呪箱を置く人

1:唐紅

 『うん、うん、ジュバコ?……知らない、初めて聞いた。……あー!呪い箱の話ね、それは知ってるよ。それがどうしたの?……うん、うん……え、だから昔話でさぁ山奥だか森の中だか洞窟内だか忘れたけど、鉱物かなんかの採集家がそこで宝箱を見つけて……え?…そうそう、中には宝と次の宝箱の在りかが記してあってぇ、辿るにつれて富が増大していった採集家は強欲な人に豹変してさぁ、最後に見付けたのが……うん、うん…』


活気ある表通りに面した喫茶店の中、壁沿いに設置された豪華な木製のカウンターが見える、それと対照的である無機質な鉄製の座り心地の悪い椅子。店内の装飾や食器は贅を極めているのに、まるでその椅子は“代金をお支払いされたお客様は早めの退店をお願い致します”と催促している様だ。椅子には一人の女性が腰掛けていた

『うん、うん…続き?…続きって何、その後の話があるって事?……えー!知らない知らない、あたしが聞いたのはそこまでだし…うん、うんうん……』

喫茶店の窓の外から荒々しい声が近付いてくる、若者達による格差を訴えるデモ隊とそれを治めようとする治安部隊の声。女性は窓の外を眺めた

『…あーまたやってるよ……ん?…あれだよあれ、外でデモ隊と治安部隊の衝突……まぁね……で、何の話してたっけか…あぁ、はいはい……フッ、てかアーヤってそっち系の話好きだよね。…え?…いや、だってこないだの電話もさぁ……は?何が?……フランクリンとはどうだって…茶化してんのかテメー…』

突然、鈍い音が外から鳴った。窓ガラスには血まみれの青年が張り付き、店内に悲鳴が響き渡る



やれ……それがお前の使命だ…)

(革命を起こせ……弱者を救う英雄になるんだ…)

(その革命で流れた血は、長い歴史から見れば一瞬の出来事だ…)

(やれ……それがお前の使命だ…)

(やれ…!やれ…!やれ…!やれよ…!早く…!)


フランクリンは魘されている自分の声で目覚めた。全身から汗が吹き出ている、シーツがぐっしょりと色を変えた。数ヶ月前から続いている悪夢は同じ内容であり、呪詛から逃れる様にベッドから抜け出した


つづく–––

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