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組織開発×プロセスワークVol.2~組織の変化を見立てる~

プロセスワークを活用した組織開発の第一歩として、「組織の見立て」に関するアプローチ方法を紹介していきます。

"正しい見立て"がなければ、"正しい打ち手"はありません。
プロセスワークの個人と集団の変容モデルをベースに、組織開発の土台となる「地図(マップ)」、実際に見立てをしていく際に活用できる「問い」について解説していきます。


ディスターバーとアトラクター

組織の変化を見立てる際にまず着目すべきは「変化を促す二つの主要な力」となるディスターバーとアトラクターの存在です。企業が組織開発に取り組む場合、その多くは時代の変化やビジネスの衰退、市場・技術の変化やモデル転換の圧力といったディスターバー(危機・脅威)から引き起こされます。ただ、危機意識は個人によって相当大きな認識ギャップがあるため「何が組織の変化を促しているのか?」に関する共通認識を持つことが出発点となります。

一方、危機感だけだとどこに向かっていくべきかわからず変革が失敗する、変化への抵抗が起きたときに乗り越えることができないことが往々にしてあります。そこで、進みたい未来へ変化を生み出すビジョンとしてアトラクターの存在が明確になると組織開発に取り組みやすくなります。最近よく話題に挙がるパーパスもアトラクターの一つとなります。

1次プロセスと2次プロセス

プロセスワークの変容モデルでは、どの組織もそれぞれ相対的に慣れ親しんだアイデンティティ(1次プロセス)を持っており、そこから個人も集団(関係性)も未知のアイデンティティ(2次プロセス)へ移行していくと考えます。

しかし集団の変化は個人に比べて労力や時間が必要です。また、1次プロセスから2次プロセスへの移行は目に見えづらく、絶えず変化し続け、揺れ戻しもあります。人によって様々な見え方をするからこそ、「これまでの私たち」と「新たに立ち現れ始めている私たち」に、より自覚的に意識を向けていくことが大切です。

例えば人生のライフサイクルの視点からカップルの変容を見てみるとイメージしやすいかもしれません。カップルは2人でいる自由な関わり(1次)が終わり、結婚して社会の制度の中に存在する妻と夫、夫婦、家、という新しい役割(2次)が始まります。程なくして子供を授かる場合には、2人の関係における「私」(1次)が終わり、母や父という新たな役割が登場(2次)します。人生の後半であれば、組織の中で活躍が求められる「私」(1次)が徐々に終わり、これまで生きてこなかった趣味や家族との交流など次なる展開が始まるでしょう(2次)。こうした変化のタイミングはエッジに向き合う期間となるので、「〜がしたいのにできない」「自分の価値はどこにあるのだろうか?」など内的にも一時的に葛藤が深まると考えられます。

ビジネス文脈で考えれば、ディスターバーにより両効きの経営が求められるタイミングでは、既存ビジネスを回し安定している状態(1次)から、探索や深化の方向へ(2次)向かいたいところです。エッジには、リソースや工数不足、新規や深化の種がない、方向性が掴めない、そもそも経験がないので何から始めればいいのかわからない、新しいことを始める許容が文化として根付いていない、など様々な要因が生じてくるでしょう。

エッジ

1次から2次の変化の中で直面するのがエッジ(変化を阻害する要因)の存在です。組織開発において、価値観や信念、企業文化や常識・社会通念、人間関係や組織間の対立などのエッジを明確にし適切に扱うことが必要不可欠であり、ここがプロセスワークの真骨頂とも言えます。

エッジは既知と未知を分ける境界であり、変化するにあたって必ず存在するものです。ただし必ずしもすべてのエッジを超えなければならないわけではありません。存在することで安定を生み出しているものもあります。

一方でエッジは変化のエネルギーに満ちているポイントであり、エッジを扱うことは根幹となる組織のパターンを変化させていくことに繋がるため、エッジを適切に扱えるかが組織開発の成否を分けます。

エッジは意識化されにくいため、エッジを放置すると意思決定がブレる、強引に押し進めた結果、何度も同じ抵抗にあうという事象が起きます。エッジがあると罪悪感を持ったり、超えねばならない!となったりしますが、まずはエッジの存在を理解し、気づき、肯定するところから変化が始まります。

そして、「今、変化のための重要なポイントにいる」と全員で言葉にして共有すること、エッジへの自覚が高まったところで、何が起きているかを対話するフェーズへ入っていきます。

エッジは個人の中にもありますし、チームや組織といった集団・システムにも存在するものです。ビジネス文脈でよく見られるエッジの一例として、チームが変化を起こそうとしているときに、主要ステークホルダー双方が深くコミュニケーションできていない、という状態は多く見かけます。「コミュニケーション」が問題である、と聞く場面が多くありますが、それは組織のエッジそのものだからと言えるでしょう。

階層間や部門間のコミュニケーションのすれ違いは、典型的なエッジになります。例えば、ある事業経営チームにおいては厳しい環境と対峙する中で、事業を守るための意思決定をしていました。しかし、組織の幹部にその様子は見せることがなかったため、幹部は自分たちのことは考慮されていないと考えていたのです。組織開発コンサルタントは問題や課題を整理しつつ、双方の視点を明示し、それぞれの想いを聞き合う対話の場をファシリテートすることができます。ときに熱が高まるシーンですが、誤解が解消され双方の願いが一致するとき組織の活力は引き出されます。さらに、ここに新しい「コミュニケーション」パターンが成立した(2次プロセス)ことをはっきりと当事者に意識化してもらうように働きかけます。新たなコミュニケーションは、新たな関わり、新たな働き方やアイデアを生み出します。その組織やチームに準備が整っていれば、新しく始めるアクションも具体的に決めていくよいタイミングとなり、変革は後戻り(サイクリング)することなく大きな一歩を進めることになります。

個人や組織がエッジにいることは、本人も周囲も気づきにくいものです。そこで特徴的な行動(シグナル)を理解することが、エッジに意識的に近づく助けになります。(同時に、エッジに向き合うこと自体に対する恐れも多く存在するため、より自覚的に向き合うことも必要となります。)ぜひ、自分たちがエッジにいることに気づき、今ここから変化に向き合っていくために下記を参考にして組織内で対話を始めてみましょう。

組織変革に周囲(現場)を巻き込むヒント

最後にこの地図(マップ)を持ちながら、現場を巻き込んでいくのに役立つフレーム「ペイン・プレジャー・マトリックス」をご紹介します。

どれだけ組織のパーパスやビジョン(アトラクター)を描いても、あるいは、組織の変化を促す危機や脅威(ディスターバー)があったとしても、変化への抵抗(エッジ)は必ずおきます。何よりも、個人や集団の中には「変わらない方が安全」という意識が強く、1次プロセスにとどまるエネルギーが大きくなります。
つまり、「変化しないことのメリット」よりも「変化するメリット」の方が大きいことが変革が起きる条件であり、組織の中で合意されているかという共通認識が必要になります。

そこで忘れてはいけないのが、組織変革には仕掛ける側(主に経営・人事・変革リーダーetc.)と被る側(現場、反対派etc.)の立場が存在することです。
だからこそ、ペイン・プレジャー・マトリックスでは、変革を仕掛ける側の視点ではなく、変革を被る側の立場に立って分析していくと現場を巻き込むヒントが見えてきます。

ぜひこのフレームを活用して現状把握と打ち手の検討を行い、より多くのメンバーにとって身近に感じられる具体的な価値やメリットは何かについて対話してみてください。

ここまで、組織開発に取り組む上で重要な「地図(マップ)」と現場で活用いただける「問い」について話をしてきました。「打ち手」を検討する前に、「見立て」を深めることで、組織開発を成功に導いていきましょう。

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