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わたしがひとの台所を見せてもらうわけ

「あなたの台所を見せてもらえませんか?」
そんな質問をしながら、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の取材を続けている。知り合いや友人のつながりで、彼らの台所を訪れることができるのは、毎回の善意のおかげだ。
台所はただの調理場ではない。その空間にはその家族の生活、歴史、そして彼らの魂までもが宿っている。調理道具ひとつひとつに、その土地の文化や時代背景が刻まれているのだ。

びっしりと旅先のマグネットが付く家主の冷蔵庫

リトアニアのとある家では、美しい装飾が施されたミートハンマーを大切に使っていた。
「このミートハンマー、特別なものですか?」と聞くと、家主は語り始めた。
「これは、シベリアに抑留されていた祖母のいとこが、1950年代に持ち帰ったものなんです。その後、祖母から私に譲られて、今は私が大事に使っています」
歴史の重みが、冷たく重いミートハンマーを通じて私にも伝わってくる。

シベリアから持ち帰ったミートハンマー
肉を叩く

台所という場所が、彼らの個人的な記憶や歴史を包み込んでいることに気づかされる瞬間がある。シベリアに抑留された家族の苦しみや、ソ連時代の食糧事情を思い出しながら語るとき、涙を浮かべることも少なくない。それは、バルト三国が経験してきた長い屈辱的な歴史が、今も世代を越えて深い傷を残しているからだ。

ウクライナは2022年からロシアとの戦争を続けている。その姿をバルト三国の人々は、決して他人ごととは思っていない。彼ら自身もかつて、国家滅亡の危機に立たされた経験があるからだ。国を失えば、アイデンティティも失う。だからこそ、彼らの生活や文化が、戦争の影に消えてしまわないように、記録しておくことが大切だと私は感じている。

バルト三国は小さな国々だ。世界的に影響を与えることは少ないかもしれないが、彼らが確かに「ここに存在している」という事実を多くの人に知ってもらうこと。
それこそが、この先の戦争や危機に瀕したときに他国の人々が手を差し伸べるきっかけになるはずだ。
だから、今日も私はまた扉の向こうにある物語に触れるのだ。

叩いた肉で作った料理


#未来のためにできること

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バルトの森
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