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実家メルトダウン

駅に向かうため乗り込んだ実家の車のなかで、
僕はふと自分を恥じた。

「実家を離れたくなくて泣き喚く23歳の図、冷静に考えると地獄では?」
「いかん、この家にい続けてしまったら、永遠に僕は子供のままだ。」

帰省日記です。

シャングリラ

GWの約10日間、僕は実家に帰省していた。
実家は非常に落ち着く。玄関に入った瞬間僕を包み込む、嗅ぎ慣れた「生活」の香り。自分で用意しなくても食べられるご飯。催促されることで早く入ることのできる風呂。自動的に整う体内時計と体内時計。手を伸ばせばすぐ口に運べる大量のお菓子。そして何より、言葉を交わすことのできる誰かがすぐそこにいるという安心感。本当にありがたい………

ああ、まさに実家は天国(ヘヴン)である。理想郷(ユートピア)である。楽園(エデン)である。夢の国(ディズニーランド)である。違う。


食べたいのに、食べたいのに、痛い。

実は実家に戻る約1週間ほど前から、僕のお口の中には曲者が居候していた。口内炎である。こいつと僕は腐れ縁で、小さい頃から何かと僕と仲良くしようと近づいてくる。もはや愛着が湧きそうなほど僕の体に馴染んでしまっている存在だが、いや、普通に不快である。美味しいものは食べられないし、そのせいで栄養が取りにくくなるし、痛みで日常の全てが億劫になる。負の循環しかもたらさないので、やはりこいつは悪魔である。

かくして実家に戻ってきた僕は、この悪魔に対抗しうる武器を手にしたわけである。
規則正しい生活。バランスの取れたご飯。ストレスのたまらない環境。十分な睡眠。市販の塗り薬のおかげもあり、滞在4日目には討伐が完了していることに気づいた。もう戻ってこなくていいからな!あばよ!ばーかばーか!

このように、実家の力は凄まじい。
次にまたこいつが再生する事があればさっさと帰省しようと思う。
(とはいえ遠いので簡単に帰省できないので、頑張って対処します)


非常に副交感神経しか働かない。

このように、帰省の最初の数日はまだ実家の恩恵を素直に受け止め、楽しい、幸せだ、と感じられるままでいた。
しかし5日も経つと、若干の違和感が僕を襲うようになる。

頭が、思考を嫌がっている。
というか、思考をしない。
働いていない。
働かせるために、かなりのエネルギーが必要だということに気づいてしまったのである。


家事ももちろん手伝ってはいたが、しなければしなくとも無事に明日を迎える事ができる。
親が行っている祖父の介護も手伝っていたが、その場その場でできることをしているうちに時間は経ち、自分の時間を取る必要性を感じなくなる。
ようやく自分の時間が取れる夜でさえ、気づけばプロセカを叩いてしまっている(悪のシリーズ復刻ガチャが開催中のため石を貯めたかったのである)。

本当は勉強や読書、絵の練習、実家の片付けなど、普段一人暮らしでは家事のせいで集中できない活動に取り組もうと思ったのに、結局時間を無駄にしてしまう。

そもそも実家にいる時点でリラックスすることしかできないのだから、なかなか自分のやる気スイッチを自分で押すことができなくなる。
というか、自分の輪郭が安心して緩み切って溶け出して、スイッチを僕の奥深くに隠してしまう。

メルトダウン、である。


ピース「子」

それもそのはず、親がいる環境なのだから、「子」のピースとして実家空間のパズルに嵌まるわけである。
甘えてしまう。言い訳をしてしまう。「子」なのだから。今まではそうして長い間暮らしてきたのだから。

もちろん帰省にこの甘えを求めていたのは事実なので、叶うことは非常に喜ばしく、僕の活力を取り戻してくれる。
しかしながら、長くいればいるほど、安心は甘えに変わる。
人間として、大人として鍛えた僕の厚い表皮が、慣れ親しんだ温かさに溶け出してしまう。これではガス抜きを通り越して退化になってしまう。そんな危機感を僕は悟った。
実家は大好きだが、たまに帰る安全基地だからこそ良いのだ。
僕を僕たらしめるため、距離の取り方を考えなくてはならない。

このようなことを考えて、冒頭のような一言をふと親に呟いたのである。


冷たい土を欲して

普段一人暮らしされている方、あるいは実家を離れている方の中には、もしかすれば共感してくださる方もいらっしゃったのではないだろうか。
もちろん実家が安心できる場所ではない方、実家が必ずしも好きだと思っていない方がいらっしゃることも重々承知している。また、社会人でも実家暮らしの方は決して少なくはないだろう。
僕は今回の話を通じて、実家を離れて立派に一人で暮らすことが大事だと言いたいわけではない。
家族や実家といった「居場所」との理想的な関係性は我々一人一人違っている。自分にとってベストな関係性を自覚し、維持することこそが大事なのではなかろうか。今回の帰省で得た悟りであった。

僕は僕を僕たらしめるために、気を抜けば簡単に溶けてしまう僕の輪郭を、自ら冷たい土に身を寄せることで維持しなければならないと思った次第である。


最後に、この記事を読むことはないと思うけれど。
両親へ、いつもありがとう。
迷惑も心配もかけてばかりでごめんなさい。
なんとか一人前の大人目指して頑張るので、見守っていてください。



あ、追記。
Twitterアカウントを作りましたので、よろしければそちらもぜひご覧ください!より日常的なネタも呟いていければなと思っています。よろしくお願いいたします。


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