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調剤薬局の会話って必要ですか?


 僕は接客業です。今までの仕事の大半も、接客業です。
 だから、接客の大切さというのは身に染みてわかっている。逆に、接客が売上またはお客さんとの関係に害を及ぼす経験も、何度もしている。
 そのうえで言いましょう。
「調剤薬局の会話が鬱陶しくて仕方ない」と。

 まずは、本題の前にひとつ話をしましょう。
 接客において個人的に不要だと感じているものに、たとえばアパレル店の「急に寄ってくる店員の接客」がある。
 夫婦で似合う似合わないコレと合わせる家の服がどうこう、と楽しく見ているのに、急にミック・カーンのカニ歩きバリにフェイド・インしてきて「それねー、人気あるんですよー」。
 え?
 人気どうこうとか、聞いてないんだけど?
 それ以前に、どうしてズケズケと会話に割って入ってくるの?
 てか急に誰?
……というふうに、もう「普通の人付き合いとしてアウト」に感じてしまう。だって道端で井戸端会議してる奥さんふたりの間に「いやそれにしてもあの店は高いよねー」って割って入ったら、どうですか? まず間違いなく奥さんたち、怪訝な顔して「あ、ああ。ええ」とか言って会話中断。しかるのち「じゃあ、またね」で解散。
 はっきり言って「邪魔」でしょ?
 だから僕はアパレルの接客が苦手だ。
 そりゃもちろん、見つけていなかったアイテムや在庫品を出してきてくれたり、アドヴァイスが役に立つこともあるよ。でも総じて「うるせぇよ邪魔すんなよ」と感じることが90%以上。
 はっきり言って「内容とタイミングが悪い」。押し付けがましく感じること多々で、こっちの構想を思いっきりブチ壊して自分の好みや店の推しをゴリ押しする人も多い。
 ましてよく言われるけど「購入後のお見送り」はもっと不要。自分に対してデパートでロレックス買ったんじゃねぇんだからカッコつけんなよ俺、と思って恥ずかしくなる。
 そんなこんなで「その接客は必要なの?」と思ってしまう。毎回毎回。
 そりゃあ似たようなデザインで格安で店員も聞かれるまで対応しないファストファッションのほうが買いやすいよね。アパレルの客離れには、実はこの面倒臭さも少なからず関与していると思うぞ。

 で。
 本題に戻ります。「調剤薬局の接客」ね。

 そもさん、調剤薬局とは「処方箋をもとに薬を出す薬局」。病院のすぐそばとかにある、いわゆる「お抱え薬局」ですね。
 そこでは薬を出してくれる際、お会計の前に「必ず」何かしかの会話があります。薬の説明とかだけじゃなく「痛むんですか?」とか「この薬を続けて調子はどうですか?」とか。
 これが、極端にヘタクソな薬剤師さんが実に多い。
 薬の指導を兼ねているのは、わかります。薬剤師目線から処方箋に疑問を抱くのも、わかります。薬の飲みすぎとか逆に飲まないのを心配するのも、わかります。薬剤師も人間、会話もお仕事、わかります。
 でもね、患者も人間です。当然ですが。
 前述のアパレル店員のように「それはどうなの?」という感情、当然抱くんです。

 そこそこの会話で済ませればいいのに、やたら聞いてくる人。
 飲み合わせとか食事とか薬の回数とか、やたら説明過剰な人。
 患者に話をさせておきながら、やたら自分の知識や経験を押し付けてくる人。
 知りもしない病気なのに聞いてきて「あー」とか相槌打って、ごまかそうとしているのが感じられる人。
 めちゃくちゃツラそうにしてるのに、詳しく説明するわ話したがるわ座らせてくれないわと、融通が利かない人。

……基本的に「会話になっていない」と感じるのに、会話をしなきゃいけない。それが苦痛なんです。
 もちろん、適度にうまい接客をしてくれる方もいます。でも圧倒的に「その会話、必要なの?」と感じることが多い。特定ではなくどこの薬局でも、です。

 こう感じてしまうのも、僕は「群発頭痛」というあまりメジャーではない持病を抱えています。
 そこがそもそもの原因なのだけど、薬剤師さんの大半にこの病の知識がなく、処方箋を見て「ああ偏頭痛の人ね」ぐらいの対応で入ってくるのが、肌で感じられる。

「他の薬は効かないんですか?」って、群発頭痛にはイミグラン(スマトリプタン)しかないの!
「基本は1日2回までなので……」って、多い人は1日8回の激痛があるって知って言ってるんですよね?
「頭痛はツラいですよねー」って、群発頭痛は三叉神経痛の仲間なのに、間違いなく「普通の頭痛の基準」でしょ?
「この薬は要るんですか?」って、そんな話も患者が詳しくしなきゃいけない? 医者でもないのに?
「どんな病気なんですか?」って、ひとことで言えないから患者に聞かないで次に来るまでに勉強してくれ!
「お医者さんは何て言ってるんですか?」って、会話のツナギじゃないよね? 本当に気になるなら直接聞くよね?

 しょっちゅう、患者のために言っているのか、自分の責務のために言っているのか、それともただ言いたいだけなのか、わからなくなる。
 ひどいケースでは、これを合わせ技で使う人がいる。
 以下、本当にあった対応。カギカッコ内部は「薬剤師」で、無表記が僕。(カッコ内)は僕の心の声です。


「はいお待たせしました。いつもこの薬みたいだけど、量が多いですね。使用頻度は減っていますか?」
はい、最近は減ってきています。

「1日何回ぐらい使いますか?」
(基本は2回までだけど、どうしてもそれ以上使うことがある。でも正直に言うとその指導が入るから、ぼやかさないと……)
まぁ、2回とか、減ってきてますね。

「他の薬は効かないんですか?」
(は? 群発頭痛がロキソニンで収まると思ってるの?)
これしか効かないんです。

「どのぐらい痛いんですか?」
(間違いなく、片頭痛患者の対応だな。言わなきゃ延々と続くぞ)
群発頭痛なので、一般的な頭痛や片頭痛とは比較にならない痛さです。

「群発頭痛って何ですか?」
(は??? もうやだ、何も言わない!)
…………。

「それ以外の、他の薬は要るんですか?」
(イミグラン錠は点鼻と併用。ワソランは群発頭痛に必要。ビタミン剤は耳鳴り用。ロキソニンは気圧などで起こった偏頭痛症状や通常頭痛用。それを全部いちいち説明しなきゃいけないの?)
……はい。

「そう。じゃあお薬の説明ですけどね」
(えーっ、ここまで話してやっと説明なの?)
……はい。

「この薬は食後でアラこれも食後ねそれでこっちは頓服だから痛い時とかかしらそれでこれが一番多いやつが痛む時そうねこれが基本になるのね使用方法とか大丈夫かしら点鼻ってやったことあります?」
(本編の薬の説明が早口でおざなりすぎる。そのうえ、ここで確認しながら説明してる。しかも点鼻を「いつもこれみたいだけど」と言ったのに、使用方法って……)
……はい。全部もう大丈夫ですから。

「たくさんあるから、飲みすぎないようにしてくださいね」
(わかっとるわ! 子供じゃねえんだから!)
……はい。

「はいそれじゃお大事になさってくださーい」
(事務的にするなら全部事務的にしてほしかった)
……はい。どうも。


 と、いうように。
 もはや「話す気力もなくなっちゃう」のである。
 でも、あちらさんの仕事としては、とりあえず説明義務も果たしてるし話もしてるし指導みたいなものも入ってるし、まあきっと「ちゃんとやってる」つもりなんでしょう。
 でもね、これが「会話」としては、完全に破綻してるんですよ。自分の言いたいことばっかりぶつけるのは「会話」ではない。ただの「話」です。「人間」と「人」の違いみたいなもんで、相互作用がないと「会話が成り立たない」わけなんですよ。
 だから薬剤師のクロージングとしては、問題ないんでしょう。でも会話となると、どうなのか? しかも知識不足と憶測も多々あり、薬剤師としてどうなのか? まで考えてしまう。
 これが調子や言葉を変えれば、印象はまるで違う。
「他の薬は効かないんですか。偏頭痛ではないんですか?」と言ってくれれば、群発頭痛だと話せるので勝手な憶測をぶつけられずに済む。
「群発頭痛のことはよく知らなくて、すみません。患者さんのほうが詳しいかもしれませんね」と言ってくれれば、そりゃ薬剤師だって人間だから知らないこともあるよねと思える。
 実はこのふたつ、他の薬剤師から実際に言ってもらった言葉です。これらの会話は、まったく違和感も不満もなくスルーできました。
 そう、薬剤師の多くは「スルーできない圧」で話を迫ってくるから、イヤになるんだよね。
 でも日常会話ってさ、意図的にスルーしちゃうこともあるでしょ? そういう時は「いわゆる空気」で流れを調整する。
 で、薬剤師の話は「会話」じゃない。そこが違和感だったわけだ(←書いてて自分でわかってきた)。

 僕はいつもツンケンしてるわけじゃなく、むしろ道を歩いていたら「駅に行きたいんだけど、どっちですか?」と聞かれちゃうほうです。自分も出先で、しかも方向音痴なのに。
 だけど、病院や薬局ではこんなことが多い。電話で問い合わせる際、受付に全部話したのに電話を代わった人が何も聞いてなくて、またすべて説明し直すとか。伝達せぇよ。
 相手と話し、相手に伝える。そんな基本的なことだけ守れれば、そんなことないんだけど、なぜか病院と薬局はそれが異常に多い。
 でもこれ、日常会話と同じだと言ったけど、つまりは「自分もしちゃってる可能性がある」ってことでもあるんだよね。それを確認できるのが病院・薬局。そう思えばいいのだろうか。
 むー、結論が出ない……。

 そんなわけで。
 会話は大切。でも、会話にならない話は退屈。
 心がけひとつでいくらでも変わるし、それが仕事であるなら磨かなくちゃ。
 がんばってる薬剤師さんが意見交換しているページや、薬剤師向けのアドヴァイス・ページなども多くある。中には漫画で「患者との会話の大切さと難しさ」を説明しているページもある。
 だから薬剤師の皆さん、がんばれ。「接客」の観点でお願いします。

 そんなふうに感じて自分を見つめ直した、接客業の夏でございました。
 ああ早く収まってくれよ群発頭痛……(ブツブツ)。

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