ヨハネスブルグが意外といいところで長いしちゃった人たちの話
南アフリカ、その中でもとりわけヨハネスブルグについてみなさんどんなイメージを持っているだろうか?
日本語でググってみると、なんとも悪名高い場所であることがよくわかると思う。
ただ、本当にそんなに悪いところなんだろうか?
今年に入って、ヨハネスブルグに取材なりビジネス機会の探索なりで大ずれた人たちが、揃って「思ったよりもずっと良いところ」ということで、滞在延長しているのだ。
最近日本からきた大学生インターンも「ヨハネスブルグ(南アフリカ)の滞在楽しいです!なんでこんなに悪い噂があるのか、ギャップに驚いた」と言っていた。
ということが続いたので、私なりの所感を書いてみる。
ヨハネスブルグに来て、思ったよりもよくて滞在延長しちゃった人たち
今年に入ってから、ヨハネスブルグを訪問するからと私に連絡をくれた方は結構いるのだが、多くの人は出張や休暇など限りのある時間の中だったので、パッとお会いするだけであることがほとんど。
ただ、中にはたとえば世界一周中の取材や会社を辞めてアフリカ大陸でビジネス機会を探しに、といったような目的でふらっと訪れる人たちも。
そうした人たちも、訪問する前は南アフリカやヨハネスブルグについて調べて、不安と心配、そして最大限の警戒をしながら来ることがほとんどだけど、その中でも人々と繋がり、この街のリアリティを知ろうとするオープンマインドを持っている人たちは
「あれ?」
と思う瞬間があるのだと思う。
一人は1ヶ月単位で延長し、もう一人も急ぐ旅の中数日滞在延長したと連絡をくれた。
中には、「ヨハネスブルグは怖い(と聞く)から」と訪問すらしない人も結構いたので(南アフリカ自体に来なかったり、ケープタウンだけに行ったり)、来てみてイメージが塗り替えられたという人の話には私も関心があった。
偏見や都市伝説の持つ影響は大きく、そのレンズから抜け出せないままでいる人もたくさんみて来たけれど、「実際はどうなんだろう?」と批判的に好奇心を持って時間を過ごす人の多くは、そのギャップを自分たちなりに解釈し、それをより深く知るために、もう少し長く滞在したくなるのかもしれない。
もちろん、火のないところに煙は立たないというほどで、実際に気をつけるべきところはたくさんあるのは事実。ただ、それはヨハネスブルグ特有のことなのか、という疑問を投げかけたい。
誤解が多い?ヨハネスブルグ
思うに、ヨハネスブルグという都市の規模は、一般的な先進国の都市よりもずっと大きい。600万人ほどの人が住んでいる巨大都市で、都市をまるっと見ようと思ったら数日かかる。端から端まで車で移動すると、1時間弱かかるくらいだ。
先月、ケープタウンに4年くらい住んでいる友人がヨハネスブルグに来て、都市の規模の違いに驚いていた。
どんな都市にも、それこそ欧米の都市でも、治安の良いエリアと歩かない方がいい危ないエリアがあるとおり、ここまで都市化が進めば、エリアによる濃淡はくっきりと浮かび上がる。
そしてここは南アフリカである。都市化だけの問題ではなく、アパルトヘイトという負の遺産を今も引きずっているこの場所では、都市開発、街の構造自体が当時の分断政策をもとに設計されているからまたたちが悪いのだ。
ただ、そうした社会歴史的背景をちゃんと理解することで、街の見え方も大きく変わってくるとも感じている。
またこの30年間で、治安の状況も再開発の状況も大きく変化しているのだ。
これは南アフリカやヨハネスブルグに限らず、アフリカや新興国に関する情報でよくあるのは、下手すると10年単位の周回遅れの情報が、あたかも今現在の状況のように語られること。
新興国のように変化が早い地域では、毎年開発が行われているので、ものすごいスピードで変化していることも抑える必要があると思う。
南アフリカを、世界の中の一つの国と見るか、アフリカの国と見るか?
ある国に対する印象は、経験者の主観を通して語られる。
私自身6年ほど南アフリカにいて、面白いなと思うのが、「南アフリカ」という国の印象が人によって全然違うところだ。
駐在でくる人の多くは「危ないけれど、物価が安いけれどクオリティの高いサービスが多く、自然も多くて暮らしやすい(特に子育てはめちゃくちゃしやすい)」みたいな声が多い。
留学などでローカルや低所得者層に近い生活をする人は、より”アフリカらしい(というのが適切かわからないけど)”側面を経験するので、フラストレーションも溜まりつつ、南アフリカの複雑な社会や多様性に向き合う機会が多いように見える。
旅行者は、バジェットによって経験が大きく異なる。学生に多い安宿でのバックパッカー旅をしている人は、ヨハネスブルグではメインではないエリアや低所得者層のエリアに滞在して、「ヨハネスブルグやばい」という印象を持つ人の話もよく聞いた。ただそれはケープタウンでも同じで、安宿が多いエリアに泊まって、観光客を狙ったスリや強盗の被害にあったという知人が何人もいる。
そこそこバジェットがあったり、土地勘がある人にアドバイスをもらって滞在した人は、自然も多く、人当たりもいい宿泊先で、「あれ、思ったよりもいいじゃん!」という感想になる人も多い。
かなーりざっくりカテゴライズしたけれど、これらは私が持っている偏見である。
ともかく、南アフリカにくる人は、南アフリカに対する感想を私にシェアしてくれることが多いのだが、物価感の感想が人によって真逆なことが結構ある。
あるひとは「南アフリカ、物価安い!」というし、別の人は「南アフリカ、めちゃくちゃ高い涙」というのだが、これはその人が他にどんな国への渡航経験があるかにもよる気がしている。
欧米圏への留学経験や駐在経験がある人は、口を揃えて「安い(のにサービスはなかなかいい)」という声。
アフリカの他の地域でメインの活動をしている人は「南アはめちゃくちゃ高い」という感想になる。
これはビジネスで南アフリカ人を雇うと言った時も同じで、グローバル市場で見た時には、南アフリカは先進国並みの人材もいるのにも関わらず比較的安価で人材を雇うことができる、と言われるし(私が関わった国連のプロジェクトも、クリエイティブ案件を南アフリカ東ケープ州の会社に委託していた)、新興国の安価な人材でアウトソーシングをやろうとしたり、アフリカの他の地域と比べると人材が高いエリア、とみられるのだ。
どっちがあっている、間違っている、というわけではなく、南アフリカをどういう国として評価するかによって、見方が大きく変わるようで面白い。
これも私の持論になるのだが、南アフリカが「危ない国」かどうかも、結構感覚値でもあり、どこと比較するかによっても変わってくるように思う。
ちなみに以下は最近見たVoxのビデオ。アメリカの体感治安と、実際のずれについて、統計を使って説明しているのだけど、南アフリカでの現状とのデジャブ感があった。
この動画では、体感と実際が違うこと自体が問題というより、この体感に合わせて効果のない治安犯罪対策がなされることを懸念していた。
ヨハネスブルグだけ、致命的に危ないの?
ちょっとヨハネスブルグから離れて、南アフリカ全体の話をしてしまったが、南アフリカの中でもなぜヨハネスブルグはとりわけ凶悪都市と言われることが多い。
ただ、本当のここだけがそんなに危険なのか?
先ほどのVoxの記事じゃないけど、統計的にはそんなにアウトスタンディングではないと思うのだ。
人口で見るとヨハネスブルグの方が多いが、殺人数はケープタウンの方が多いことを知ると驚く人は多いかもしれない。
ちなみに繰返しにはなるが、全人口はヨハネスブルグが多いことを鑑みると、一人当たりの殺人件数はそこまで特別高いわけではない。(なんならケープタウンだってものすごく高い)
これだけ大きな都市なので、場所によってかなり空気感が変わるので、ちゃんとした情報を得ることで、ユニークな経験ができる魅力的な場所だと思うのだ。
イメージだけが先行して、「とにもかくにも危ない!(思考停止)」と遠ざかるには少しもったいない気もしている。
(とはいえ、日本と比べるとどちらも物凄く多いので、どんぐりの背比べと言われたらそれまでである)
ヨハネスブルグの方が盛り上がっているのは、やっぱりカルチャー
最近のビジターの一人に、ケープタウン大学の学生がいたのだが、彼女の興味範囲は、南アフリカのダンスカルチャーやアート。特にアフリカ系の人々のアイデンティティに通じるようなカルチャーに惹かれているという。
そういう人にとっては、ヨハネスブルグは天国のような場所だ。
アマピアノなど、今欧米でも流行っている南アフリカ音楽や、若手クリエイターが手がけたブランドや、タウンシップ出身の若者からヒッピーなアフリカーナーのおじさままで、ファンキーなアーティストが集うギャラリーまで。ディープなカルチャーが好きな人は、絶対に楽しめるはず。
1日じゃ到底回れないアート・カルチャーシーンに感動している彼女を見て、私ももっと探索したい欲が湧いてきた。
(おまけ)ヨハネスブルグかケープタウンか論争
ヨハネスブルグかケープタウンか、みたい論争は、南アフリカではよく聞く。多くの日本人は、ケープタウン一択だと言う声をよく耳にするのだが、いろんな属性の人と話して感じたことを書き留めたい。
その人の立場や所得や価値観によって、見える世界が違うので、一つの統一した答えはないにしても、この記事の解答が私的にはしっくりきているので紹介する。
(英語のままでも、翻訳でも気になるマニアックな人は読んでみて)
要はどっちもどっちなんだけど、観光で行くようなエリアはケープタウンの方が安全。でも街全体で見れば、どちらも良し悪しき。もし低所得者層で住みたいのであれば、ケープタウンの方が暮らしにくいだろう、とある。
ケープタウンの郊外は、洪水や感染症、山火事のリスクが高く、犯罪率も高いのだ。(もちろんお金があっていいところに住めれば、そんな心配はしなくていいのだが)
本人の人種、滞在ステータス、所得、などによって、同じ都市でもだいぶ見え方が変わる。
同じ都市、同じ場所にいながら、それぞれが異なる現実を生きていることは、日々ここに住む南アフリカ人からも日々感じる。
「〇〇はこうだ!」と短絡的に処理するだけでなく、複雑性を見てみると面白いと思うのだ。
(というか、こういう面を面白いと思える人は、この国を本当に楽しめると思う)
「危ない」と一番騒ぐ人は、そこに行ったことがない人が多いように感じる
ダラダラと持論をたくさん書いてきたけれど、大学生の頃から、一人でイスラエル・パレスチナやらインドで夜行列車やら放浪していた私である。
マニアックな気質があるので、気に入った国は2回3回と足を運んで、しつこく現地の人と絡んだり、いろんな側面を見ることが好きなのだ。
南アフリカで暮らしたり、肌の色が自分よりも濃いパートナーと旅をすることがあると、自分の人種や国籍、ジェンダー、所得などによって、見える世界や体験することが大きく違うことに嫌でも気が付く。
同じ都市でもどんなところに行って、どんな人に会って、どんな体験をするかによって、全然違う印象を持つこともままある。
認知のギャップとは面白いものである。
いろいろと体験したり見聞きする上で思うのは、「危ない!絶対いかないほうがいい!」と拒絶反応をする人の多くは、その場所に行ったことがない人であることがほとんどである。
ある特定のスポットであればともかく、国や都市という非常に広い範囲全体がNo goエリアであることは、確かに滅多になく、大体のところには子ども連れの家族が暮らしているものである。
確かに警戒することは大事だ。
防犯をしずぎて困ることはほとんどないと思う。犯罪への対策、病気やハラスメント、自分のうっかりもあるうるわけで、準備することや調べることはとても重要だと思う。
ただ、そこに偏見や都市伝説が入り込み、歪んだ情報だけが流布されていると少し寂しいと感じることがある。
とはいえ、備えあれば憂いなし。
今週もまた、日々を楽しんでいきましょう!