと楽大からこんな話も聞いた様ですよ、なんでも海を渡った島で近々白人戦士達が儀式を行うとか。その儀式とは、勇者と呼ばれる白人戦士に銀の盾と金の剣を正式に渡す為の儀式とかでね、その島にある塔で行われるみたいなんだ。黒人戦士達がそれを止める為に大きな紛争がその地で起きるんじゃないかと懸念されている様なんです。だからタケやん達も鎧が出来次第その島へ向かう事になったという訳だ

うっつらーうっつらーとしてきたんで、疲れを癒す為にタケやん一同はゆっくりと鍛冶屋で一夜を明かす事となったそうな

カチンッコチンッカチンッコチンッ静寂に包まれた鍛冶屋には、鉱石を打つ音だけが夜通し鳴り響いていた…

【次回予告】

稲川一同を呪われし島の怨霊達が待ち構える。稲川は生き残って帰って来れるのか、それとも… 誘なわれるままに怪奇現象と断末魔が蔓延る禁断の地へ稲川達は向かうのであった… 次回の、稲川淳二の禁断巡礼〜悪霊退散!読書と食欲と祟られし秋〜 第9夜に乞うご期待


タケやんはヱビスの鎧を手に入れた。

つ づ く …

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