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世界最強・アメリカ女子サッカー代表が立ち向かった、未来を変えるための闘い【映画『LFG-モノ言うチャンピオンたち-』レビュー】

20年前から彼女たちは闘っていた

アメリカ人女性の強さに初めて触れたのは、19歳のときだった。当時の私は大学の休みを利用してサンタモニカのユースホステルに宿泊しながら、語学学校に通っていた。そこはとても大きなホステルで、ロサンゼルス観光ツアーなど、毎日なにかしらのアクティビティが行われていた。

ハロウィンが近ついてきたある日、ジャック・オ・ランタンを作るワークショップに参加した。アメリカ人女性のレクチャーを受けながら、10人ほどの出身国も年齢も異なる宿泊者で楽しくカボチャをくり抜き、ホステルに飾るランタンを作った。

人生初のジャック・オ・ランタンが完成し、すっかり打ち解けた参加者たちと仲良く片付けをしていた時、20代後半くらいの男性が「君、日本人?僕、スシバーに行きたいんだけど、作法がわからないから一緒に行ってくれない」と話しかけてきた。

「学校が忙しい」とか、「寿司はあまり好きではない」とか、やんわりと断っていたのだが、これが案外しつこい。英語もつたなく、はっきり断れずに困っていると、それまでやさしい笑顔で場を明るくしていた講師から突然表情が消えた。「出て行きなさい!彼女、嫌がっているじゃないの」と男性を睨みつけた。

驚いた男が飛び上がるようにその場を去ると、今度は私の方に向き直り、にっこりと笑ってこう言った。「あなたもダメよ。この国では、自分の意志をはっきり言わないと」。

強烈な原体験だった。「かっこいい!こんな女性になりたい」。その日から彼女は、私のロールモデルになった。

その数年後、アメリカ女子サッカー代表は初めて世界の頂点に立った。

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「横浜フットボール映画祭」で上映される『LFG-モノ言うチャンピオンたち-』。この映画を観て、あのときの衝撃が鮮やかに蘇ってきた。ナンパ野郎を追い払ってくれたあの時の女性が、この映画に出演しているサッカーアメリカ女子代表のDFカリー・オハラ選手にどことなく似ていたからかもしれない。

映画『LFG-モノ言うチャンピオンたち-』

(あらすじ)
アメリカ女子サッカー代表はワールドカップ、オリンピックそれぞれ 4 回優勝の最強チーム。男子代表にはない偉業を達成している彼女たちの待遇は、どうして彼らより低いのか!?ミーガン・ラピノーを筆頭に「イコールペイ」を求めて立ち上がったアメリカ女子代表。2019 年女子 W 杯優勝の裏で起こっていたピッチ外の闘いに迫る!

アメリカでは女子サッカーが文化として確立している


女子サッカーの取材に携わってきた者として大変お恥ずかしいのだが、アメリカ女子代表は、日本のずっと先を走っている存在だと思っていた。まさか代表選手が日々の生活費の支払いに追われ、小銭をかき集めるような生活をしているとは想像だにしていなかった。

以前、当時なでしこリーグの伊賀FCくノ一に所属していたU-23米女子代表シム・マレアナ選手にアメリカ国内リーグの話を聞いたことがある。

「私が所属するポートランドはとても恵まれています。大きなスタジアムがあり、ロッカールームも美しいし、セキュリティも完璧です。200人くらいのスタッフがいて、用具や水等のメンテナンス、身体のケアも完璧に行ってくれるので、選手はサッカーに集中できます。ファンにも恵まれていて、ホームゲームには平均1万3千人くらい※の観客が観に来てくれます。
※ 2015年のポートランドホームゲームの平均観客数は15,639人。リーグ平均は5,046人。」

https://sportie.com/2016/01/womens-soccer3

マレアナ選手が所属していたポートランド・ソーンズFCは人気チームであり、競技環境にも恵まれていた。私はその一面だけを見て、アメリカにおける女子サッカーの地位は日本よりも数段高いと思い込んでいたのだ。


さらに、2015年カナダワールドカップ決勝 なでしこジャパンvsアメリカ代表。アメリカからバンクーバーまで駆けつけた約5万人のファンで埋め尽くされた観客席、試合後のピッチで選手たちが子どもたちやパートナーと喜び合う姿を目の当たりにして、「アメリカ女子サッカーの“文化力”」(←変な日本語ですね)に圧倒的な敗北感を感じた。

2015年のアメリカ代表には、9人の既婚選手と3人のママ選手がいた。一方のなでしこジャパンの既婚選手は永里優季選手のみ、子どものいる選手は1人いなかった。アメリカでは女子サッカーが文化として浸透しているし、女性の社会進出も進んでいる。日本の女子サッカーが学ぶべきロールモデルだと考えていた。


世界チャンピオンの現実

だが、現実は違っていた。『LFG-モノ言うチャンピオンたち-』で描かれたアメリカ代表選手の競技環境は日本のプロ選手より厳しく、女性アスリートはさまざまな差別や批判にさらされている。

この映画を観て、想像していたアメリカ代表と現実のギャップに非常に驚いた。そして、その理不尽な状況に断固として「NO!」を突きつけ、闘い続ける彼女たちの強さに勇気をもらった。

あのハロウィンの日と同じだった。

自分の意思をはっきりと主張し、自分たちの価値を信じ、未来の子どもたちのために、闘っている。ナンパ野郎に対しても、雇い主に対しても、大統領に対しても、決して屈することはない。

あいかわらず、カッコ良すぎる。

けれど、私もいまは、アメリカ人女性に守られるだけの、憧れるだけの、か弱い女の子ではない。毅然と「NO!」を言うこともできるし、闘う精神力や技術も身につけた。なにしろ、私たちの代表チームは、2011年のドイツワールドカップで、その強いアメリカに勝利したのだ。

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「私たちはサッカー選手で、女性アスリートだが、それ以上の存在だ。そして、あなたもそれ以上の存在だ。皆の力で世界を変えよう」

2019年のワールドカップ優勝パレードで、ラピノー選手はそう呼びかけた。

この映画は、アメリカの、女子サッカーの、男女間の待遇格差解消の闘いの物語だが、それ以上の物語だ。「イコールペイ」を勝ち取っただけで終わらせてはいけないし、ラピノー選手は強い、アメリカ代表チームはすごい、というだけで終わらせてもいけない。「この国では」でもない。

日本でも、女子サッカー以外でも、より良い世界を作るために、今度は私たちが
彼女たちから受けた勇気あるパスを次の世代へつないでいく番なのだ。私たちも、それ以上の存在なのだから。

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『LFG -モノ言うチャンピオンたち-』
<作品情報>
USA|2021年|1時間45分
英語/日本語字幕 English
監督 ショーン・ファイン、アンドレア・ニックス・ファイン
©Change Content


<上映スケジュール>
ヨコハマ・フットボール映画祭2023 HP https://yfff.org/film/lfg/


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